2024年上半期最新情報

テクノロジー・メディア・情報通信における世界のM&A動向

Global M&A Industry Trends in Technology, Media & Telecommunications hero image
  • 2024-07-23

ディールメーカーはテクノロジー、メディア、情報通信セクターのダイナミックな環境に順応しつつあり、再びM&Aを活用する方向に戻る可能性が高まっています。

2024年も半ばを過ぎようとしていますが、テクノロジー・メディア・情報通信(TMT)セクターのディールメーキングについては、楽観視し続ける理由があります。PwCが「世界のM&A 業界別動向 2024年の見通し」で記載した、生成AIやその他の新技術の進歩、金利に関する確実性の向上、記録的な投資資本、ディールメーキングに対する需要の高まりといったポジティブな指標は依然として実際に起きていることです。2024年の最初の6カ月間で、早くもIPOとテクノロジーのメガディールが復活する兆しが見られます。金利上昇、インフレ圧力、地政学的要因、2024年後半の米国選挙結果をめぐる不確実性が、ディールメーキングの動きを抑制する可能性はありますが、状況が好転し始めれば、M&Aは再び活発化するものと思われます。

72%

のTMT分野のCEOは、テクノロジーの変化が、今後3年間で自社の価値の創造、実現、獲得の方法に変化をもたらすと考えています。

出典: PwC第27回世界CEO意識調査

ソフトウェアM&Aが首位を維持

ソフトウェアは引き続きTMTにおけるM&Aの最大の牽引役となっています。ディール件数は依然として過去の水準を下回っているものの、2024年上半期にソフトウェア分野で発表されたディール金額は昨年を上回る勢いです。2024年上半期に発表されたディールでは、Synopsysが提案した325億米ドル規模のAnsysの買収が、全産業セクターを通じて世界第2位の規模を記録しました。2024年上半期に発表されたソフトウェア・メガディール(50億米ドル以上のディール金額)は、2023年上半期の4件に対し、6件となっています。

2024年上半期に発表されたテクノロジーディールのディール金額上位10件
順位 サブセクター ターゲット

ディール金額

(億米ドル)

1 ソフトウェア Ansys, Inc. 32.5
2 ハードウェア Juniper Networks, Inc. 13.6
3 ソフトウェア Tronic LLC 12.2
4 ソフトウェア HashiCorp, Inc. 7.7
5 ソフトウェア Squarespace, Inc. 6.6
6 ITサービス Vantage Data Centers 6.4
7 ITサービス X.AI Corp. 6.0
8 ソフトウェア Altium Limited 5.8
9 ソフトウェア Darktrace PLC 5.5
10 ITサービス Nuvei Corporation 5.0
上位10件の合計金額 101.3
上位10件中のソフトウェア分野の合計金額 70.3
上位10件に占めるソフトウェア分野の金額の割合 69.4%

出典:2024年5月31日までに発表されたディールの上位10件:
LSEGとPwCの分析

ソフトウェアの予測可能な売上とキャッシュフローは、現在の低成長環境においても、戦略的バイヤーとプライベート・エクイティ(PE)の両方にとって引き続き魅力的です。ソフトウェア・ディール全体の件数に占めるPEのシェアは、2023年下半期の63%から2024年上半期の59%へと4ポイント低下したものの、2019年から2023年の平均と同水準を維持しています。しかし、ソフトウェア・ディール全体の金額に占めるPEのシェアは、2023年下半期の83%から2024年上半期の59%へと34ポイント減少しており、過去5年間の平均を大きく下回っています。

サイバー製品は、オンプレミスやITサービスではなく、SaaS(Software-as-a-Service)として提供されることが多くなっているため、サイバーセキュリティもソフトウェア・ディールの優位性を後押しするかもしれません。規制当局がサイバーセキュリティの報告強化を義務付け、サイバー脅威に対する意識が高まる中、この分野はソフトウェア・ディールの中でも注目すべき興味深い領域となるでしょう。Ciscoによる280億米ドルでのSplunk買収(2023年最大のソフトウェア・ディール)、Thoma BravoによるサイバーセキュリティAI企業Darktraceの53億米ドルでの買収提案、CyberArkによるマシンIDのスペシャリストVenafiの15米億ドルでの買収提案、航空機メーカーAirbusによるサイバーセキュリティおよびITソリューションプロバイダーINFODASの買収はいずれも、このサブセクターへの投資への関心が継続していることを示しています。さらに、Palo Alto Networksは最近、IBMのSaaSサービスであるQRadarの買収を発表しました。これは、プロバイダーがエンドツーエンドのセキュリティ・オペレーション・プラットフォームを提供しようとする中で、この分野での再編が進む前兆かもしれません。

