2025年の見通し

金融サービス業における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Financial Services hero image
  • 2025-03-10

メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年の金融サービス業のM&Aが活発化するとの慎重ながらも楽観的な見通しが広まっています。

メガディールの復活とディール金額の増大に伴い、2025年の金融サービス業のM&Aが活発化するとの慎重ながらも楽観的な見通しが広まっています。

ディールメーカーは2025年の金融サービス業のM&Aに対して楽観的です。ディール件数は引き続き低水準であったものの、メガディールが増加し、ディール金額も増大した2024年の勢いを引き継ぐと見られます。2024年にディールメーキングを阻害した要因のいくつかは軽減されましたが、金融サービス業はマクロ経済情勢や地政学的緊張による不確実性に引き続き直面しており、また競争が激しく規制の厳しいビジネス環境において利益率に対する圧力にもさらされています。

M&Aは、金融サービス業界のプレーヤーがその将来を形成し、ビジネスモデルを調整し、影響力を維持しながら成長を生み出す上で、不可欠な戦略的要素であり続けています。金融サービス業におけるディールメーキングには、収益と利益率の両方に焦点を当て、新たな市場やテクノロジーにアクセスすることを目的とした買収が含まれると予想されます 。例えば、銀行は、拡大するテクノロジーニーズ、変化する顧客嗜好、組込型金融などのトレンドによって起こるビジネスモデルのディスラプションに対応するために、フィンテック企業の買収や提携をするかもしれません。事業売却は、不採算ポートフォリオのバランスを調整し、より成長性や収益性の高い分野への再投資に使用できる資本を生み出します。

ディールメーカーはすでに大規模ディールへの意欲を強く示しており、2025年もこの傾向が続くと予想されます。2024年の金融サービス市場におけるメガディール(50億米ドルを超えるディール)には、Capital Oneが提案した米国のディスカバー・ファイナンシャル・サービスの353億米ドルの買収、中国でのGuotai Junan SecuritiesによるHaitong Securitiesとの145億米ドルの合併、BBVAが提案したスペインのBanco Sabadellとの134億米ドルの合併などがあります。

「成長とトランスフォーメーションを推進しなければならないというプレッシャーが、2025年の金融サービス業のM&Aをより活発化させる原動力となるでしょう。2024年の勢いに乗って、より多くのメガディールが発表されるでしょう。このような大型ディールは、ディールメーカーの自信の高まりを示すものであり、すべての市場参加者が動き出さなければならないという圧力を高めるものです」

Christopher Sur、 PwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービスディールズリーダー

米国は新政権の下で金融規制緩和の時代を迎えると予想され、他国の規制対象金融サービス会社に対する圧力が強まる可能性があります。例えば、欧州の銀行の競争が激化すれば、欧州の規制当局はより厳しい資本規制の緩和や実施の延期を求める圧力に直面する可能性があります。このような理由と、世界各国の成長率の違いによって、地域間の格差が拡大し、M&Aが行われる地域に影響を与える可能性があると予想されます。

76%

の過去3年間に大規模な買収を行った金融サービス業のCEOが、今後3年間で1件以上の買収を計画している。

出典:PwC「第28回世界CEO意識調査」(2025年1月)

