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近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回はEU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の実施に関するFAQsについてご紹介します。
欧州では、2014年に導入されていた非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive、以下「NFRD」といいます。)を改正して、環境権、社会権、人権、ガバナンス要因などのサステナビリティ情報に関する定期的な報告を義務付ける企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下「CSRD」といいます。)が2023年1月5日に発効しました。2024年8月7日、欧州委員会は、CSRDの適用範囲、適用時期、免除などの事項を取り上げた「CSRDの実施に関するFAQs(frequently asked questions)」*1を公表しました。このFAQsはCSRDに関して企業に対してより明確で確実な情報を提供することにより企業の事務負担を軽減するために欧州委員会により作成されたものです。本ニュースレターではCSRDの概要を振り返るとともに、CSRDの実施に関するFAQsの概要を紹介します。
CSRDはEU指令(Directives)という法形式であるため、CSRDの発効により企業のサステナビリティ情報の報告義務が発生するわけではなく、各EU加盟国がCSRDを国内法化することが必要となります。企業は、登記上の事業所があるEU加盟国の国内法の適用を受けることになりますので、企業がCSRDの対応を検討する場合には、CSRDを国内法化した各国法令の詳細を確認することが必要となります。
しかし、CSRDの国内法化の期限は2024年7月6日(CSRDの発効から18か月以内)とされていたにもかかわらず、期限までにCSRDを国内法化した国は、フランスなど数カ国にとどまっており、CSRDの国内法化の進捗は芳しくありません。そのため、2024年9月24日、欧州委員会は、EU指令の国内法化を行っていない17のEU加盟国に対し、完全かつ時宜を得たCSRDの国内法化を確保するための措置を講じるよう通知を発出しました*2。通知を受けた加盟国は今後2カ月以内に、CSRDの国内法化を完了させなければならないとされています。
したがって、今後CSRDの国内法化は進むものと考えられますので、今後順次制定される各国国内法において共通するCSRDの考え方を理解しておく必要があります。
CSRDの適用対象となる企業*3は、欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards、以下「ESRS」といいます。)*4により具体化されるサステナビリティ事項の開示を行わなければなりません。CSRDの適用対象を定める閾値のうちEU域内企業に関する総資産残高及び総売上高を従来の数値から25%引き上げる委員会委任指令による改正後のCSRDの適用対象となる企業は以下のとおりです*5。
CSRDに関して日本企業の対応が求められる場合としては、①日本企業のEU域内子会社が当該企業自体としてCSRDの適用対象となる場合(単独又はグループレベル)と②日本企業がEU域外企業としてCSRDの適用対象となる場合の2例が考えられます。
分類 |
適用対象となる企業 |
EU域内企業 |
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EU域外企業 |
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CSRDの適用開始日は、以下のとおり企業の規模ごとに定められています。例えば、適用開始日が2025年1月1日以後開始事業年度の場合には、事業年度終了後の2026年から前年度分のサステナビリティ情報を報告することになります。
企業の類型 |
適用開始日 |
NFRD対象企業 |
2024年1月1日以後開始事業年度 (2025年公表) |
NFRD対象企業でない大企業及びlarge groupの親会社 |
2025年1月1日以後開始事業年度 (2026年公表) |
上場中小企業等(零細企業を除く) (中小企業は2028年度まで適用免除可能*7) |
2026年1月1日以後開始事業年度 (2027年公表) |
企業規模の分類は、企業の登記上の事務所(registered office)がある国のルールによることとされており、各加盟国の国内法令に定められています。(FAQs1*8)。したがって、CSRDの適用対象となるか否かの判断に当たっては、国内法を確認する必要があります。
上場してない中小企業は、当該企業自体でのサステナビリティ情報を報告する義務はありません。しかし、当該企業がlarge groupの親会社である場合には、グループレベルでサステナビリティ情報を報告する必要があります。連結サステナビリティ情報の報告は、当該企業がlarge groupの親会社に該当する限り、当該企業の規模に関係なく適用されることとされています(FAQs4)。
親会社の連結サステナビリティ報告に子会社のサステナビリティ情報が含まれる場合には、子会社は自社のサステナビリティ報告を免除されることとされています*9。その際、子会社が公表するマネジメントレポートには親会社の連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティ報告へのウェブリンクが含まれていなければならないとされています。子会社のマネジメントレポートの公表時点で連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティ報告自体のウェブリンクがない場合には、当該免除を主張する子会社は、子会社のマネジメントレポートにおいて、関連する文書が将来入手可能となる一般的なウェブリンクを記載すれば足りることとされています。つまり、親会社の連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティ報告へのウェブリンクを記載する方法による子会社自体のサステナビリティ報告の免除は、子会社が自社のマネジメントレポートを公表する際に親会社の連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティが既に公表されていなくとも利用することができます(FAQs20)。
