2025年の見通し

ヘルスケア業界における世界のM&A動向

Global M&A Industry Trends in Health Industries hero image
  • 2025-03-10

ヘルスケア業界のディールメーカーは、2025年の有利なM&A環境に向けて準備を進めています。

2025年は、ポートフォリオのギャップ、サプライチェーンの不確実性、政策の変化やその他のファンダメンタルな要因がヘルスケア企業によるM&Aを促進すると予想されます。マクロ経済的要因の改善と米国の規制緩和への期待に後押しされ、米国と欧州のディール市場は堅調に推移しており、2025年にかけて金額、件数ともにM&Aが加速するものと思われます。

医薬・ライフサイエンス分野では、大手製薬会社がポートフォリオの差別化と成長に向けた再配置を図るために、革新的なレイターステージのバイオテクノロジー企業の買収を検討しています。例えば、2024年7月にはBiogenがHuman Immunology Biosciencesを、2024年8月にはEli LillyがMorphicを買収し、2025年1月にはJohnson & JohnsonがIntra-Cellular Therapiesの買収提案を公表しています。

大手製薬会社は、パテントクリフが間近に迫り、今後数年間で大幅な収益減少に直面するため、ポートフォリオ拡充のための買収を実施し、ターゲットとする治療領域へ注力し、厳選した製品のさらなるイノベーションを目指すと予想されます。これには、新しい領域への参入も含まれます。さらに、社内の経営資源を注力領域へ振り向けるために低成長のアセットやノンコアアセットの売却を引き続き検討すると予想されます。このような売却戦略の例として、Viatrisが一般用医薬品事業をCooper Consumer Healthに、原薬部門をMatrix Pharma Privateに、女性用医薬品事業をInsud Pharmaに売却したことが挙げられます。

ヘルスケアサービス分野では、費用対効果の高い高水準の医療を提供するため、AIを活用したサービスの模索を含むデジタル資産やテクノロジー企業の買収が進むでしょう。最近の例としては、Cantata Health SolutionsによるGeisler IT Servicesの買収、Cardinal HealthによるSpecialty NetworksとそのPPS Analyticsプラットフォームの買収などが挙げられます。

プライベート・エクイティ(PE):PEは依然として投資のための多額の資本を確保しており、既存ポートフォリオカンパニーの投資期間の終了に伴い、潜在的な売却候補のパイプラインを増やしています。PEコミュニティでは、2024年2月にKKRが医療データおよびテクノロジー事業を手掛けるCotivitiの株式50%を取得したことや、TowerBrookとCD&Rがヘルスケア業界にテクノロジー主導のソリューションを提供するR1 RCMの買収を提案したことに象徴されるように、メドテクやデジタルヘルス企業への関心が高まっています。この傾向は2025年まで続くと予想され、魅力的なターゲットの市場参入が期待されます。医療サービスでは、法律がもたらす逆境、資金削減、予想を下回る利回りが、特に特定地域の診療所や医療サービスセンター、グループ診療所のバリュエーションや投資判断に影響を与えるでしょう。

「ヘルスケア業界の2025年のM&A市場については、いまだ慎重ながらも、徐々に楽観的になっている。ディールメーカーの間で行動を起こすことへのプレッシャーが高まっている兆候が見られる。金利の低下と予想される規制の緩和により、ディールのしやすい環境となるでしょう」

Christian K. Moldt、PwCドイツ、パートナー、グローバルヘルスケア業界ディールズリーダー

ディールメーキングを妨げる障害:米国では、新政権下で独占禁止法規制当局が合併全般に対してより緩やかなスタンスを採用する可能性があるという兆候が見られる中、世界的な金利の低下により、近年ディールメーキングを妨げていたいくつかの障害が沈静化しつつあるという楽観的な見方が広がっています。しかし、これが実際にそうなるかどうか、そしてそれが製薬業界や他のヘルスケアプレイヤーにどの程度影響を与えるかはまだ不明です。

