2024年上半期最新情報

プライベート・キャピタルにおける世界のM&A動向

Global M&A Trends in Energy, Utilities & Resources hero image
  • 2024-08-08

プライベート・キャピタルの世界では、景気の不透明感やバリュエーションギャップが続いているにもかかわらず、ディールメーキングへの圧力は高まり続けています。

マクロ経済の不透明感が続き、バリュエーションも乖離しているため、年初のような市場回復ムードへの期待はまだディールメーキングの動きには結びついていません。しかし、2024年のプライベート・キャピタルの見通しは依然として明るいままです。水面下では、売り手側の準備が活発化し、ディールを成立させるプレッシャーはますます高まっています。PitchBookによると、プライベート・エクイティ(PE)による世界の投資先企業は現在2万7,000社以上に増加、そのほぼ半数は2020年より前に投資されており、多くの企業がエグジット戦略の機会を模索していることになります。

マーケットの今後の過熱を示唆する最近の動きとしては、長らく途絶えていたシンジケート・バンク・ローンの復活が挙げられます。銀行借入による資金調達を伴う注目すべき大型案件としては、Hewlett Packard EnterpriseによるJuniper Networksの140億米ドルでの買収や、2024年2月に完了したGTCRによるWorldpay株式の過半数を185億米ドルで買収した案件などがあります。

2024年上半期に市場を低迷させた3つの要因が、引き続きプライベート・キャピタルの短期的見通しに影響を及ぼしています。

  • 金利:マクロ経済の見通しに基づき、中央銀行は予想以上に長期間にわたって金利を比較的高い水準に維持しています。スイス、スウェーデン、カナダ、欧州中央銀行が最近発表した金利引き下げは、さらなる利下げを示唆している可能性があります。しかしながら、ディールメーカーにとっての目先の重要なポイントは、金利が比較的安定し、以前よりも確実性が増して見通しを立てやすいかということです。
  • バリュエーション:バリュエーションに関しては、プライベート・キャピタルによる買い手と売り手の間で依然としてギャップが存在しています。しかし、ここでも考え方に若干の変化が見られ、乖離が縮まりつつあります。
  • 選挙:ディールメーカーは、インド、英国、米国などの選挙や、世界のいくつかの地域における地政学的リスクの継続的な高まりに注目しています。歴史的に、選挙シーズンには取引量が減少する傾向があります。

「このような市場において、ディールに対するこれまでとは異なるアプローチが出てきています。成功するためには、独自性のある投資モデル、すなわちビジネスにトランスフォーメーションをもたらす投資モデルが必要です」

Eric Janson、PwC米国、パートナー、グローバルPE・リアルアセット・ソブリンファンドリーダー

それでも、世界中で投資先企業の売却を検討する動きが活発化していることに加え、2024年までに返済期限を迎える負債総額が2兆米ドルに達すると推定されており、その借り換えが必要となっていることから、M&A市場が再び活況を取り戻すためのプレッシャーは一向に弱まる気配がありません。むしろ、そのプレッシャーはますます強まっています。その結果、ディールメーカーたちの優先事項も変化しつつあります。

変化する環境下で力強い成長を続けるプライベート・キャピタル

米国M&A市場全体は依然として低迷していますが、他の地域では事情が異なります。例えば、インドと日本の市場では、プライベート・キャピタルが活気づいています。世界的に、いくつかの重要な変化が見られます。

まず、プライベート・キャピタルは前進を続け、ディール全体におけるシェアをますます拡大しています。Preqinのデータによると、2024年第1四半期のプライベート・キャピタルのシェアは24.1%と推定され、2022年の20.6%から増加しています。プライベート・キャピタルによる世界的な運用資産は、過去5年間、年間約8%のペースで成長し、2023年には約13.3兆米ドルに達しました。大手ファームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや金利上昇による市場の大幅な混乱にもかかわらず、過去5年間で2桁成長を達成しています。

2024年3月、プライベート・キャピタルの役割が拡大していることを示すさらなる証拠として、資産評価額約4,850億米ドルで米国最大のカルパース年金基金(CalPERS)が、プライベート・マーケットへの資産配分を年金資産の33%から40%に引き上げる提案を承認したと発表しました。同ファンドは、この決定の背景として「PEのリターンが力強く継続的に成長している」ことを挙げています。CalPERSのリリースによると、2023年末時点において、5年および10年間のPEのリターンはその他すべてのアセットクラスを上回っています。今回の大幅な配分増により、PEのディールに利用できる資金がさらに増えることになります。

