{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は「EUのコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)に関するFAQの公表」についてご紹介します。
2024年7月25日、EUのコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive(CSDDD))(Directive 2024/1760)(以下「本指令」といいます。)*1が発効しました*2。本指令は一定の売上高等の要件(以下「対象企業要件」といいます。)を充足する対象企業(EU域外企業を含み、以下「適用対象企業」といいます。)に、自社及び子会社の事業並びに「活動の連鎖」(chain of activities)(定義は後記3.(3)参照)におけるビジネスパートナーの事業に関する人権及び環境のデューディリジェンスの実施や開示等を義務付けるものです。本指令に基づき、EU各加盟国は、2026年7月26日までに本指令の内容を含む国内法を制定することが求められます。
2024年7月25日、欧州委員会は、本指令に関するFrequently asked questions(以下「FAQ」といいます。)*3を公表しました。FAQは、後述のとおり、法的拘束力を有するものではなく、EU加盟国や適用対象企業に対し、直接的に適用されるものではありませんが、本指令の内容を改めて解説し、また補足的な説明を公的に記載していることから、適用対象企業又はその「活動の連鎖」(chain of activities)に属する企業にとって、参照することが有用であると考えられます。
そこで、本ニュースレターでは、FAQの位置付けとともに、その概要等を説明します。
欧州委員会が公表するFAQは、法的拘束力を有するものではなく、EU加盟国の立法機関や裁判所、規制当局も、直接的にこれに縛られるものではありません。もっとも、FAQは、一般的にEU法を解釈する際に参照されるものであることから、FAQが示す解釈に則って本指令を理解することが第一義的には有用であると考えられます。
また、FAQは、本指令に関して最初に公表されたもので、未だ包括的で詳細なガイドラインとはなっていません。むしろ、本指令の内容についてのハイレベルな要点に加え、本指令の背景や想定されるインパクト等について説明するものであるといえます。この観点からは、適用対象企業及びその「活動の連鎖」(chain of activities)に属する企業が、本指令の目的や背景、企業に課される義務の内容等を改めて確認することにより、それぞれの事業活動に対する影響を評価し、今後の体制構築等に活用することが有用です。
本指令は、近時EUにおいて行われている人権尊重及び環境保護を目的とした取り組みを補完するものであるとされています。その上で、本指令は、EU域内及び域外の大企業のサステナビリティ・デューディリジェンスに関する一般的な枠組みを構築するもの(いわゆる一般法)であり、同じ目的を有するセクターごとの法規制がより広範な又は具体的な義務を規定している場合には、後者の法規制(いわゆる特別法)が優先するとされています*4。
また、本指令は、一定の義務に関して、既存の法規制を参照しています。例えば、本指令は、デューディリジェンスに関する開示については、EUの企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive(CSRD))(Directive 2022/2464)に準拠するものとしており、これにより、本指令及びCSRDの双方の適用対象となる企業について、開示規制の適用が重複することを回避しています*5。
本指令の適用対象企業は以下のとおりです。FAQでは、これらの対象企業要件を2事業年度連続で満たす場合にのみ、本指令が適用されることが改めて指摘されています。
また、FAQは、EU域内企業について約6,000社、EU域外企業について約900社が以下の対象企業要件を満たし、本指令の適用対象企業になるとしています。
EU域内企業 | EU域外企業 |
(a)直近事業年度における全世界での純売上高が4億5,000万ユーロ超であり、かつ平均従業員数が1,000人超の企業 | (a)直近事業年度の前年度におけるEU域内での年間純売上高が4億5,000万ユーロ超の企業 |
(b)連結グループ単位で上記(a)の閾値を満たす企業グループの最終親会社 | (b)直近事業年度の前年度において、連結ベースで(a)の閾値を満たす企業グループの最終親会社 |
(c)EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結している企業又はグループの最終親会社で、直近事業年度における、EU域内でのロイヤルティが年間2,250万ユーロ超、かつ全世界での純売上高が8,000万ユーロ超の企業 | (c)EU域内のフランチャイズ又はライセンス契約を締結している企業又はグループの最終親会社で、直近事業年度の前年度における、EU域内でのロイヤルティが年間2,250万ユーロ超、かつEU域内での純売上高が8,000万ユーロ超の企業 |
対象企業要件を満たさない中小企業(以下「中小企業」といいます。)は、直接的には本指令の適用対象とならないため、本指令により課される義務や責任を負うものではありません。
もっとも、FAQは、中小企業であっても、適用対象企業の「活動の連鎖」(chain of activities)における直接的又は間接的なビジネスパートナーとして影響を受ける可能性があると指摘しています。具体的には、中小企業は、実際の又は潜在的な負の影響に関する情報を収集・共有するよう依頼を受けたり、適用対象企業の義務に沿った形でそれらに対処するよう求められたりすることがあり得るとされています。
FAQは、本指令により課される義務、罰則及び民事上の責任は、適用対象となるEU域内企業とEU域外企業の間で差異はなく、同一であると指摘しています。
対象企業要件についても、主な要件は同一とされていますが、以下の点には違いが設けられています。
なお、FAQは、EU域外企業について従業員数要件が設けられていない理由として、EU域内企業と異なり、多くのEU域外企業には、従業員数を報告する義務がなく、また、従業員の定義が国際的な基準と大きく異なる可能性があることから、従業員数の確認が非常に複雑となり得る点を挙げています。
本指令の適用対象企業には、人権及び環境に係るデューディリジェンスを実施する義務が課せられます。適用対象企業は、自らの事業又はその子会社の事業のみならず、「活動の連鎖」(chain of activities)におけるビジネスパートナーの事業から生じる人権及び環境への負の影響もデューディリジェンスの対象とするものとされています。
