2025年の見通し

不動産業界における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Real Estate hero image
  • 2025-03-10

2025年、投資家やユーザーの建築環境への新たな関わり方が不動産M&Aに拍車をかけるでしょう。

不動産ディールメーカーは、2025年について慎重ながらも楽観的であり、不動産取引を成立させようと積極的になっています。世界的な不動産取引の環境は、金利の変化、貿易政策で見込まれる変化、資本源の拡大など、さまざまな要因に対応して進化していますが、その背景には、グローバルな資本フロー、投資家の期待リターン、資本配分戦略の進化があります。その結果、投資家は今後もオルタナティブアセットクラスへの進出を続け、確立された基準やベンチマークを上回るリターンを達成するために、創造的な資金調達ソリューションを模索していくものと思われます。

伝統的な不動産アセットクラス(オフィス、商業施設、産業施設、集合住宅)は、今後も資本を受け入れ、合理的な不動産取引が行われるでしょう。しかし、不動産エコシステムにおけるオルタナティブアセットクラスのリターンは、リスク調整後ベースでは伝統的アセットクラスよりも魅力的であると考えます。オルタナティブアセットクラスには、ユーザーの建築環境への関わり方に影響を受けて生まれた伝統的なアセットクラスのバリエーションが含まれます。例えば、スポーツ会場や製造施設に隣接する複合施設や、高齢者住宅を含む複合施設に改修された小売スペースなどです。デジタル化、脱グローバル化、人口動態などに関連したものもあり、このうちウェルネスのトレンドについては以下で詳しく取り上げます。

「伝統的な不動産アセットクラスに加え、より高いリターンをもたらす新たなオルタナティブ投資の可能性が急増しています。これらは2025年以降、不動産投資家や投資コミュニティにとってますます重要になるでしょう」

Tim Bodner、PwC米国、パートナー、グローバル不動産ディールズリーダー

2025年のディール件数(発表された不動産取引の件数)は、市場の確実性が増し、投資可能な不動産アセットクラスが拡大するため、近時の取引件数を上回ると予想されますが、これは直近の四半期ごとの動向からも見て取ることができます。2024年第1四半期の伝統的な不動産アセットクラスの世界不動産取引金額は2,170億米ドルと、過去10年間で最低の水準となりました。ゼロ金利に近い状態が何年も続いた後、2022年から中央銀行が急激な利上げを実施したことで、不動産取引額は2021年(パンデミックによってグローバルなM&Aが記録的な水準に達した年)第4四半期の8,400億米ドルのピークから急落しました。しかし、2024年第3四半期には、伝統的な不動産アセットクラスのディール金額が再び上昇に転じて2,530億米ドルに達し、不動産M&A市場が底を打った可能性を示しました。それにもかかわらず、取引量は依然として低調であり、2024年1-9月期のディール件数は四半期平均7,649件と、前年同期の7,982件から4%減少しました。

中央銀行が利下げに転じたことで貸し手と投資家にとってより確実性が高まったという動向と、オルタナティブアセットクラスへの継続的な投資を背景に、2025年を通じてディールが増加傾向になると予想されます。Morgan StanleyやGoldman Sachsなどの大手投資銀行やKKRなどのオルタナティブアセット・マネージャーが行った回帰分析によると、2桁の増加が見込まれます。

しかし、M&A活動に影響を及ぼす可能性のある不確定要因は依然として残っており、楽観的な見方を弱めています。これには、多くの国で2025年に選挙が実施されることや、ドナルド・トランプの大統領再選に伴い、貿易、移民、税金などの問題に関して影響力のある米国の公共政策に変更が予想されること、米国やその他の地域で経済が引き続き堅調であることなど、複雑な地政学的環境が背景となっています。大幅な関税が課され、報復につながった場合、インフレの激化や米ドル高を招き、中央銀行による金利緩和に影響を与え、引受リターンや投資家クレジットを圧迫する可能性があります。

スポットライト:ウェルネス

  • ウェルネスのトレンドは、ポートフォリオの分散を求める投資家を惹きつけています。
  • 最近の関連するM&A活動や戦略的パートナーシップから、ウェルネスが不動産セクターの注目を集めています。

