2024年上半期最新情報

不動産業界における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Real Estate hero image
  • 2024-08-06

不動産 M&Aは増加する傾向にあり、ディールメーカーの間では楽観的な見方が強まっています。その背景には、アセットクラスの増加、プライベートクレジットの役割拡大、価値創造への注力などがあります。

市場ダイナミクス、デジタルイノベーション、サステナビリティ要因が不動産の構造的変化の引き金となっており、その証拠に、不動産アセットが従来の5つのクラス(リテール、産業、集合住宅、ホスピタリティ、オフィス)から、学生向け住宅やデータセンターなどの成長性の高いセクターへと拡大しています。加えて、オペレーションコストの上昇を背景に、不動産運用会社は現在の運用モデルを見直し、戦略を変更することを迫られており、M&Aを通じた価値創造の機会を模索しながらリスクプロファイルを拡大しています。こうした新たな動きは、富裕層、ファミリーオフィス、プライベートクレジット、政府系ファンド、インフラファンドといった非伝統的な投資家をも惹きつけています。伝統的な銀行や生命保険の投資家から資金が引き揚げられる中、こうした投資家が資金ギャップを埋めるために参入しているのです。

ディストレスト案件の売却活動は予想に反して控えめです。現状では資本コストが高いことから、M&Aの動きはこれまでのところ限定的となっています。しかし、金利の緩和が始まれば、事業環境はより好転すると予想されます。全体として、既存の投資家が新たな事業環境に順応し、オポチュニスティックな投資家が新たな投資機会を獲得するため、2024年には不動産M&A取引が増加すると予想されます。

「ネガティブな見出しが並んではいますが、今日の市場で起きているM&Aの件数は相当なものであり、さらに加速しています。市場参加者が協力して課題の解決策を見出し、自分たちでコントロールできることに焦点を当てる中で、このような状況が生まれています」

Tim Bodner,PwC米国、パートナー、グローバル不動産ディールズリーダー

M&Aスポットライト:学生寮

多くの国の大学やカレッジは、学生寮の需要に追いつくことができず、米国やその他の国の国立教育統計センターの予測では、今後数年間で大学への入学者数がさらに増加すると予測されています。

不動産管理ソフトを提供するRealPageのデータによると、2024年4月現在、米国175大学の2024~2025学年度の学生寮のプレリース入居率は72%(2023年以前の水準は70%未満)でした。同じ米国の大学では、家賃が前年比で5~6%上昇しており、学生寮の需要と供給のギャップが浮き彫りになっています。

学生寮の全体的な取引件数は依然として低水準ですが、最近の取引は、投資家が学生寮セクターの成長の可能性を認識していることを示しています。2024年上半期の学生寮関連の注目案件には、KKRによる Blackstone Real Estate Income Trustの19物件ポートフォリオの16億米ドルでの買収提案や、MapletreeによるCuscaden Peakの31物件ポートフォリオの13億米ドルでの買収などがあります。

学生寮というアセットクラスのファンダメンタルズと、不況に強い投資先を求める投資家の動きから、学生寮セクターのM&Aの機運は高まると予想されます。

M&Aスポットライト:政府系ファンドとサステナビリティ

2024年、インド、欧州、英国、米国など世界の主要国の多くで国政選挙が行われます。これらの選挙が世界の不動産投資に与える主な影響は、サステナビリティとアフォーダブルハウジング政策に関連したものとなるでしょう。世界各国の政府は、政府系ファンドや年金ファンドの投資決定において、ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を取り入れる傾向を強めています。欧州委員会がブリュッセルにあるオフィスビルの半分を再開発のために売却すると決定したことや、ノルウェー政府系ファンドがESG要素に基づく不動産投資を引き続き提唱していくと発表したことなどがその例です。