サブセクターの動向は以下の各セクションをご覧ください。

金融サービス業における2025年の主要なM&Aテーマ

  • 規模とレバレッジ:アセット・ウェルスマネジメントセクターでは、企業は買収を通じた成長により、規模を活用してプライベート・クレジットやオルタナティブの機能を深化させることができます。買収企業は顧客体験を向上させることで、自社の競争力を高められます。また、銀行は買収によって規模を拡大することで、新規および既存の資本要件に対応するために予想されるコスト増を吸収したり、テクノロジー投資のコストをより幅広い資産基盤に分散したりすることもできるでしょう。欧州市場だけでなく、米国市場においても、特に中小金融機関の再編が予想されますが、米国の新政権は規制に対してより緩やかなアプローチを取ると予想されており、中小金融機関の合併・買収がより容易になる可能性があります。
  • ビジネスモデルの再発明:テクノロジーによってビジネスモデルのディスラプションが起こり、新規参入企業が競争の激化に直面する中、金融サービスプレーヤーのエコシステムは急速に進化しています。金融サービスプレーヤーは、バリューチェーン、流通チャネル、顧客とのコミュニケーション、テクノロジープラットフォームなど、事業のあらゆる側面を体系的に見直し、影響力を維持するための新たなビジネス方法を特定する必要があります。これは金融サービス企業にとって、バリューチェーンにおける組込型金融とオープンバンキングの重要性が増していることを考慮すると特に重要です。トランスフォーメーションの必要性は、M&Aの主要な推進要因の1つであり、従来の金融サービスセクターにとどまらず、テクノロジー、消費者、健康、自動車など、他のセクターとのクロスセクターディールメーキングの機会を生み出しています。
  • プライベート・クレジット:プライベート・クレジット市場は急成長しており、Preqinは世界のプライベート・クレジット運用資産残高が2024年の1.7兆米ドル近くから2028年には2.4兆米ドルに拡大すると予測しています。プライベート・クレジットの台頭は、以下のような形で金融サービス業界のディールメーキングに影響を与えています。
    • アセットマネジメント会社やその他のノンバンク系金融機関は、プライベート・クレジット会社を買収することで、商品の多様化を図り、定期的な手数料収入を増やしています。
    • プライベート・クレジット・ファンドは、市場シェアを拡大するために他のプライベート・クレジット・ファンドを買収しており、また、ニッチ市場やサービスが行き届いていない市場への進出に役立つ専門的な融資機能を持つ企業を買収しています。
    • 銀行は、プライベート・クレジット・プロバイダーとプライベート・デット・レンディングの市場シェアを争うため、自行の業務をリストラクチャリングし、提携や買収を模索しています。
    • アセットマネージャーは、保険会社が保有する大規模な恒久的資本プールの運用にアクセスするために保険資産を取得しており、その結果、プライベート・クレジットの需要が高まっています。
  • プライベート・エクイティ(PE):PEファンドは2025年に積極的な買い手と売り手になると予想されています。投資先としては、保険ブローカー、決済ソリューションプロバイダー、独立系ファイナンシャル・アドバイザー・ブティック、プライベート・ウェルスマネジメント、アセット・サービシング会社など、手数料主導でスケーラブルなビジネスにPE投資家が特に注目しています。PEファンドは「ドライパウダー」のために魅力的な投資機会を探しているため、資金調達力は阻害要因にはならないと思われます。売り手側の視点からは、リミテッドパートナーへの資本還元を迫られるPEによるエグジットの増加が予想されます。実際に売り手側の準備が増加している様子が見られ、2025年にエグジット活動が増加する可能性があります
  • 戦略的パートナーシップ:金融サービス企業は、収益向上のためだけでなく、コスト構造を最適化し、SaaS(Software as a Service)契約や提携を通じて構築したテクノロジーを活用する手段として、戦略的パートナーシップを模索する傾向が強まっています。このような提携により、企業は収益機会を共有しながら、バックエンド業務を戦略的に効率化し、コスト削減を図ることができます。

スポットライト:中南米におけるフィンテックM&A

過去10年間、フィンテックセクターは世界的に金融業界を再構築し、セクターの境界を曖昧にし、伝統的なプレーヤーにビジネスモデルの改革を迫り、M&Aの機会を生み出してきました。過去3年間のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達の急減により、その勢いは鈍化していますが、多くの国でフィンテックセクターは力強さと顧客への影響力の両面で成長を続けており、現在進行中の銀行業界のトランスフォーメーションから恩恵を受ける立場にあります。

中南米で追い風となっているもう1つの広範なトレンドとして、インド、東南アジア、アフリカなど、他の新興経済国において、スマートフォンとデジタル技術によって、農村部を含めこれまで十分なサービスを受けられなかったユーザーがデジタルクレジットや銀行サービスを利用できるようになっていることが挙げられます。

中南米のフィンテックエコシステムとM&A

中南米のフィンテックは、特にブラジル、メキシコ、コロンビアなどの国々において、M&Aが活発なエリアとして際立っています。FinnovistaとBanco Interamericano de Desarrollo(BID)が2024年6月に発表したレポートによると、2023年末までに中南米とカリブ海地域のフィンテックエコシステムを構成する企業は3,000社を超え、2017年以降340%増加しました。

これらの企業の多くは新興企業であり、成長にはVCからの資金が必要です。中南米のVC投資は、他の地域と同様、2021年のピークを下回っていますが、この地域のフィンテック新興企業は、全セクターの中で最も多くの資金を集め続けています。ラテンアメリカ・プライベート・キャピタル投資協会(LAVCA)によると、2024年1-9月のVCディールのうちフィンテック新興企業が占める割合は30%ですが、金額は投資されたVC総額の57%を占めています。中南米における2024年1-9月のフィンテックへのVC投資総額は16億米ドルで、2023年1-9月に比べ26%増加しました。同地域で2024年1-9月期にVCによるフィンテック資金調達を受けた上位3カ国はメキシコ(6億9,200万ドル)、ブラジル(4億8,700万米ドル)、コロンビア(2億5,400万米ドル)でした。