ポートフォリオの幅を広げようとする投資家は、新たなアセットクラスを見極め、投資しています。その一例がウェルネス関連不動産です。人口動態の変化や消費者の嗜好の進化を受けて、このサブセクターへの投資家の関心が高まることが予想されます。Global Wellness Instituteによると、ウェルネス関連不動産サブセクターは、今後3年間年平均成長率(CAGR)15.8%で成長し、2028年には9,000億米ドルを超えると予想されています。これは、商業用および住宅用不動産業界全体に影響を与えるでしょう。ウェルネスと消費者の嗜好の密接な関係や、より充実した体験への欲求を考えると、このウェルネスのトレンドは、住宅、ホスピタリティ、レジャーセクターで特に関連性が高いと言えます。

このテーマの永続的な特徴を端的に示しているのが、ウェルネス志向の住宅分野、特に高齢者向け住宅の成長です。消費者は単に快適な住居を持つだけではもはや十分ではなく、全人的なウェルビーイングを促進し、社会的交流を促すデザイン要素を備えた質の高い住環境をますます求めるようになっています。

ホスピタリティセクターにおけるウェルネスへの注目は、すでに高まり始めています。ホテル業界や旅行業界では、ウェルネス志向のサービスが大幅に増加しており、中でもラグジュアリーなウェルネスリトリートがそのトレンドを牽引しています。

パンデミック後の環境では、外部環境が心身のウェルビーイングにどのような影響を与えるかに対する消費者や業界の意識が、こうしたウェルネスリトリートへの需要を促進しています。例えば、ウェルビーイングリゾートを開発するTherme Groupは、欧州だけでなく、英国、北米、アジア、中東でもさらなる拡大を計画しています。2024年12月、ThermeはドイツのウェルビーイングデスティネーションであるTherme Erdingの買収を発表しました。ニューヨークを拠点とするウェルネスクラブのThe Wellは、ホスピタリティグループのAuberge Resorts Collectionと提携し、オーベルジュの世界各地の拠点にウェルネススペースを設けました。また、Maybourne Hotel Groupは、2人の著名なウェルネス専門家と提携し、特別なウェルネスサービスを提供しています。

ウェルネスセクターが進化を続けるにつれ、投資家の関心が高まり、投資ポートフォリオの多様化を目指す人々に投資機会がもたらされることが期待されます。このセクターは、長期的な人口動態と健康志向のトレンドに合致しているため、将来の投資戦略において重要な位置を占めることは確実です。投資家はこのテーマに注目するとよいでしょう。

スポットライト:高齢者向け住宅

  • 米国で新たに始まったこの分野でのM&Aは、他の市場にも波及する可能性があります。
  • 従来とは異なる参加者が、高齢者向け住宅の分野で戦略的に新しいポジショニングを行っています。

国連によると、世界の80歳以上人口は現在の1億6,300万人から、2050年には3倍近い4億4,500万人になると予測されています。この人口動態の変化に対応するため、介護施設から自立生活コミュニティまで、介護全般にわたる住宅需要が高まっています。しかし、この需要と供給可能な高齢者住宅との間には、世界的にギャップがあります。このギャップの主な原因は、手頃な資金調達へのアクセスが限られていること、現地の労働力不足、建設コストの急上昇といった課題から、開発業者がプロジェクトにコミットするのを躊躇していることです。加えて、高齢化社会における嗜好やライフスタイルの多様化により、業界はさまざまな住宅オプションを提供し、先に述べたウェルネストレンドを含む新たなトレンドに迅速に対応することが求められています。

こうした課題に対処するため、投資家、デベロッパー、事業者は、ユーザーがこれまで慣れ親しんできたライフスタイルを維持しながら、必要に応じてより多くのケアを受けられるような革新的な資本構造や運営モデル、プロジェクトを生み出しています。既存のアパートを改修して高齢者向けの住戸にし、複数年単位で賃貸する方法から、店舗スペースを高齢者向け住宅を含む複合施設に改修する方法まで、戦略は多岐にわたります。高齢者向け住宅資産には、適切な設備やアメニティが必要です。これには、アクセシビリティ、安全性、医療サービスへの近接性などが含まれます。また、高齢者向け住宅は、地域によっては、高齢者が自宅や地域社会で安全かつ自立して快適に暮らし続けることができる「住み慣れた場所で年を重ねる(aging in place)」ことへの嗜好の高まりに対応する必要があります。

このセクターでの成功には、デベロッパー、パートナーになる投資家、事業者がイノベーションと戦略的ポジショニングを取り入れることが必要です。消費者の嗜好としっかり方向性を揃え、不動産市場のトレンドを活用することで、高齢者住宅市場の投資機会を効果的に活かすことができます。

