デジタル社会における「信頼の空白域」を探せ―デジタル・トラストサービス・プラットフォームを活用した社会的信頼の創出

はじめに

デジタル・トラストサービス・プラットフォーム(以下、本稿では便宜上「PLAT」といいます)はトラストサービスの領域において、クライアントへ新しい価値を提供するためのデジタル基盤(インフラ)です。デジタル技術の進展によって社会の「信頼に関する課題」が大きく変容しています。また、PwCサービスにデジタル技術を導入することによって、いわば「信頼の空白域(トラスト・ベイカンシー)」を新たに発見し、そこに信頼を付与することで社会に新しい価値を届けることが可能となっています。

PwCはこれらの変容しつつある課題や信頼の空白域に対応したモジュール(機能単位)をプラットフォーム上に構築することで、コスト低減や差別化につながる新しい体験およびネットワーク効果を個人や社会にもたらすことが可能であると考えています。

本稿では、社会が必要とするトラストサービスを提供するために、そもそも誰がどのような信頼を必要としているのかを考え、これにPLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介します。

1 PLATの基本機能と提供価値

PLATはクラウドを利用したSaaS(サービスとしてのソフトウェア)として位置付けられます。このため、ID・パスワードを取得するだけで即座にサービスの利用を開始できます。また、PLATの利用者は顧客企業およびその従業員だけではなく、その子会社・関係会社、外部のサプライヤーや監督当局などの外部の利害関係者へも拡大できます。それぞれの参加者の役割(プロジェクトマネジメント、経理、内部監査など)に応じて利用機能および権限を設定できます。

PLATには情報処理作業(収集、分類、整理、計算、保存、報告書作成など)のためのさまざまな機能が備わっています。しかしながらPLATの「機能」とその利用によって担保される信頼、すなわちどのような「価値」を社会に還元できるのかについては明確に区分して考えなければなりません。

本稿では「公的研究費等の資金管理機能とETLツールとしての活用」に焦点を当て、どのように信頼を担保して、社会に価値を還元できるかについて詳述します。

2 公的研究費等の資金管理における活用

(1)現状分析

政府が発表した成長戦略実行計画(令和元年6月21日)では、技術・デジタル領域のイノベーションが重要な柱として位置付けられており、大学や研究機関及びベンチャー企業などが行う研究開発プロジェクトに対する政府の積極的なリスクマネー供給に期待が高まっています。

資源が限られた日本が将来にわたってその国力を維持していくためには、科学技術を戦略的に活用し、その成果を社会に還元していく必要があります。それには官民を挙げてイノベーションの源泉となる科学技術を着実に育て、大きくしていくことが重要です。

私たちは、企業や研究機関が産学官連携プロジェクトを行う際のサポート実績に加え、政府・自治体などに対する豊富な支援実績を有しています。技術イノベーションの創出に向けた政府および企業の取り組みを支援しています。

(2)問題の所在

公的資金を活用した研究開発資金マネジメントには特有の問題や対応すべき課題が数多くあります。例えば、省庁ごとに異なる経理処理ルール、記入様式が異なることによる経理記録の煩雑さ、研究者自らが経費執行・管理を行うことによる研究時間の減少および研究資金マネジメントの不備による不適切な経費執行は公的研究開発予算を効率的・効果的に活用する際の大きな障害となっています。

これらの課題に適切に対処するためには、研究支援の専門人材を確保することが必要です。しかしながら、長期的な雇用の確保や若手を育成するためのコストも時間もかけられないのが現状です。このため、研究支援業務自体を専門家にアウトソースするとともに、業務プロセスのデジタル化を推進することが急務となっています。

(3)PLATが備える機能

前述の問題への解決策として、私たちはPLATに研究開発経費の自動集計機能や電子証票の管理機能を実装し、また資金の拠出者たる関連省庁とのコミュニケーションツールを提供しています。そして会計および検査の専門家としてPLATを通じたリアルタイムモニタリングおよび各種のアドバイスを提供しています。会計帳簿の作成や紙面証憑の保管管理および関係省庁とのコミュニケーションなどの事務処理がデジタル化されることにより、研究者は煩雑なタスクから解放されます。

(4)クライアントが得られる「価値」は何か

PLATの価値は、研究者を事務処理の手間から解放することだけではありません。研究者はPLATにより、これまで以上に研究開発活動に時間をかけ、成果を生み出すことに注力できるようになります。また、プロフェッショナルの支援を適宜受けることによって、会計や関連規制に係るリスクを低減し、予期せぬ手続違反から自らのキャリアを守り、価値ある研究を長く継続できるようになるのです。

また、資金拠出者である関連省庁の立場では、まったく違うPLATの価値が存在します。昨今の財政悪化に伴い国の予算全体の縮減が避けられない中、基礎技術等への公的研究費の投入について大幅な見直しが迫られています。このため、限られた予算の使途やその効果についてアカウンタビリティを確保し、透明性が担保されている必要があります。PLATが公的研究費の執行管理ツールとして広く利用されることで、研究活動における財務の状況が正確に表現され、会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されることが担保されます。ゆえに税金を財源とする研究資金が正しく、ムダなく、有効に使われていることの証明が容易になるでしょう。