「人工知能は、まだM&Aの原動力にはなっていないものの、ベンチャー企業や企業の投資を非常に集めています。Google、Meta、Microsoft、Amazonが2024年に予定している資本的支出は、合計すると2,000億米ドル以上になります。これは、今年のハイテクセクターのM&Aのほぼ全額に相当します」

Barry Jaber,PwC英国 グローバルテクノロジー&テレコミュニケーションディールズリーダー、Strategy&パートナー

M&Aが活発化する分野

2024年後半にM&Aが活発化する分野は以下の通りです。

前述の通り、ソフトウェアのディール金額は、企業が社内に関心を集中していた期間を経てディールメーキングを再開したため、2023年の水準と比較して増加しています。

情報通信企業は、将来に向けたトランスフォーメーションを続けています。PwCの第27回世界CEO意識調査によると、通信事業者のCEOの52%が、現在のビジネスのやり方を継続した場合、10年後には自社が経済的に存続できないと回答しています。情報通信セクター全体を見渡すと、企業や投資家は、通信事業者の統合型ビジネスモデルのコンポーネントを、領域ごとにより集中した、つまり「ピュアトーン」ビジネスモデルに移行することで価値を引き出せると認識しています。SprintとT-Mobileの合併、BTグループによるBTSportsのWarner Bros. Discoveryとのジョイントベンチャー事業へのスピンオフ、American Towerのインド事業の売却発表など、ビジネスモデルの再構築へのシフトはすでに見られます。このようなシフトは、事業の簡素化と再編といった過去数年における業界トレンドの中にも見られます。

PwCのグローバル エンタテイメント&メディア アウトルック 2023-2027によると、世界の広告収益は7,637億米ドルから9,526米億ドルに増加し、年平均成長率は4.5%になると予測されています。このような成長が実現すれば、広告はエンタテイメントとメディアの3大カテゴリーの中で最初に年間売上1兆米ドルに達することになります。特にストリーミング・サービスが成熟するにつれて、ROIを増加させるためにターゲット広告に依存するエンタテイメントとメディアビジネスにとって、広告は中核的な収益源となっています。そして、資本はすでに投入されています。例えば、Amazonはナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の試合のストリーミング配信を拡大し、重要なプレーオフの試合も含めるようになりました。こういった市場の拡大は、例えばAppleやNetflixのようなハイテク企業が、その強固なデータコレクションを活用してターゲット広告、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)、サプライサイドプラットフォーム(SSP)を開発し、消費者の財布にリーチすることにより、業界が収益チャネルをさらに拡大する機会を生み出します。エンタテイメント企業が消費者支出のシェア拡大を競う中、アドテク・ベンダーやデジタル・マーケティング・エージェンシーなど、広告とその構成要素に関連するディールがM&Aの焦点になると考えられます。 

「消費者の時間とお金に対する継続的なプレッシャーは、より広範なエンタテイメントとメディアのエコシステムを価値重視へと駆り立てています。ジョイントベンチャー、パートナーシップ、バンドリングが引き続き顧客満足度を高め、価格設定をサポートし、解約を最小限に抑え、新規顧客をプラットフォームに誘導する価値提案を推進すると考えられます」

Bart Spiegel,PwC米国パートナー、グローバルエンタテイメント&メディアディールズリーダー

2024年にM&Aを促進する主なテーマ

  • 積み上がった需要の解放:景気後退に対する懸念の緩和、インフレの安定化、大量の手元資金、ディールメーキング意欲の高まりを反映していないバリュエーションなど、いくつかのポジティブな要因から、TMTのM&Aは今後6~12カ月の間に成長する可能性があります。先に述べたように、2024年上半期には、特にソフトウェア・サブセクターで大型ディールが復活し、企業によるディールが主流となっています。下半期には、PEがM&Aのシェアを回復する可能性があります。新規の資本投入だけでなく、既存のポートフォリオ事業の売却を通じて投資家に資本を還元するという資金運用へのプレッシャーが高まっているからです。過去18~24カ月の間、PEはオペレーションの効率化に注力してきました。しかし、この傾向は減速し、2024年後半から2025年前半にかけてディールが活発化する可能性があります。
  • IPOの復活:株式市場の好調により、2024年のIPO市場は改善する可能性があります。例えば、S&P500指数とMSCI指数は2023年に25%近く上昇し、2024年前半のIPO市場では最近いくつかの成功例が見られました。これらの上昇は、IPOアフターマーケットのパフォーマンスの大幅な上昇と相まって、2024年にIPO市場が回復する可能性を示唆しています。しかし、2024年第1四半期は、昨年の減速傾向が続き、IPO件数は291件と、前四半期比22%減、前年同期比13%減となりました。世界全体の調達額は232億米ドルで、前四半期比7%増、前年同期比3%増となり、大型IPOの増加傾向が見られました。TMTはこの傾向を立証しており、2024年上半期に2件の大型IPOがありました。Redditの8億6,000万米ドルの公募とAstera Labsの8億2,000万米ドルの公募は、将来のIPOを示唆しているかもしれませんが、マクロ経済の圧力、規制の監視、差し迫った米国大統領選挙のため、大手候補のいくつかは2025年まで待つかもしれません。

