2015年9月に開催された持続可能な開発サミットにおいて、国連加盟国により持続可能な開発目標(SDGs)を含む「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」が採択されました。またこのサミットにおいて、安倍首相がSDGsへの日本の積極的な関与に言及するとともに、世界最大の年金基金である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を推進する国際的なイニシアティブ国連責任投資原則(UNPRI)へ署名したことが発表されました。これにより、日本国内におけるESG投資は急速に伸展しており、Global Sustainable Investment Allianceが今年4月に発表した最新の情報によると、日本のESG投資は2016~2018年の2年間で307%の成長を見せており、2018年時点で全運用資産に占めるESG投資の割合は18.3%にまで増加しているとのことです※。そしてその投資判断の礎となる企業のESG情報開示の重要性がますます高まっています。企業の非財務情報開示については、その開示情報を規定するようなスタンダード、フレームワークなどが誕生し、企業情報開示のランドスケープが大きく進展しつつあります。加えて、ESG投資の高まりにより投資家やESG格付機関からもさまざまなESG情報の開示が求められるようになっています。そこで、本稿ではあらためて企業がESG情報開示をさらに進化させるにあたり、デジタル・トラストサービス・プラットフォーム(以下、本稿では便宜上「PLAT」といいます)を活用した効率的なESG情報の管理について紹介します。なお、本稿では非財務情報、サステナビリティ情報、ESG情報は全て同義として使用しています。また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、PwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします。
では、企業にはどのような情報開示が求められているのでしょうか。企業の非財務情報開示については各国の法規制やESG格付け機関などにより開示要求項目が異なりますが、グローバルなデファクトスタンダードとしてオランダに拠点を置くNGOであるGlobal Reporting Initiative(GRI)が作成している「GRIスタンダード」(図表1)が最も多くの企業に利用されています。GRIスタンダードの全体像は図表1に示すとおりで、項目別スタンダードでは、さまざまなESG情報について、それぞれの企業が重要と判断した項目について開示することが求められています。具体的にはGRIスタンダード200番台の「経済」においては、経済パフォーマンス、地域経済での存在感、間接的な経済インパクト、調達慣行、腐敗防止、反競争的行為について、300番台の「環境」においては、原材料、エネルギー、水、生物多様性、大気への排出、排水および廃棄物、環境コンプライアンス、サプライヤーの環境面のアセスメントについて、そして400番台の「社会」においては、雇用、労使関係、労働安全衛生、研修と教育、ダイバーシティと機会均等、非差別、結社の自由と団体交渉、児童労働、強制労働、保安慣行、先住民族の権利、人権アセスメント、地域コミュニティ、サプライヤーの社会面アセスメント、公共政策、顧客の安全衛生、マーケティングとラベリング、顧客プライバシー、社会経済面のコンプライアンスについて、それぞれの項目において詳細な開示指標が設定されています。そしてこのような企業活動の幅広い領域におけるパフォーマンスについて、財務情報と同様にグローバル連結ベースでの情報の管理とその開示が求められています。加えて、サプライヤーの環境・社会面のアセスメントなどでは自社のオペレーションを超えて、サプライチェーン全体における環境や社会への影響を定量的に把握しそれを開示することが期待されています。
非財務情報/ESG情報の管理とその開示においては、取り扱うべき課題の多さに加えて、管理すべきバウンダリーの広さが求められるため、それを実施する上で多くの困難が伴いますが、PLATの活用により、それらを効率的に実施することが可能になります。ここでは、ESG情報の管理において、特にPLATの活用により、実務がより効率化される二つの領域についてご紹介いたします。
ESG情報開示の要請から、グローバル企業に対しては、全てのもしくは主要な一次サプライヤーへのSAQ(自己問診票)型のESGチェックリストによって環境面や社会面でのリスクがないかを把握することが求められています。そしてもしリスクが検出された場合にはESG監査によってより詳細な確認を実施することが期待されています。国内においても、大企業を中心に自社で独自に作成したESGチェックリストによって主要な一次サプライヤーの取り組み状況の確認が行われています。しかし多くの場合、表計算ソフトで作られたチェックリストが利用されています。つまりそれらは数百のサプライヤーに個別に電子メールなどで配布され、その結果はマニュアルで集計されており、この一連の作業に膨大な工数が割かれています。またそれらは集計されているものの、その結果を分析して実際のサプライチェーンのリスクマネジメントにまで活用している企業は多くありません。
そこで、現在の表計算ソフトで作られたESGチェックリストをクラウド上のシステムに代替することで、サプライヤーの回答結果収集にかかる時間を大幅に削減することが可能になると同時に、システム上で一元化された情報となることで、集計結果の分析をリスクマネジメントに活用することも容易になります。
温室効果ガス(GHG)排出量・水使用量などの環境パフォーマンスデータについては海外の子会社のデータまで管理できている企業は増えつつありますが、離職率・従業員エンゲージメント(満足度)調査結果といった人事関連データや、人財開発のための研修投資費用、行動規範違反件数とその内訳、人権アセスメントの実施状況といった社会側面のデータまでもグローバルに管理できている企業はそれほど多くありません。一方で、ESG投資のためのESG情報開示においては、このようなデータも海外子会社を含むグローバル連結ベースで管理し開示することが求められています。地域ごとに異なる手法やシステムで管理されているこれらの情報をグローバルで一元的に集約する際には、簡易で効率的な収集方法が適しており、このような場面でもPLATは有効に機能するものと考えられます。
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