そしてそれは単に研究開発に携わる当事者だけの恩恵にとどまらず、日本の技術研究が活性化し、その成果が社会に還元されることで国民生活全体の向上につながっていくのです。

これはまさしく信頼の空白域に対し、新たなトラストサービスを提供することでより良い社会の実現に寄与することの例と言えるでしょう。

3 ETLツールとしてのPLAT

(1)現状分析

IoT・ビッグデータ・AI時代の到来により、ビジネスや社会の在り方を揺るがす第四次産業革命が急速に進展しています。その中で技術開発や技術経営における付加価値の源泉は、膨大で複雑なデータの中にあるといえます。これらのデータを分析し現状分析ひいては将来予測に活用するためには、まず膨大なデータ群から必要なデータを抽出し、変換・出力する作業(ETL:Extract、Transform、Loadの略称)が必要です。PLATにETLツールを組み込むことで、効率的なデータ分析作業が可能になります。

(2)問題の所在

ビッグデータ分析には2つの課題があります。

  1. システムが多様化し、効率的なデータ抽出が難しい
  2. 抽出したデータの整形・変換作業に時間を要する

前述のとおり、多種多様なデータを組み合わせながら分析を行うことで、新しい知見を獲得し、可視化して将来予測に役立てていくことがデータ分析の目的です。

しかし、組織内ではさまざまなシステムが利用されているため、データ分析の対象となるデータは分散して保管されています。そのため、まずはデータソースとなる多様なシステムから横断的にデータを収集する必要があります。

(3)問題の解決方法(機能)

さまざまなシステムから、効率的にデータを抽出できる

データの抽出方法はシステムごとに異なることから、これを手作業で行うことは効率的ではありません。また、データソースの側に仕様変更があれば、抽出するプログラムもあわせて修正する必要があるなど、継続的に正確なデータ抽出をするためには多大なコストを要していました。

ここにETL機能を導入することで、従来は専門知識を要した抽出作業を自動化し、大幅に効率化できます。データの分析や活用に資源を投下し、技術開発に役立つ有益な知見の導出に注力できるようになります。

抽出したデータを、整形・変換して表示できる

複数のシステムから抽出したデータは、そのまま分析対象とすることはできません。不要なデータを特定の条件に従って削除する、欠落しているデータを補完するなどの一連の「クレンジング」と呼ばれる作業を通じてデータを再整備することで初めて分析を開始できます。

上述の変換作業に人手が介在すると、人為的なミスを誘発し、データ品質や分析精度に重大な影響を及ぼす可能性があります。

しかし、この変換作業にETL機能を導入することで、作業を自動化し人為的ミスを排除することができ、加工データの品質を大幅に向上させることができるのです。

(4)技術開発政策におけるPLATの提供価値

研究開発の活性化が「産業の新成長分野の開拓」「雇用・イノベーションの創出」を喚起し、国際競争力の強化や日本経済の成長のために必要不可欠であることは政府でも認識されているところです。限られた資源を有効活用しながら国民に信頼される技術開発政策を展開するためには、政策部門がエビデンス・ベースの政策意思決定(Evidence Based Policy Making:EBPM)を推進することが重要です。

しかし、エビデンスの収集や分析を人力で行うことは、前述のとおり実現困難です。今後、効果的・効率的なEBPMを広く導入するためには、デジタル技術の活用が不可欠であり、ETL機能を備えたPLATは一つの有力なツールといえるでしょう。機微情報を含むクローズドデータや各種ビッグデータを収集し、匿名化して政策意思決定に活用することで、これまで検証が難しかった政策に新たな光を当てることが期待できます。

このようにPLATを介して、分野を超えたデータや知識がつながり、社会に大きな革新がもたらされ、豊かな社会の構築に貢献できることこそがトラスト・サービス・プロバイダーとしての私たちの究極的なゴールといえるでしょう。

4 おわりに

以上、適切なトラストサービスを社会に提供するために、PLATをどのように利用して信頼を付与すべきかをご紹介しました。PLATはさらに今後、ビッグデータへの対応やAI化、データオーケストレーターといったビジネスモデルにも対応予定です。

PwC′s Lab Assistance Tool (公的研究費などの経費執行管理プラットフォーム)

PLATは、経費執行に関する業務負荷の分散や文書管理(データ管理)の省力化などを通じて、作業負荷の大幅な軽減を支援します。PLATは、研究者がこれまで以上に研究開発活動に時間をかけ、成果を生み出すことに注力できる体制作りを目指します。

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執筆者

皆本 祥男

ディレクター, PwCあらた有限責任監査法人, PwCビジネスアシュアランス合同会社

※法人名・役職などは掲載当時のものです。