IPO市場:2025年には新規株式公開(IPO)市場の活性化が予想され、資本と資金の新たな供給源となるでしょう。多くの企業が、米国や他の地域で株式公開の準備を進めています。2024年後半には、2025年に株式公開する意向を示すIPO登録書類を米国証券取引委員会に秘密裏に提出する医薬・ライフサイエンス企業が増えました。米国以外では、ポーランドの医療診断会社Diagnostyka、スイスの臨床段階バイオテクノロジー会社Topadur、スイスのXlife Sciencesなど数社が株式公開の計画を発表しており、Xlife Sciencesは2025年にポートフォリオ会社であるVeraxa Biotechを米国ナスダック株式市場に上場する計画を発表しています。

86%

の過去3年間に大規模な買収を行ったヘルスケア業界のCEOが、今後3年間で1件以上の買収を計画している。

出典:PwC第28回世界CEO意識調査(2025年1月)

スポットライト:バイオテクノロジー

大手製薬会社は、パテントクリフと医薬品パイプラインの不足に直面し続けており、これらのギャップを埋め、成長プランを達成するためにM&Aの機会を探しています。長年、結果が不確実で市場投入までに時間がかかる研究に投資することは大手製薬会社の優先事項ではなく、むしろ、バイオテックとの統合やより確実な研究結果と潜在需要を持つアセットのボルトオンディールによってパイプラインを埋めるという戦略が取られてきました。2025年には、潜在的に高い収益力を持つ中堅バイオテクノロジー企業が大きな注目を浴びる可能性が高く、特にフェーズIII試験段階の新薬を持つ企業が、それ以前の開発段階の企業よりも注目される可能性が高いでしょう。

バイオテクノロジーのM&A動向はパンデミック以降大きく進化しています。2019年から2020年にかけて、投資は128%急増し、次いでPEファームからのマイノリティ投資が伸び、2022年にピークに達しました。2022年には戦略的プレーヤーによる完全買収(買収ディール)が再びマイノリティ投資を上回り、2020年以前のトレンドに戻りました。PEファームやその他の金融投資家はその後、業界への関与を縮小しています。この変化は投資対象にも影響を及ぼし、部分買収は主に医薬品開発の初期段階(フェーズIおよびフェーズII初期)の企業が対象となる一方、完全買収は開発後期段階(フェーズII後期またはフェーズIII)の製品や最近承認された医薬品を持つ企業が対象となりました。対照的に、ベンチャーキャピタルによるバイオテクノロジーへの投資や提携は、一般的に臨床段階前の製品を持つ企業を対象としています。

オンコロジー領域は依然として主要な治療領域であり、案件の約40%、投資資金の45%を占めています。M&A活動の中心は米国企業で、ターゲット企業の80%、買収企業の60%が米国に拠点を置いています。PEファームや大手製薬会社以外にも、バイオテクノロジー企業や中堅製薬会社も投資を行っています。例えば、大手製薬会社の多くは、パイプラインにサイエンス主導のポートフォリオアプローチを採用しています。2024年、バイオテクノロジー分野の案件は鈍化したものの、他のサブセクターに比べると高い数値を維持しています。

投資家は引き続き慎重な姿勢を続けるかもしれませんが、大手製薬会社は今後もポートフォリオを拡大し、新たな収益源を見出す必要があるため、2025年のバイオテクノロジー案件の市場見通しは有望です。しかし、ここ数年の記録的な案件規模(個別案件金額ベース)と比較すると、小規模になることが予想されます。一方、大手製薬会社は、提携、アライアンス、ジョイントベンチャーなど、より革新的な戦略を採用することで、価値の高い資産にアクセスする可能性が高いと思われます。その結果、メガディールの勢いが増すというM&A市場全体の傾向とは対照的に、2025年のヘルスケア業界のメガディール活動は、2024年および2023年よりも減少すると予想されます。