CB Insightsのデータによると、2024年12月時点で、中南米には32社のユニコーン(バリュエーションが10億米ドル以上の未上場企業)が存在し、その半数以上が金融サービスセクターに属しています。ブラジルに9社、メキシコに5社、アルゼンチン、エクアドル、コロンビアにそれぞれ1社ずつ存在しています。

最近の金利引き下げが株式需要を押し上げ、資本市場が再活性化する可能性があります。中南米フィンテックのIPOは、ブラジルのネオバンクであるNubankが2021年12月に26億米ドルで上場して以来行われていません。長期の休止の後、私たちは現在、いくつかの中南米フィンテックがIPO準備に向けたステップを実施しているのを把握しており、資本市場の状況次第では、いくつかの企業が2025年に市場に登場する可能性が高いと予想しています。

フィンテックの進化がディールメーキングの機会を創出

ここ数年のIPO市場の厳しさとVCの減少により、多くのフィンテックは経営効率の改善とビジネスモデルの高度化を余儀なくされてきました。その結果、地域内での事業拡大を目指して買収を検討したり、事業拡大を目指すバイヤーのターゲットとなったりしています。伝統的な金融機関は近年、独自のフィンテック機能を開発するために多額の投資を行っており、ペイメント(決済)、自動化された顧客情報確認(KYC)、コンプライアンス、AIなど、さまざまな分野でSaaS契約を通じたディール活動や収益化の機会が生まれています。この傾向は今後も続き、特に以下の3大フィンテック分野でM&Aの機会が生まれると見ています。

ここ数年、資金調達の縮小やバリュエーションの修正など、大きな課題があったとはいえ、フィンテックセクターは中南米地域で最もレジリエンスが高く、ダイナミックなセクターの1つであることが証明されました。この傾向は2025年以降も続くと予想されます。金利が低下し、ポートフォリオのリバランスに熱心な潜在的な海外投資家からの関心が高まることで、資金調達源が多様化し、資金調達ラウンドへの依存度が低下します。テクノロジーも相まって、この地域ではM&A活動が活発化し、伝統的な金融機関やテクノロジー企業との提携だけでなく、セクター再編にも貢献すると思われます。

2024年の世界のM&A件数と金額

金融サービスのディール件数と金額(2019~2024年)
タブをクリックすると、各地域のチャートが表示されます。

Bar chart showing M&A volumes and values for the consumer markets sectors. Deal volumes declined in H1'24 but deal values increased compared to both H1'23 and H2'23 largely due to some notable megadeals.

出典:LSEGとPwCの分析(データはターゲット企業の所在地に基づく)

金融サービスの世界のディール件数は2023年から2024年の間に13%減少しましたが、ディール金額は大きく異なり、71%増加しました。ディール金額の増加は主にメガディールの増加によるものです。2024年には16件の金融サービスメガディールが発表されましたが、前年は3件でした。各セクターのメガディール件数は、保険が6件、アセット・ウェルスマネジメントが5件、銀行・資本市場が5件と、いずれも増加しています。

地域別では、欧州・中東・アフリカ(EMEA)、アジア太平洋、米州はいずれも2024年中にディール件数が減少したものの、世界全体の約3分の1のシェアを維持しました。2023年から2024年にかけて、米州ではディール金額が85%増加し、世界全体のディール金額に占めるシェアは48%から52%に上昇しました。同期間中、EMEAとアジア太平洋のディール金額はそれぞれ80%、40%増加しました。地域別のディール金額のトレンドは主にメガディールの分布に起因しており、米州では10件、EMEAでは4件、アジア太平洋では2件のメガディールがありました。

金融サービス業における2025年のM&Aの見通し

金融サービス業のディールが比較的停滞していた期間を経て、2025年には金融サービス企業もPEもより積極的にM&Aに参加するようになり、メガディールへの意欲が高まると予想されます。企業はトップラインとボトムラインの両方を成長させる戦略的な必要性に駆られており、多くの企業が事業やオペレーティングモデルの変革や再発明を必要としています。PEファンドは引き続き金融サービスを魅力的な投資対象として捉えており、多くのファンドが金融サービス専門チームを設立しています。イグジットを迫られる一方で、資本を投下しなければならないというプレッシャーから、2025年もPEは金融サービスに積極的であり続けるでしょう。

※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in financial services: 2025 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

各国・地域別の金融サービス業のM&A動向については、下のボックスから選択してご覧ください。

本ページに関するお問い合わせ