2024年のM&A件数と金額

テクノロジー・メディア・情報通信のディール件数(2019~2024年上半期)

タブをクリックすると、各地域のチャートが表示されます。

Bar chart showing M&A volumes for the technology, media and telecommunications sectors. Deal volumes in TMT increased by 5% between 2022 and 2023 although deal values declined by 55% due to a lower number of megadeals.

出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)

2024年上半期のディール件数は2023年上半期に比べ36%減少し、ディール金額は54%増加しました。ディール金額のセクタートレンドはさまざまで、メディア・エンタテイメントと情報通信はディール件数の減少にもかかわらず、ディール金額の伸びを示しました。ディール金額に関するセクターの傾向は様々で、メディアとエンタテイメント、テクノロジーはディール金額の増加を示しましたが、全体的なディール件数は減少しました。

テクノロジーセクターは、2024年上半期のディール件数の83%、ディール金額の74%を占め、引き続き最大のセクターとなりました。

テクノロジーセクターでは、ディール件数の69%、ディール金額の64%をソフトウェアが占めています。2024年上半期、ソフトウェアのディール件数は2023年上半期から42%減少しましたが、ディール金額は6件のメガディールにより41%増加しました。次に大きなサブセクターであるITサービスは、ディール件数およびディール金額で18%を占め、今年上半期には3件の大型ディールにより、ディール件数は23%減少したものの、ディール金額は68%増加しました。半導体セクターもディール件数は29と減少したものの、ディール金額は93%増加しました。これは主に1件の大型ディールによるものです。

テクノロジー・メディア・情報通信における2024年のM&Aの見通し

経済情勢が不透明な中で企業が存在価値を維持するためには、レジリエンスとスピードを優先し、トランスフォーメーションをもたらすようなディールから価値を引き出す必要があります。ディールメーカーが検討すべき重点分野は以下の4つです。

  • 複雑さを受け入れる:統合や分離に伴う複雑な詳細や課題をうまく切り抜け、スムーズな移行を実現するための計画を立てます。従業員、役員、投資家、社会に対して、明確で説得力のあるストーリーを提示し、トランスフォーメーション戦略の一環として企業文化にも取り組みます。
  • 成果の重視:ディールの目的を会社のイニシアチブや戦略目標と整合させ、市場シェアの拡大、業務効率の改善、収益性の向上など、望ましいシナジー効果や成果を達成します。
  • 長期的な成長に向けたポジショニング:持続可能な競争優位性が得られ、市場リーチを拡大し、長期的な価値創造を推進できるターゲットを特定します。価値創造のために十分に活用されていない事業については売却を検討し、経営陣の時間とリソースを戦略的に最も適した事業に集中させることを検討します。
  • トランスフォーメーションの機会の認識:ディールやトランスフォーメーションへの投資が、ディールメーカーの積極的なポートフォリオ指針や複数年にわたる事業計画にどのように役立つかを評価します。Go-to-Market戦略、情報テクノロジー、人的資本、オペレーション、サプライチェーン、財務、会計、税務、財務にわたるイニシアチブと主要な買収価値ドライバーを検討します。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2024年6月30日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2024年7月3日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Barry Jaber
PwC英国 グローバルテクノロジー&テレコミュニケーションディールズリーダー、Strategy&パートナー

Bart Spiegel
PwC米国パートナー、グローバルエンタテイメント&メディアディールズリーダー

※本コンテンツは、PwC米国が2024年6月に公開した「Global M&A trends in technology, media and telecommunications: 2024 mid-year outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

各国・地域別のテクノロジー・メディア・情報通信業界のM&A動向については、下のボックスから選択してご覧ください。

2024年初頭時点の「世界のM&A業界別動向:2024年の見通し」は以下よりご覧いただけます。

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