なお、自社のサステナビリティ報告を免除された子会社は自社のサステナビリティ報告又は連結サステナビリティ報告(子会社がlarge groupの中間親会社である場合)を公表する義務を免除されている旨をマネジメントレポートに記載しなければなりません(FAQs22)。
上場中小企業(零細企業を除く。)は、2028年1月1日より前に開始された事業年度のサステナビリティ情報を報告する義務の適用を免除することができることとされています*10。この免除を受ける中小企業は、サステナビリティ情報の報告を行わなかった理由をマネジメントレポートに簡潔に記載しなければならないこととされています(FAQs16)。
上場中小企業が自主的に連結サステナビリティ報告を作成し、公表している場合は、当該連結サステナビリティ報告がESRSに準拠して作成されている場合に限り、当該企業の自社レベルのサステナビリティ報告の作成及び公表が免除されるものとされています(FAQs18)。
CSRDの適用対象となる企業がマネジメントレポートに含まれるサステナビリティ報告を公表するために使用しなければならない言語は、会社法指令(Company Law Directive)第21条に従って採択された各加盟国の法律によって指定された言語でなければならないとされています。また、上場企業の場合には、マネジメントレポートに関して透明性指令(Transparency Directive)に従って各加盟国が定めた情報開示時に使用できる言語のルールにも従う必要があります(FAQs35)。
親会社の連結サステナビリティ報告に子会社のサステナビリティ情報が含まれる場合には、子会社は自社のサステナビリティ報告を免除されることとされていますが、各加盟国は、国内法により、親会社の連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティ報告について、当該国が定める言語で公表されること及び当該言語への翻訳が提供されることを免除の要件とすることができることとされています(FAQs21)。
そのため、子会社が連結サステナビリティ報告により自社のサステナビリティ報告を免除されるためには、子会社が所在する国の国内法において、言語を限定していないかどうかを確認する必要があります。仮に英語以外の当該子会社が所在する国の言語に限定している場合には、親会社の連結サステナビリティ報告を翻訳する等の対応が必要となります。連結サステナビリティ報告による免除は、上記(2)①のとおりウェブリンクを記載することにより、開示の負担が軽減できるものですが、国内法において言語の限定がある場合には、その対応に時間を要することも考えられますので留意が必要です。
なお、親会社がEU域外に設立されている場合には、その連結サステナビリティ報告*11及び保証意見は、子会社を管轄する加盟国の法律に従って公表されなければなりません。加盟国が、親会社の連結マネジメントレポート又は連結サステナビリティ報告の翻訳を提供することを要求する場合、当該翻訳は、(翻訳者又は加盟国の翻訳証明担当当局などによる)認証を受けるか、又は認証を受けていないことを明記した声明を含む必要があるとされています(FAQs19)。
EU域外企業の場合には、以下のとおり、CSRDの適用時期はEU域内企業と比べて遅くなっています。EU域外企業向けの開示基準は2024年6月までに策定される予定でしたが、2026年6月30日に延期されました。EU域外企業に対する2028年1月1日以後の適用開始に向け、今後規定の準備が順次進んでいくものと考えられます。
企業の類型 | 適用開始日 |
EU域外企業(最終親会社のみ) | 2028年1月1日以後開始事業年度 (2029年公表) |
CSRDの適用対象となるEU域外企業は、最終親会社に限りますが、一定の法的形態でなければならないという規制は存在しません(FAQs41)。したがって、 (a)EU域内における純売上高が直前の2会計年度で継続して1億5,000万ユーロ超であって、(b) (i)EU域内のCSRD適用対象の子会社を有している場合、又は(ii)かかる子会社がない場合であっても純売上高が4,000万ユーロ超の支店がある場合には、第三国の最終親会社のグループレベルでサステナビリティ報告をする必要があります。
EU域外企業がCSRDの適用対象となる場合には、EU域内の子会社又は支店は、そのEU域外の親会社に代わって、サステナビリティ報告を公表し、アクセス可能にする必要があります。しかし、サステナビリティ報告の作成義務がEU域内の子会社又は支店に対して明示的に課されているわけではありません。そのため、EU域外の親会社がサステナビリティ報告を作成するか、それともEU域内の子会社又は支店がそのEU域外の親会社のために報告を作成するかは当該企業の選択に委ねられることになります。いずれかの方法でサステナビリティ報告を作成した上で、ウェブサイト上で公表する等の方法により、EU域内の子会社又は支店がサステナビリティ報告を公表及びアクセス可能にすることになります(FAQs42)。
CSRDは、各加盟国の1つの子会社又は支店が少なくとも1つの持続可能性報告書を開示することを要求しています。しかし、EU域内に同じEU域外企業の子会社・支店がある場合における重複したサステナビリティ報告を回避するために、各加盟国は、その領域内に所在・設立されているEU域外企業の子会社・支店が開示したサステナビリティ報告へのリンクを提供することにより、サステナビリティ報告の義務を順守することを認めることができることとされています(FAQs43)。
EU域内企業のサステナビリティ報告*12とEU域外企業のサステナビリティ報告*13は、その報告の内容が異なっており、別々の制度として運用されています。したがってEU域外の親会社のグループレベルでサステナビリティ報告を開示していたとしても、EU域内の子会社が当該企業及びその子会社がEU域内企業としてのサステナビリティ報告義務を免除されるわけではありません。もっとも、EU域外の親会社は、EU域内の子会社又は支店にEU域外企業のグループレベルでのサステナビリティ報告を公表させる(Article 40a of the Accounting Directive)代わりに、連結サステナビリティ報告(ESRSに従って作成されたもの又はこれらのサステナビリティ報告基準と同等の方法で作成されたもの)を公表すること(Article 29a of the Accounting Directive)を選択することができます。この場合には、EU域内の子会社は、ウェブリンクの記載など定められた免除要件*14を満たしていれば、EU域外企業のグループレベルでのサステナビリティ報告が免除されることになります(FAQs48)。
