参加者が築く外部委託のトラスト―デジタル・トラストサービス・プラットフォームで共有する委託情報

はじめに

企業活動において、企業は社外の第三者とのさまざまな取引を通して、自社のリソースだけでは必ずしも成し遂げられない収益を上げ、業務を効率化し、また専門性を活用しています。このような事業活動における第三者は多岐にわたります。サプライヤー、販売会社、ITサービスプロバイダー、バックオフィス業務の委託先、専門領域のサービス提供者など、さまざまな第三者との取引が行われています。近年では特に、イノベーションを加速するための業務提携、専門性の活用も盛んです。このように、外部の取引関係先の活用や業務の統合化はますます進んでいるといえるでしょう。

第三者を活用することにはメリットもありますが、リスクもあります。業務統合が進むと、「バリューチェーン」にはさまざまな第三者が関与することになりますが、個別の取引と認識されることは少なく、全ての取引先がその「バリューチェーン」に関与していると見なされます。その結果、主要なサービス提供者はその説明責任を求められたり、第三者の取引先によってコンプライアンス上の責任が生じたり、自社のブランドが棄損されたりすることもあり得ます。実際に、米国海外腐敗行為防止法(FCPA)や、英国贈収賄防止法(UKBA)の適用による罰金事例の多くは仲介者などの第三者が関与しています。

本稿では、委託元・委託先の双方にとってメリットとなり得る、デジタル・トラストサービス・プラットフォーム(以下、本稿では便宜上「PLAT」といいます)を用いた委託先管理について紹介します。

なお、文中の意見に係る部分は筆者たちの私見であり、PwCあらた有限責任監査法人または所属部門の正式見解ではないこと、あらかじめご理解いただきたくお願いします。

1 外部委託先管理におけるデジタル・プラットフォーム化の可能性

第三者のリスクに対応するため、多くの企業では取引の契約締結前に、事前調査を行っています。最も単純な方法として、例えば、データベースを検索したり、インターネットサイトを検索して企業の評判や能力に関する情報を得たりしています。さらに、質問票を用いて、コンプライアンスの実践状況、政府関係者や政府機関との関係、第二階層の第三者の利用、情報セキュリティに関する管理状況、CSRについての取り組み、等の情報も収集しています。さらに、より確実な取引先の情報を得るために、実地調査を実施するケースもあります。

このように、第三者についての情報収集が外部委託管理においては重要な要素です。しかし、ある取引先が取引を行うのに信頼するに足る先なのかを調べるために、各委託元企業が公開されている情報をそれぞれ検索したり、同じような質問票の回答を求めたりすることは、あまり効率的ではないとも言えます。取引先との関係を正しく理解し、リスクに応じた調査を行うことを通して、特に注意が必要な取引先、管理項目により多くの注意を払うべきです。委託先にとっても、取引の度に、各委託元企業が要求する同じような質問票に回答することは担当者にとって悩ましいと感じているでしょう。PLATの活用により、委託元それぞれが実施している事前調査の一部を共有することで、委託元・委託先の双方にとってメリットとなる可能性があります。

取引先の情報を共有することによる委託元にとってのメリットとは、既に委託先企業が一般的な質問項目について回答している場合、新たに調べる必要がないこと、また、既に他社での取引実績が公開されている場合は、調査の情報として自社の既存の取引関係だけでは知ることのできない情報を活用することができる点があります。さらに、取引開始前に限らず、委託先の情報が更新されれば、取引先の状況の変化を監視することにもつながります。委託先にとってのメリットは、自社の管理状況、取り組み状況を一度登録しておけば、新しい取引先との業務を開始する都度、必ずしも全ての質問票項目を提出せずに済む点があります。

2 外部委託先管理のデジタル・プラットフォームが築くトラスト

図表1のプラットフォームの例では、各委託先企業が登録する情報は、自己申告による情報がベースとなります。これらは、一般的に公開している情報を中心に、各法人の基本情報(名称、所在地、設立年月日、代表者氏名、など)、財務情報(直近の主要経営指標、など)、事業内容などを含む「基本項目」に加え、各企業が公開してもよいと考える各種管理状況や取り組み(コンプライアンス、情報セキュリティなどのリスク管理、CSR、など)が含まれます。委託元が開示しても良いという範囲で、取引実績についての概要を開示することも可能です。一方、各委託業務についての管理情報(委託する業務内容、リスク判断、など)は委託業務ごとに委託元企業が登録し、各委託元だけが、管理、参照することができます。また、個別調査、実地調査が必要と判断した場合、独自に実施した調査結果は、実施した委託元だけで管理することが基本となります。

第三者のリスクが他のリスクと異なる点は、法的契約によって発生する取引関係において、必ずしも自社だけで十分な情報を得ることが難しい点にあります。デジタルの活用により、委託先企業が自社システムにアクセスすることを許可したり、データ連携を行ったり、自社と他社との距離感はますます近づいているといえます。外部委託先管理のようなプラットフォームには、さらに直接取引関係にはないものの、同様のリスクを共有する他社(同じ取引先を活用している委託元)との情報共有、協働を可能にします。それぞれが情報の出し手となり、同時に利用者となることで、プラットフォームは価値を発揮します。外部委託先管理のデジタル・プラットフォームでは、委託先企業は、自社が信用に足る取引先であることを自己申告し、委託元企業は取引をきっかけに入手した情報を他の委託元企業と共有することで、1:1や1:Nではない網の目のように張り巡らされたトラストを築いていくという点で大きな可能性があると考えます。


執筆者

辻田 弘志

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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加藤 美保子

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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