米国では、上場不動産投資信託(REIT)による高齢者向け住宅ポートフォリオの買収という新しいトレンドに関連した取引の発表が始まっています。また、従来とは異なる高齢者向け住宅市場の参加者が、このトレンドを活用して消費者の嗜好の変化に対応するためにビジネスモデルをどのように進化させるかを評価しながら、戦略的な再編を進めています。M&A活動の例としては、Welltowerによる成人向けコミュニティのポートフォリオの買収(2024年2月)や、Ventasによる高齢者向け住宅ポートフォリオ(20施設)の買収(2024年11月)などが挙げられます。投資家が人口動態の価値を引き出し、トレンドを活用するためには、潜在的な入居者のウェルネスや体験に関する需要に応えられるデベロッパーを見つけ、創造的な資本構造の組成に意欲を示す資金調達先を見つける必要があります。

XX%

of respondents said the residential sector is likely the one in which they will be active or plan to be active in Asia Pacific in 2025.

Source: PwC and the Urban Land Institute’s Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2025 report

2024年の世界のM&A件数と金額

ディール件数と金額(2019~2024年上半期)

タブをクリックすると、各地域のチャートが表示されます。

注:ディール件数および金額(開発物件を除く)は、伝統的な不動産アセットクラスにおける1,000万米ドル以上の物件およびポートフォリオに基づいています。
出典: MSCI Real Data Analytics

予断を許さない金利環境に見舞われた厳しい数年間を経て、2024年上半期には、金利が緩和され、多くの案件の経済性が改善される中、不動産のM&Aは安定化の兆しを見せました。2024年第1四半期の取引金額は10年ぶりの低水準となったものの、2024年第3四半期には回復の兆しが見られた一方で、上半期を埋め合わせるには至りませんでした。その結果、2024年1-9月期の世界のディール金額は前年同期比で13%減少しました。

ディール金額の動向は地域によって異なります。欧州・中東・アフリカ(EMEA)では、2024年1-9月期のディール金額は前年同期比2%の小幅な増加でした。対照的に、米州とアジア太平洋のディール金額は同期間にそれぞれ1%と24%減少しました。

アジア太平洋地域が全体的なディール金額で圧倒的な割合を占め、2024年の最初の9カ月間に発表されたディール金額は3,250億ドル(46%)に達し、米州では2,500億ドル(35%)、欧州・中東・アフリカでは1,380億ドル(19%)でした。
不動産は地域の市況に大きく影響されるため、トレンドは地域内の国や、同じ国でも都市によって大きく異なることがよくあります。例えば、韓国とオーストラリアの2024年のディール件数は、金利の変化と機関投資家の期待感の高まりを受けて、それぞれ25%と14%増加しました。一方、日本と中国のディール件数はそれぞれ9%と5%減少しました。欧州では、特にドイツとフランスで、政治的ボラティリティによるリスク認識からディール件数が大きく影響を受け、それぞれ8%と35%減少しました。

65%

の不動産投資家は、2025年に自社の利益が「良好」または「非常に良好」になると予想しており、これは昨年よりも20%高い。

出典:PwC・Urban Land Institute(ULI)「Americas’ Emerging Trends in Real Estate® 2025 Report」(2024年10月)

2025年にM&Aを促進する主なテーマ

不動産とインフラの融合

インフラは過去10年間、目覚ましい成長を遂げており、特に魅力的なアセットクラスとなっています。投資家やユーザーの建築環境(ビルやインフラと)への新しい関わり方は、不動産とインフラの取引を融合させる流れを生んでいます。この関係について、世界経済フォーラムは2024年12月に発行した「Reimagining Real Estate」において「相互に影響しあう関係」と表現しています。例えばAIは、AI企業に対してだけでなく、AIをサポートするために必要なデータセンター、デジタルインフラ、発電機能にも大きな投資を集めています。デジタルインフラ分野への投資ニーズはデータセンターへのディールを活発化させていますが、投資家の関心は、従来のインフラ、光ファイバーやタワーなどのその他のデジタル関連アセット、製造施設などのサプライチェーンの変化に関連するアセットにも及んでいます。

案件の組成、資金調達、運営は、この融合を促進するものへと進化してきました。投資家は独自の施設を開発および運営する機会を求めており、多くの場合、リミテッドパートナーとの共同投資や、既存のオペレーターとのジョイントベンチャーの形態をとります。このような場合、投資家は資本提供者としてのみ行動する共同投資の要素を含むのが一般的です。例えば、2024年3月、Digital Realtyと三菱商事はデータセンター開発に特化したJVを発表しました。Digital Realtyは買収およびJV戦略により容量を拡大し、世界各地の新市場にプラットフォームを展開しています。