第2に、PEの市場環境の厳しさが、統合を促しています。リミテッドパートナーは投資先を絞り、マルチアセットクラスを持つ大規模なプライベート・マーケット・ファンドを選好する傾向にあります。運用資産が1兆米ドルを超えるファンドがそう遠くない将来に登場する可能性がある一方、小規模なファンドの中には、大規模なライバルのスケールメリットに対抗するのが難しいところも出てきています。M&Aについては、メガファンドと中堅ファンドマネージャーの間でこのような二極化が進むことで、業界のプレイヤー数は減少するものの、規模は大きくなると考えられます。その結果、PEセクターにおけるM&A活動の規模や性質に影響を与えることになるでしょう。中堅規模のファンドマネージャーは、競争力を維持するためにニッチな分野に特化したり、戦略的提携を模索したりして、この環境の変化に適応する必要があるかもしれません。

第3に、このシステムに新たな性質の資金が投下されることで、競争の激化をさらに促す可能性があります。政府系ファンドは新たな資金の供給源であり、その一部はディールに直接投資し始めています。さらに、銀行が傍観者としての立場からM&Aファイナンスの舞台に戻ってきたことも、ここでは重要です。なぜなら、銀行の資金調達コストは伝統的に民間企業よりも競争力があるからです。しかし、ポートフォリオ企業は、シンジケート・バンキング・グループと取引するよりも、プライベート・クレジットを提供する1社と取引する方が簡単だと感じる場合が多いようです。最終的には、このような複合的な効果により、信用供与がより利用しやすくなり、買い手にとって有利になるでしょう。

このような状況において、特にバリュエーションの不一致が続いていることを考えると、ディールメーカーは際立つ存在でなければなりません。PEのプレイヤーが企業を買収し、安価な負債を活用し、市場の上昇で売却できた時代は終わりました。投資家は今、将来の成長や変革を実現する計画などを求める特別な機会を探しています。この考え方の変化は、ミドルマーケットを含むセクター全体に影響を及ぼしています。

注目される4つのアセットクラス

資産には、より魅力的なものとそうでないものがあります。現時点では、特に4つのアセットクラスの需要が最も高いものとして際立っています。

エネルギートランジションは、プライベート・キャピタルにとって大きなチャンスです。必要とされる投資規模が非常に大きいため、プライベート・キャピタルは解決策の重要な一翼を担うことになります。このテーマは政治的にデリケートなものですが、主要なプライベート・キャピタル・プレイヤーのほとんどは、エネルギートランジションが不可避であるとみなし、関連する戦略を構築しています。主導権を握ろうとしているプレイヤーもあれば、規制の行方を見守りつつ素早く追随できるようポジションをとっているプレイヤーもいます。データセンターは、コンピューティングパワーが大きく伸びていることから、すでにディールの焦点となっています。生成AIの出現も、それが必要とする莫大なエネルギー資源を考えると、さらに拍車をかけるかもしれません。2024年5月に発表された注目すべきディールは、その前兆となる可能性があります。それは、Brookfieldの再生可能エネルギー部門とMicrosoftが、10.5ギガワット以上の再生可能エネルギー容量を開発するための世界的な枠組みについて合意したディールです。

プライベート・クレジットは、オルタナティブマネージャーにとってのM&Aの風景を一新し、ディールの実行と多様化のための強固なプラットフォームを提供しています。保険からの恒久的資本の流入とプライベート・クレジットの安定性により、オルタナティブマネージャーはより大規模で複雑なM&A取引を追求するのに有利な立場にあります。このような成長は、オルタナティブマネージャーにとって戦略的優位性を意味します。これにより、彼らは専門知識を活かしてより高い収益を上げ、競争の激しいM&A市場で戦略的な投資を行うことが可能になります。

米国や欧州の企業がサプライチェーンを見直し、インドをはじめとする各国がインフラ投資を活発化させる中、地政学的・経済学的な理由からインフラの重要性はますます高まっています。これまでは各国政府がインフラ投資を主導する傾向にありましたが、予算が逼迫していることから、この超長期的な市場ではプライベート・クレジットがより大きなプレイヤーになる可能性があります。例えば、BlackRockは2024年1月、1,000億米ドル以上の運用資産を持つインフラ運用会社Global Infrastructure Partnersの買収に合意しました。その目的は、インフラのプライベート市場投資におけるトッププラットフォームを構築することです。BlackRockは、インフラは現在すでに10兆米ドル規模の市場であり、「今後数年間、プライベート・マーケットの中で最も急速に成長する分野の1つになると予想される」と述べています。