同様の投資テーマは、民間不動産投資の世界でも顕著になることが予想され、ブラウン・トゥ・グリーン・ファンドは、既存のブラウン不動産資産を脱炭素化するためのグリーンプロジェクトへの投資を推進しています。サステナビリティに関する規制に確実に準拠するため、投資決定において気候変動への影響を考慮する運用会社が増えています。不動産セクターの投資対象として注目されているデータセンターは、その膨大なエネルギー消費と熱排出により、サステナビリティに関する規制の観点からの精査に直面しています。業界は強化される規制を遵守するために、グリーン対策を取り入れ、環境への影響を最小限に抑えるようトランスフォーメーションを実現することが求められます。M&Aは、このようなトランスフォーメーションへの転換を後押しすることになるでしょう。

2024年上半期のM&A金額

不動産ディール金額(2020-24年第1四半期)

注:1,000万米ドル以上の不動産およびポートフォリオに基づく不動産取引総額(開発物件を除く)。
出典:MSCIリアルデータアナリティクス

2024年第1四半期、世界の不動産ディール件数は、主に不確実な金利環境とバリュエーションに関する買い手と売り手のギャップが続いたことなどにより減少しました。欧州中央銀行が2024年6月に発表した利下げと米国連邦準備制度による利下げの可能性により、市場の安定性が高まり、アセットクラス全体の取引が活発化すると予想されます。

不動産業界におけるM&Aの主なテーマ

2024年の不動産市場に対する当初の予想では、満期を迎える案件が多いこと、不動産バリュエーションが低下していること、金利環境が引き続き不透明であることから、不良債権売却が市場の動きを主導すると考えられていました。MSCI Mortgage Debt Intelligenceによると、2024年に満期を迎える予定の米国の商業用不動産ローンの量は6,000億米ドルと推定されています。2025年と2026年にも同様の満期があることを考慮すると、現在の満期の壁はより厳しいものとなります。 

前述の通り、世界の不動産取引量は減少を続けています。しかし、金利引き下げに関するニュースなど、明るい材料も存在します。さらに、世界金融危機(GFC)から学んだ教訓により、貸し手と借り手は差し押さえではなく、借り換えや変更を検討するようになっています。そうすることで期間を延長し、その間により有利な市場環境が実現することを期待しているのです。この傾向は2023年に現れ、満期を迎える予定だった2,140億米ドルの米国不動産ローンは契約変更または借り換えの対象となりました。欧州では、不良債権売却の件数は増加していますが、その総額はGFC後の数年間に比べれば大幅に減少しています。世界全体では、多くの市場参加者が満期待ち案件に対してより解決策を重視したアプローチをとっているため、市場で大きな不良債権を探す投資家にとっての機会が減少している可能性があります。その結果、より高いリターンを求める投資家は、別のタイプの不動産に目を向け、リスクプロファイルの上昇をより受け入れやすい別の資金源を見つける必要があるでしょう。 

投資家が利回りを追求し、不動産の利用者が建築環境との関わり方を見直す中で、不動産セクターは、進化しています。 不動産ポートフォリオの構成も変化しており、インフラや学生向け住宅といった、以前はニッチなアセットクラスとされていたものに対する投資家の関心が高まっています。新興アセットクラスの多くは複雑で運用に手間がかかるため、投資ビークルにとってはリターンへの期待、投資家への報告義務、人的要件の面で影響があります。

MSCIによると、2024年第1四半期の世界の収益不動産の取引高は1,302億米ドルで、前年同期比19%減少しました。取引高の減少は、オフィスビルなどの歴史的に重要な投資セクターの構造的変化による部分もあります。PwCとUrban Land Instituteが発行した「2024年における不動産の新たな動向」レポートでも論じているように、伝統的なアセットクラスからの脱却が切実に求められています。 

テクノロジーへの要請と住宅不足により、投資家は従来のアセットクラスからデータセンター、学生向け住宅、賃貸住宅へと焦点とポートフォリオ構成をシフトしています。全体の販売量は減少したものの、2024年第1四半期のオルタナティブセクターの販売量は前年同期比で41%増加し、当四半期の全体の約70%を占めました。 

