情報収集基盤としてのデジタル・トラストサービス・プラットフォーム―さまざまな部門におけるユースケース

はじめに

本特集ではこれまでの稿で、デジタル・トラストサービス・プラットフォーム(以下、本稿では便宜上「PLAT」といいます)を利用したリスク管理情報の収集や、内部通報制度の利用などに触れてきました。

本稿では、PLATの情報収集基盤としての利活用方法について概括し、具体的にどのような場面でPLATを活用できるのかについて、検討します。

1 PLATの利点

企業が定例的・定型的に行っている業務の多くで、情報のやり取りが発生します。ここでは例として、情報提出依頼部署と非依頼部署に着目します。通常、情報提出依頼部署が情報提出依頼を行い、被依頼部署がその依頼に対して情報提出を行います。この情報の流れにおいて、情報提出依頼と情報提出が電子メールや郵便・社内便経由で行われている場合、複数の人手が必要となります。手作業による収集情報管理・進捗管理ですので業務は煩雑となります。また、人手が介入することで、ヒューマンエラーが発生するおそれもあります。このような情報収集業務は、PLATの導入により改善できる可能性があります。PLATは、情報提出依頼者において、情報収集の進捗管理や、電子メールや郵便・社内便などの情報整理作業をPLAT上で管理を簡単化できることが利点です(図表1)。また、被依頼部署や子会社においても、過去に提出した情報と合わせ、提出履歴管理を行うことができます。経営企画部などにおいて、予算策定システムを導入し、各部や子会社からの予算情報を収集する基盤を保有している会社もあると考えられます。また、経理部や財務部において、連結決算を行うために連結決算システムを導入し、子会社からの財務情報を収集する基盤を合わせて導入している会社もあると考えられます。これらのシステムを導入していない会社において、子会社や各部からの情報収集基盤として導入することの他、これらを導入している会社においても、既導入システムのカバーしていない情報収集基盤としてPLATを利用することで、業務を簡単化できると考えられます。それでは具体的な場面を検討していきましょう。

2 PLATの情報収集ユースケース

予算策定資料の管理

経営企画部や経理部において、予算策定プロセスで、各部から売上予算や費用予算を収集する場合や、子会社などから予算情報を収集する業務において、情報を電子メールなどでやり取りしている場合、PLATの活用が検討できます。電子メールなどでは、情報収集の進捗管理が煩雑になったり、収集した情報を都度フォルダに移行させる業務が発生したりしますが、PLATでは、情報収集の進捗管理が行える他、収集した情報をそのままフォルダ管理と同じ要領で、PLAT上で管理できるため、収集資料の一覧化ができ、最新版管理なども簡単化できると考えられます。

資金繰り資料の管理

財務部や経理部において、子会社の資金繰り計画や実績の受け取りを電子メールなどで行っている場合にも、PLATの活用が検討できます。PLATを活用することで、子会社の資金繰りに関する提出情報を一覧管理することができると考えられます。

月次報告資料の管理

経営企画部など、関係会社を管理統括する部門において、子会社などから定性的な営業概況、売上内容や業績などを定型的資料として子会社などから収集する業務においても、改善が可能です。電子メールなどでそれらの資料をやり取りする場合に、PLATを活用することで、提出資料の一覧管理が可能になります。

内部監査資料の管理

内部監査を実施する部門において、内部監査を行う際に、被監査部門や子会社などに対して、資料提出依頼を行い、資料の提供を受けることがあります。この場合にも、PLATの活用が検討できると考えられます。PLATを活用することで、被監査部門や子会社などからの提出資料を一覧管理することができると考えられます。

内部統制関係資料の管理

上場企業にあっては、財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士などによる監査が義務付けられています。経営者による評価のため、監査を実施する部門で、内部統制のプロセスフローやリスク・コントロール・マトリックスなどの各部への更新確認や、統制評価のための資料の各部からの収集が必要となります。これらの資料のやり取りを電子メールなどで行っている場合、PLATの活用が検討できます。PLATを活用することで、情報収集の進捗管理や、資料保管管理を簡単化することができると考えられます。

棚卸資料の管理

棚卸において、工場・サプライヤー・外部倉庫などから、棚卸のタグコントロールシートの回収や、棚卸の完了報告の受け渡しを、電子メールなどで行っている場合において、PLATの活用が考えられます。PLATを利用することで、棚卸の一連の時間軸を、工場間・サプライヤー間・外部倉庫間などで、横並びで比較することもできます。また、実地棚卸のタグについても、PDF化することで、PLATによるタグの発送収集管理が可能になります

3 おわりに

これまで検討してきたように、PLATを利用することで、従来定例的に行われる情報収集で煩雑になっていた業務を簡単化できる可能性があります。このようなケースに該当しそうな業務を行われている場合に、PLATの導入のご検討をおすすめします。


執筆者

大山 卓也

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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