プライベート・キャピタルは、保険料を投資することでより良いリターンを提供することができるといった、保険会社にとって魅力的な提案をしています。一方、PEファームは保険資産を取得すれば、保険会社が保有する膨大な恒久的資本を直接管理できるようになります。そうなると今度はこの資本が運用資産と関連する運用手数料を保証することになります。このセクターには、Apollo、Blackstone、Brookfield、CVC、KKRなど、多くの大手企業が参入しています。最近のディールでは、KKR が2024年1月にGlobal Atlanticの残り37%の株式取得を完了し、2024年5月にはBrookfieldが American Equity Investment Life Holding Companyの買収を完了しました。これらの取引はいずれも 2023年に発表されました。

個人投資家へのプライベート・キャピタル開放に注目

  • 従来、プライベート・キャピタルと個人投資家は混じり合うことはありませんでした。小規模投資家はプライベート・キャピタル・ディールへのアクセスに以前から興味を持っていますが、プライベート・キャピタルは総じて、多額の資産を持つ層以外には閉ざされた世界です。小規模投資家がプライベート・キャピタルのディールにアクセスできるのは、せいぜいクローズド・エンド型ファンドか上場投資信託を通じてのみです。
  • それが今、変わりつつあります。一部の大手プライベート・キャピタルは、米国内だけでも34兆米ドルと推定される大規模な個人貯蓄に注目し、これを直接活用する方法を模索しています。年金基金などの機関投資家層以外にも拡大することは、PEファンドにとっても、株式や債券市場よりも高いリターンを期待する個人投資家にとっても有益です。
  • Blackstoneは2023年に米国と欧州でプライベート・デット・ファンドを立ち上げ、2024年1月には個人投資家向けのPEファンドに約13億米ドルを調達しました。Apollo、KKR、Carlyle、Brookfield など、他のプライベート・キャピタル・プレイヤーも同様のファンドを立ち上げました。BlackRockは成長を続けるプライベート・クレジット投資市場でより多くのシェアを獲得するため、リテール・プライベート・クレジット・ファンドを立ち上げ、プライベート・デット・マネージャーのKreos Capitalの買収も実施しています。
  • ファンドを個人に提供するには、規制上の問題を克服する必要があります。また、個人投資家による急激な資金引き出しによりファンドが不安定化する可能性があるため、プライベート・キャピタル・プレイヤーは償還をコントロールする方法を見つける必要があります。それでも、個人投資家を対象としたこれまでの取り組みは、現在進行中のトレンドの始まりに過ぎない可能性が高いです。Blackstoneは個人向け運用資産が2,000億米ドルから5,000億米ドルに増加する可能性があるとし、KKRは個人投資家が新規調達資本に占める割合が現在の10%~20%から最終的には30%~50%まで増加するとの見通しを示しています。一方、Apolloは2026年までに、AAAから不動産、デット・ファンドまで幅広いファンドについて、個人投資家チャネルから500億米ドルの資金調達を目指すと述べています。

2024年下半期のプライベート・キャピタルにおけるM&Aの見通し

長い間期待されていたM&Aの好転が本格化すれば、プライベート・キャピタルは急速に動き出すでしょう。膨大なディールと、それらディールがもたらす莫大な経済的効果を考えると、ようやく堰が開放されたとき、プライベート・マーケットのプレイヤーはいち早くその波に乗ることになるでしょう。ディールメーカーたちは、当面は現在の情勢下でより懸命に働かざるをえません。しかし、一度成功が訪れれば後は安心です。M&A市場が再び活況を取り戻せば、業界内での統合が進み、リーディングプレイヤーこそ新たな勢力としてその地位を確固たるものにすることができるでしょう。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、2023年12月31日時点のPE投資先企業数に関するデータはPitchBookから入手したものです。2024年1月1日時点の企業債務の満期データは、S&P Global Ratings Credit Research & Insightsに基づいています。2024年3月31日時点のプライベート・キャピタルによる資金調達データおよび2024年3月31日時点の世界の運用資産残高のデータはPreqinの情報に基づいています。2023F年12月31日時点の個人投資家の貯蓄の潜在的プールは、Cerulli AssociatesのThe Cerulli Report on U.S. Alternative Investments 2023のデータに基づいています。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Eric Janson
PwC米国、パートナー、グローバルPE・リアルアセット・ソブリン投資ファンドリーダー

Mairi McInnes
PwC英国、ディレクター

Andrea Grogan
PwC米国、シニアマネージャー

※本コンテンツは、PwC米国が2024年6月に公開した「Global M&A trends in private capital: 2024 mid-year outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

各国・地域別のプライベート・キャピタルのM&A動向については、下のボックスから選択してご覧ください。

2024年初頭時点の「世界のM&A業界別動向:2024年の見通し」は以下よりご覧いただけます。

「2024年の見通し」を読む

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