ここで、「活動の連鎖」(chain of activities)とは、企業の事業に関する上流及び下流の事業活動であり、本指令では、以下のとおり定義されています。
FAQは、これらの上流及び下流のビジネスパートナーについて、以下のとおり、それぞれ具体例を挙げて説明しています。
適用対象企業 | 上流のビジネスパートナー |
衣服製造業者 | 衣服の製造に用いられる生地を生産する織物工場 |
自動車製造業者 | タイヤ製造業者(直接の上流のビジネスパートナー) タイヤの製造に用いられるゴム製造業者(間接の上流のビジネスパートナー) |
適用対象企業 | 下流のビジネスパートナー |
衣服製造業者 | 完成した衣服製品を消費者に対して販売する小売店 |
本指令が定める企業の義務履行を促進するため、業界団体又はマルチステークホルダーのイニシアチブは重要な役割を果たすと考えられています。FAQは、これらのイニシアチブが、企業がリソースを確保すること、協働して行動することにより、バリューチェーンにおいて有意義かつ積極的な変化をもたらすための影響力を強めることに繋がると指摘しています。
ただし、FAQは、特定のイニシアチブの選択及び最終的なデューディリジェンス義務の履行については、企業自身が責任を負う点に留意すべきことの重要性も併せて指摘しています。
FAQは、本指令の個人に対する主な利益として、以下のものを挙げています。
本指令により、EU市場で事業を行う企業は初めて、コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンスに関する明確な共通のルールを持つこととなりました。
FAQは、本指令の企業に対する主な利益として、以下のものを挙げています。
また、FAQは、企業の競争力が、バリューチェーンにおける持続可能なプラクティスを確保する能力にますます依拠することとなると指摘しています。
すなわち、顧客は、持続可能で責任ある調達がなされた製品やサービスを求め、購入行動における選択をますます意識するようになり、従業員(特に若年層の従業員)は、雇用主のサステナビリティ・パフォーマンスに敏感であると指摘しています。同時に、投資家は、投資機会を探す際に、サステナビリティに関する問題を、より考慮するとしています。
FAQは、本指令により、適用対象企業の「活動の連鎖」(chain of activities)の一部分を構成している企業が所在するパートナー国に対して、多様な利益をもたらすことが期待されると指摘した上で、以下のような例を挙げています。
本指令は、欧州委員会に対し、FAQの他にガイドラインを発行するよう求めています。具体的には、企業又はEU加盟国当局に対し、企業が実践的にデューディリジェンス義務を履行するための方法について、一般的なガイドライン及び特定のセクター又は負の影響に関するガイドラインの発行が予定されています。
これらのガイドラインには、本指令が定めるデューディリジェンスを実施する際のベストプラクティス(特に、負の影響の特定プロセス及び優先順位付け、責任ある取引停止、是正のための適切な措置、ステークホルダーの特定及び対話など)、義務を履行するために利用可能なデータ及び情報の参照先などが要素として含まれることとされています。
具体的には、各ガイドラインは以下のようなスケジュールでの発行が予定されています。
ガイドラインの概要 | 発行予定時期 |
デューディリジェンス実施の方法に関するガイダンス及びベストプラクティス | 2027年1月26日 |
企業レベル及び事業運営の評価、地理的リスク、製品・サービス及びセクター別のリスク(紛争の影響を受ける地域や高リスク地域を含む)等の評価に関するガイダンス |
|
義務を履行するために利用可能なデータ及び情報の参照先、デジタルツール及び技術 | |
気候変動緩和のための移行計画に関する実践的なガイダンス | 2027年7月26日 |
営業秘密等を保護しながら、義務を履行するためのリソース及び情報を企業内外において共有する方法に関する情報 |
|
デューディリジェンスの過程におけるエンゲージメントの方法に関する、ステークホルダー及びその代表者のための情報 |
また、本指令は、ガイドラインに加え、企業による本指令に基づく契約上の対応を促進するため、欧州委員会に対し、任意のモデル契約条項を作成することも要請しており、当該モデル契約条項は、2027年1月26日までに作成される予定です。
日本企業においても、自社又は子会社がEU域外企業の対象企業要件を充足することが見込まれる場合のみならず、適用対象企業となる他社のバリューチェーンを構成する場合にも備えるため、本指令への対応について、可能な限り早期に検討を開始する必要があります。具体的には、現状の把握や今後の取組み方針(ロードマップ)の策定、社内体制の整備、本指令に適合した人権・環境デューディリジェンス・ポリシーの策定及び当該ポリシーに基づくデューディリジェンスの実施などについて、弁護士を含む専門家のアドバイスを受けながら、早期に対応していくことが必要となります。
かかる観点から、本指令において適用対象企業にどのような義務が課されているのかを把握しておくことが極めて重要です。FAQは、包括的で詳細なガイドラインとはなっていませんが、本指令における主要な内容を理解し、各企業が検討を開始するにあたり、その参考資料となるものと考えられます。
今後、追加で公表されるガイドラインやモデル契約条項に加え、各国で法制化が進められる国内法など、本指令に関する動向には引き続き注目していく必要があります。
*1 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ:L_202401760
*2 CSDDDの概要については、当法人の2024年9月のニュースレター(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20240926-1.html)をご参照ください。
*4 特別法の例として、関連セクターにおける森林破壊防止の枠組みを示し、特定の製品に関するデューディリジェンスについて、より具体的なルールを定めるEUの森林減少防止に関する規則(Regulation (EU) 2023/1115 on deforestation-free products(EUDR))が挙げられています。
*5 CSRDの適用対象となっていない企業については、本指令が簡略化された開示枠組みを規定することにより、既存の法規制を補完しているとされています。