多額の投資を必要とするインフラ案件の性質上、プロジェクトの段階ごとに異なるタイプの資本を活用する高度な資金調達アプローチが必要となります。例えば、開発段階ではオポチュニスティック用の資金を利用し、その後安定化した資産を、中核戦略を持つ別のビークルに売却するか、場合によっては(米国のモデルに従って)資産担保証券として売却することもあります。

以前は、投資家は市場の変化に依拠しながらリターンを生み出していましたが、現在では積極的に投資を管理し、運用の専門知識を活用して不動産ポートフォリオを補完する機会を見極めるようになっています。競争が激化する投資市場において望ましいリターンを得るためには、投資家は洗練されたアプローチで資金調達と適切な運用チームやパートナーの選定を行うことが必要です。こうした動きは、不動産業界がいかに急速に進化しているかを物語っています。そして、世界経済の機能における不動産の重要性を浮き彫りにしています。

379兆米ドル

2022年の世界の不動産価値は379兆米ドルで、株式と債券の合計を上回り、不動産は世界で最も重要な資本の集積地庫となっている。

出典:世界経済フォーラム「Reimagining Real Estate Insight Report」(2024年12月)

保険資本

投資家の資金配分が不動産資産からインフラやその他のアセットクラスにシフトする中、保険セクターはそれに代わる資本の源泉としてますます重要な役割を果たしています。プライベート・キャピタルのプレーヤーは、買収や戦略的関係を通じて保険セクターに参入しています。ApolloによるAtheneへの投資、KKRによるGlobal Atlanticの買収などがその例で、BlackstoneやBrookfieldなどがスポンサーとなった同様の金融ビークルとともに、急速に規模を拡大し続けています。これらのビークルは、金利が上昇しリターンが圧迫される中、プライベート・キャピタルが長期資金を調達する手段として誕生しました。基本的には、より有利な資本コストで新たな融資機能を引き出すものです。

保険会社とのこうした関係は、従来の資金調達源が不動産業界への割り当てを減らしている現在、不動産業界にとって極めて重要です。しかし、保険資本のダイナミズムはこれにとどまりません。一部の市場参加者は、保険会社内でアセットを所有する方が、従来の不動産所有ストラクチャーよりも高い価値を生み出すと考えており、それに応える形でポートフォリオの所有権を再構築しています。場合によっては、今後グローバルな不動産投資事業を運営するべきだと結論付けています。

これらはすべて、事業環境がいかに複雑であるか、業界セクターがいかに融合し続けているか、そして市場参加者にとって不動産がいかに重要であるかを示しています。不動産業界に重大な影響を与え続けるこの分野で、今後さらに活発な動きが見られることが見込まれます。

進化するビジネスモデル

過去10年の間に、大規模な不動産資産を保有する企業の中には、資本効率の改善と企業価値の向上を目的として、事業の所有構造を変更することを選択したところもあります。この傾向は他のセクターでも見られ始めており、企業は資産と資本集約型のバランスシートから資産を持たない経営へとシフトしています。

HiltonやLa Quintaのようなホスピタリティブランドは、所有するホテル資産を独立した上場ホテル不動産投資信託に分離しました。WyndhamやMarriottのように、ホテルとタイムシェアのアセットをスピンオフによって別会社に分離した企業もありました。一方、VICI PropertiesやGaming and Leisure Propertiesなどのゲーミング事業者は、所有するカジノ資産を独立した上場ゲーミング不動産投資信託にスピンオフしました。

今後は、ウェルネス事業者、再生可能エネルギー事業者、テクノロジー企業、消費者ブランドなど、他のセクターもこの道を追求すると思われます。プライベート・エクイティ、ソブリンウェルスファンド、外国年金基金は、こうした資産の「受け皿」として機能し、マクロ経済や人口動態のトレンドを活用した長期的な投資機会を創出することができます。

不動産業界におけるディールメーカーによる2025年の主なアクション

2025年には、良好な経済状況、低金利、利用可能な資本を原動力とする不動産M&Aの増加が予想されます。この成長は、世界貿易やその他の不確実性によって抑制される可能性があります。同時に、より高いリターンが期待できるオルタナティブアセットクラスが台頭してくることも予想されます。成功するディールメーカーは、この進化する情勢を巧みに操り、適切なパートナーとディールを組成し、資金を調達するための高度な戦略を採用するでしょう。

※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in real estate: 2025 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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