また、高級品を扱う小売企業が、高級品コレクションを供給するために世界各地の一等地の不動産を買い占め、ブランドエクイティを活用してホスピタリティや住宅セクターに進出する傾向も強まっています。現在の金利市況でより高いリターンを得るには、より徹底された運営戦略の成功が必要になるかもしれません。

商業用不動産価値の下落による損失への懸念から、融資基準を引き締めている従来の銀行は融資を控えるようになっています。このため、民間金融機関に資金ギャップを埋める機会が生まれています。IMFによると、2023年の法人向け非金融機関融資総額は約2.1兆米ドルで、現在の金利環境を踏まえると、この額は2024年には増加すると予測されています。 

不動産の観点からは、PEREの報告によると、大手不動産クレジットマネージャーは2024年の資金調達目標を前年比で約19%増加させています。また、運用可能な資本を持つファミリーオフィス、政府系ファンド、ノンバンク機関など、エクイティサイドでも新たな資金源が生まれています。

これまでは、レバレッジと低金利環境があれば、十分な投資収益率を確保することができました。インフレと金利上昇という現在のマクロ経済環境では、不動産ファンドマネジャーはパラダイムシフトに直面しており、リターンを生み出し価値を創造するために、運用の効率化やその他の最適化の方法を見つける必要があります。 

運用の効率性が重視されるようになったことで、運用会社は既存の企業インフラが投資戦略のニーズにどのように合致しているかを検討するようになりました。さらに、不動産会社は、グランドアップ開発や不動産クレジットなど、新たな戦略を検討しています。このような戦略の転換には、新たな業務を遂行するための適切なスキルセットを備えた人材の再配置が必要です。この人材ギャップに対処するという新たな傾向は、2024年5月にPretiumが不動産管理プラットフォームのBH Management Servicesを買収した事例や、Blue Owlが新たに設立した不動産融資部門を率いる人材としてGICの不動産クレジットの前グローバルヘッドを採用した人材獲得事例などにも見られます。2024年にリターンを効率的に上げ、新規市場に効果的に参入するためには、新規または隣接する投資テーマに関連した戦略的買収が必要になります。 

2024年下半期の不動産業界におけるディールメーカーによる2024年の主なアクション

不動産業界のディールメーカーは、適切な機会を捉えて戦略を素早く転換し、新たな人材を獲得し、価値創造を推進し続けられれば、持続可能な成果を生み出すことに成功するでしょう。ダイナミックな不動産市場においては、アジリティと市場動向に沿った戦略が強みとなります。十分な準備をしておくことで、ディールメーカーは適切な機会が生じた際に迅速に行動することができます。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源、PwCとUrban Land InstituteのEmerging Trends in Real Estate® 2024レポート(欧州、アジア太平洋、米州)のデータ、および当社独自の調査に基づいています。米国の学生寮の入居率と家賃上昇率に関するデータは2024年4月時点のもので、RealPageのデータに基づいています。本文で言及している世界および地域の不動産取引額は、MSCI Real Capital Analyticsの2024年3月31日までのデータに基づく1,000万米ドル以上の非開発物件を対象としています。米国の商業用不動産ローンの満期に関するデータは、MSCI Mortgage Debt Intelligenceの2023年12月31日時点のデータに基づいています。法人向け非機関融資のデータはIMFの2023年の数字に基づいています。最大手の不動産クレジットマネージャーによる資金調達データはPEREのデータに基づいています。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Tim Bodner
PwC米国、パートナー、グローバル不動産ディールズリーダー

Haley Anderson
PwC米国、ディレクター

Anh Pham
PwC米国、シニアマネージャー 

※本コンテンツは、PwC米国が2024年6月に公開した「Global M&A industry trends in real estate: 2024 mid-year outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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2024年初頭時点の「世界のM&A業界別動向:2024年の見通し」は以下よりご覧いただけます。

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