EU域外のCSRDの適用対象となる企業がサステナビリティ報告を公表するために使用しなければならない言語は、会社法指令第21条に従って各加盟国の法律において定められています(FAQs49)。
日本企業としては、まず自社グループのEU域内の子会社がCSRDの適用対象となるか否か及び適用開始時期を確認することが必要となります。CSRDはその条文のみでは不明な点も多くありますが、このFAQsはCSRDの適用範囲、適用時期、免除など様々な項目ごとに解説されていますので、CSRDの考え方を理解する一助となるといえます。
EU域内の企業については、NFRD対象でない大企業及びlarge group の親会社については2025年1月1日以後開始事業年度からサステナビリティ報告が義務付けられており、CSRDの適用開始日が迫っています。CSRDは国内法化が必要な指令であり、特に、サステナビリティ報告の言語要件など、各加盟国の国内法に委ねられている部分があります。そのため、CSRDの対応を行うためには、自社グループのEU域内の子会社が所在する各国の国内法の理解が不可欠になってきます。
加盟国の国内法において、サステナビリティ報告を特定の言語で作成すること又は特定の言語の翻訳が不可欠とされている場合には、その準備が必要となり、その対応に時間を要することも考えられます。また、CSRDでは連結サステナビリティ報告など、グループレベルで様々な免除規定を利用することもできます。したがって、CSRDの国内法化が完了した国について国内法のルールを理解し、CSRDの報告をどのような社内体制で行うのかについてグループ内での検討が必要となってきます。
さらに、2028年1月1日以降開始事業年度に向けて、日本企業がEU域外企業としてCSRDの適用対象となるかどうかを確認することも必要となります。EU域外向けのESRSの制定が延期されているところであり、今後のルール整備の状況に注視が必要です。
*1 Frequently asked questions on the implementation of the EU corporate sustainability reporting rules(https://finance.ec.europa.eu/publications/frequently-asked-questions-implementation-eu-corporate-sustainability-reporting-rules_en)
*2 ベルギー、チェコ、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、キプロス、ラトビア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、フィンランドの17カ国をいいます。(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/api/files/document/print/en/inf_24_4661/INF_24_4661_EN.pdf)
*3 CSRDの概要、適用開始時期、報告対象となる内容等については、ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2023年2月)EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の概要と日本企業への影響(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20230224.html) をご参照ください。
*4 ESRSの概要、実務上の留意点等については、ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2024年1月)欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20240125-1.html)をご参照ください。
*5 COMMISSION DELEGATED DIRECTIVE (EU) 2023/2775 of 17 October 2023。EU加盟国は遅くとも2024年12月24日までに同指令を国内法化する措置をとることが求められています。
*6 1つ以上のEU規制市場に上場している企業をいいます(以下同じ)。
*7 Article 19a(7) of the Directive 2013/34/EU(以下「Accounting Directive」といいます。).
*8 FAQsの番号は、FAQs 17頁のSection III – FAQs on sustainability information to be reported under Articles 19a/29a of the Accounting Directive (individual and consolidated sustainability statement)から始まる1)、2)、3)…の番号を指します。
*9 Article 19a(9)or 29a(8) of the Accounting Directive.
*10 Article 19a(7) of the Accounting Directive.
*11 Article 29a of the Accounting Directiveに基づくサステナビリティ報告をいいます。
*12 Article 19 and/or 29a of the Accounting Directiveに基づくサステナビリティ報告をいいます。
*13 Article 40a of the Accounting Directiveに基づくサステナビリティ報告をいいます。
*14 Article 19 and/or 29a of the Accounting Directive.