2024年上半期最新情報ヘルスケア業界における世界のM&A動向

医薬・ライフサイエンスおよびヘルスケアサービスのディールメーカー各社は、金利上昇と規制強化からの圧力にさらされる環境を乗り切ることに自信を深め、2024年のディール成立に意欲を燃やしています。真に革新的な資産をめぐる競争は依然として熾烈です。同時に、企業は価値を創出し、新たな買収に資金を投入できるような売却候補がないか、ポートフォリオを継続的に見直しています。

2024年、大手コングロマリットを統合するようなメガディールを期待する業界関係者はほとんどいませんが、大手製薬会社は今後数年間、パテントの期限切れによる収益減少を相殺できるバイオテクノロジー・ターゲットや製品を追求し続けるでしょう。大企業は、引き続き一部の製品や事業部門の売却を検討して残存するポートフォリオの成長を強化しようとしています。こうした事業売却は、負債コストが高止まりしている現在、資本調達のメカニズムとしても機能します。

「ヘルスケア業界の企業は引き続き、事業変革のためのM&A（transact to transform）に取り組み、革新的なディールの追求とノンコア事業の売却によってより大きな価値を引き出し、戦略的な成長計画を実行していくでしょう」

Christian K. Moldt,PwCドイツ、パートナー、グローバルヘルスケア業界ディールズリーダー

GLP-1への注目

2024年の見通しで予想した通り、2型糖尿病の治療や減量に使用されるGLP-1受動体作動薬の需要はヘルスケア業界に衝撃を与えており、2024年1月に完了したRocheによるCarmot Therapeuticsの買収を含め、2024年上半期に大規模なM&Aが行われました。この領域でイノベーションを起こせるバイオテクノロジー企業、特に経口投与法の提供に重点を置く企業は、大いに注目されるでしょう。既存のGLP-1製剤企業も、M&Aを利用して製造能力を増強し、需要の急増に対応しています。例えば、Novo Nordiskによる165億ドルを投じた製造受託会社Catalentの買収提案や、Eli LillyによるNexus Pharmaceuticalsの注射薬製造施設の買収提案は、いずれも生産能力の増強を目的としたものです。

私たちは、製造能力を自社内に取り戻すことを目的としたこれらのディールが、製薬業界におけるより広範なトレンドの始まりを示すとは考えていません。むしろ、GLP-1受動体作動薬の大量需要による供給不足に特化したものでしょう。他の製薬会社は、製造受託機関に生産を委託することで、資産の軽量化と無駄のない生産戦略を追求し続けるでしょう。

医薬・ライフサイエンス業界では、GLP-1受動体作動薬の普及が糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患などの治療製品やサービスの需要に波及する可能性があることから、引き続きその需要を注視しています。GLP-1受動体作動薬関連サービスの需要拡大が予想されるため、すでにいくつかの製薬サービス会社がネットワークと能力を拡大し、態勢を整えています。

M&Aが活発化する分野

2024年の見通しで予想されていたように、以下の分野が引き続きM&Aが活発化する分野になると予想されます。

パテントクリフを回避するためのバイオテクノロジー企業買収：大手製薬企業は、2020年代後半もパテントクリフとパイプラインのギャップに直面し、成長計画を達成するためにM&Aの機会を探すでしょう。2020年代後半にパイプラインのギャップを埋めることができる中堅・中小バイオテクノロジー企業は、2024年に大きな注目を集めるでしょう。
価値創出のための売却：大手製薬コングロマリットの間では、ノンコア事業や低成長資産を売却し、コアコンピタンスにより合致した新規投資資金を捻出しようという意欲が依然として高まっています。同様に、コングロマリットを統合し、保有期間が終わりに近づいているプライベート・エクイティ（PE）ファンドも、IPOではなく売却によってコングロマリットを分割しようとしたり、ユニット全体として売却したりする可能性があります。2024年においても、ポートフォリオの最適化はディールメーカーの重要な課題であることは間違いないでしょう。
PL負担軽減のための代替資金調達：トランスフォーメーションの目標を達成するために、買収に代わる選択肢として、パートナーシップやジョイントベンチャーの活用を検討する企業が増えると予想されます。企業はイノベーションに向けた資金を関連コストが損益計算書を圧迫しない形で調達できるよう、このような斬新なストラクチャーを模索し、会計上の扱いに関するアドバイスを求めています。

デジタルイノベーションとAI：ヘルスケアサービス企業は、分析テクノロジー、消費者向けデジタル治療の提供、スマートヘルス機器、その他のソフトウェアイノベーションの導入を通じてデジタル化を図る機会を探しており、そうしたデジタルソリューションを提供できるデータアナリティクスなどのテクノロジー企業の買収や提携を引き続き進めるでしょう。AIの活用はまだ初期段階にありますが、企業はユースケースを模索しており、M&AによってAIのケイパビリティを獲得する可能性もあります。
消費者向けヘルスケア：世界人口の高齢化や所得水準の上昇といった人口動態の変化に対応して、消費者向け健康食品の需要が拡大しています。消費者向けヘルスケアに特化する企業は、2024年も魅力的な買収ターゲットであり続けるでしょう。なぜなら、最近分社化されたOTC薬や消費者向けヘルスケアの企業は、M&Aを活用して自社の成長とトランスフォーメーション計画を加速させる見通しだからです。

ヘルスケア業界における2024年のM&Aの主なテーマ

規制当局の役割：米国連邦取引委員会（FTC）をはじめとする規制当局は、ヘルスケアサービス業界におけるM&A活動を厳密に監視しており、患者ケアへのアクセスを阻んだり、その価格を引き上げたりする可能性があるとみなされるディールに関しては、何らかの措置を講じるものと見られています。産業界はまた、Novo NordiskとCatalentのディールに関するFTCのレビューを注視しており、規制当局が垂直的合併に対して強制措置を講じる計画があるかどうかを見守っています。
ノンコア事業の売却：金利上昇に伴い、企業は株主により高いリターンを示さなければならなくなるため、ノンコア事業や利益率の低い事業を戦略的に評価し、売却対象として特定する動きが続くと予想されます。このような資産売却によって得た資金は、企業の戦略的ビジョンに合致した資産の取得を目指す企業のディールメーキング能力を高めることになるでしょう。
収益率への圧力：製薬会社は研究開発（R&D）活動に加え、バイオテクノロジー企業に資本を振り向けることで、医薬品パイプラインのギャップを解消しようとするでしょう。金利が上昇し、投資に対するリターンが求められる中、自社の価値を裏付ける優れたデータを持つ売り手は、買い手候補から最も高い関心を集めるでしょう。
細分化されたセクターの継続的再編：個人クリニック、専門医療機関、歯科クリニック、動物病院、眼科、体外受精、老人ホーム、高齢者介護などのサービスグループは、依然として細分化されたままです。PEは引き続きこれらのセクターに注目すると思われます。
費用対効果の高いバリューベースヘルスケアを提供するデジタル機能：分析テクノロジー、消費者向けデジタル治療の提供、スマートヘルス機器、その他のソフトウェアイノベーションの導入を通じてデジタル化を図る機会を探している企業は、そうしたデジタルソリューションを提供できるデータアナリティクスなどのテクノロジー企業の買収や提携を引き続き進めるでしょう。

ヘルスケア業界におけるディールメーカーによる主なアクション

ヘルスケア業界のディールメーカーは、成長を促進し、価値を創出し、持続可能な成果を生み出す取引を特定するために、常に数歩先まで考えを巡らせる必要があります。ヘルスケア業界各社が新しい環境に対応するためにビジネスモデルを変革する必要性から、2024年下半期もM&Aは安定したペースで続くでしょう。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源からのデータと当社独自の調査に基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2024年5月31日時点でロンドン証券取引所グループ（LSEG）が提供し、2024年6月3日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています（噂や取り下げられた取引を除く）。PwCの業界マッピングに合わせるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Christian Moldt
PwCドイツ、パートナー、グローバルヘルス業界ディールズリーダー

André Sassmannshausen
PwCドイツ、ディレクター

※本コンテンツは、PwC米国が2024年6月に公開した「Global M&A trends in health industries: 2024 mid-year outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

各国・地域別のヘルスケア業界のM&A動向については、下のボックスから選択してご覧ください。

2024年初頭時点の「世界のM＆A業界別動向：2024年の見通し」は以下よりご覧いただけます。

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ヘルスケア業界における世界のM&A動向

ディールメーカーは多忙な2024年下半期に向けて準備を一層進めており、M&Aはヘルスケア業界全体で価値を創出し、イノベーションを推進するための重要なツールであり続けるでしょう。