2025年にM&Aが活発化するその他の分野

2025年は、バイオテクノロジーに加え、ポートフォリオの最適化、GLP-1、遠隔医療、ヘルステック、ヘルスアナリティクス、コンシューマーヘルスケアがM&Aが活発化する分野になると予想しています。

ヘルスケア業界における2025年のM&Aの主なテーマ

  • クロスボーダー投資を模索する多国籍企業:企業は、米国における関税引き上げや中国における集中購買の可能性などのさまざまな措置によってクロスボーダーのサプライチェーンが分断され、結果的に収益が減少するという可能性に備えています。また、医薬品製造のオンショア化やニアショア化を目指す政策が議会で可決される可能性にも備えています。その結果、オンショアでの製造活動を模索したり、中国などの国際市場に販売するための独創的なパートナーシップやライセンス契約につながったりするようなディールが生まれるかもしれません。企業は、クロスボーダーでの事業運営上の課題を解決するために、M&A投資による解決策を模索すると予想されます。
  • 資金調達:世界的に金利が低下し始め、一部の市場では株価指数が史上最高値を更新し、これまで閑散としていたIPO市場にも活気の兆しが見え始めています。そのため、ヘルスケア業界各社はIPOの選択肢を模索し、M&A活動のための追加資金を追求するとともに、革新的な研究開発へのアクセスを確保すると予想されます。
  • 代替的なディールストラクチャーと協力関係:資本コストが低下しているとはいえ、ジョイントベンチャーやライセンス供与、協業モデルを通じた代替的なディールストラクチャーやより創造的な方法でパイプライン資産へのアクセスを確保しようとするケースが増えています。最近の例としては、Bayerがグローバル・ライフサイエンス・インキュベーター・ネットワークを拡大しており、有望なスタートアップが最先端の施設とメンターシップを活用できるようにしています。
  • ノンコアアセット・低成長アセットの売却:企業は今後も、ノンコアアセットや利益率の低いアセットを戦略的に評価・特定し、時にはアクティビストからの大きな圧力に応えて、売却を進めていくでしょう。この傾向は、先述のViatrisとSanofiによる最近の一連の売却に顕著に表れています。GSKとPfizerは最近行ったHaleon株の大規模売却で得た資金により財務的な柔軟性を得て、負債の削減や、戦略目標にとって重要な分野への投資を実現しています。
  • 理論上のM&Aキャパシティ:売却による収入は、2022年から2024年にかけての理論上のM&Aキャパシティの約21%の減少を吸収し、2024年は前年に比べて若干の改善が見られます。私たちは、EBITDAと純負債に対するレバレッジド・ファイナンスの実行可能比率を参照して大手製薬会社のサンプルの理論上のM&Aキャパシティを算出しました。算出にあたっては、EBITDAに対する有利子負債比率を業界平均である3倍として企業の収益に適用し、純負債を差し引きました。

大手製薬企業の理論上のM&Aキャパシティ(2020年を基準に指数化)

Created with Highcharts 9.2.22022年のピークから-21%202020212022202320240501001502002024年は2024年上半期までのデータに基づいています。理論上のM&Aキャパシティの算出方法については「データについて」を参照してください。

  出典: S&P Capital IQ、各社のウェブサイトおよび提出書類に基づくPwCの分析

  • 費用対効果の高いバリューベース・ヘルスケアを実現するデジタル手段の獲得:従来のヘルスケアプロバイダーは、AIや分析技術、遠隔医療プラットフォーム、スマート・ヘルス・デバイス、その他のソフトウェアイノベーションなど、ケアの提供に役立つ革新的な技術を獲得するためにM&Aを継続するでしょう。継続的な人件費の高騰や人手不足に直面するこれらの企業は、運営コストの削減を図るとともに、患者中心のバリューベース・ヘルスケアへのシフトを目指すでしょう。データ分析などのテクノロジーを提供する企業の買収や提携は、こうしたデジタルソリューションの実現に役立ちます。

ヘルスケア業界におけるディールメーカーによる2025年の主なアクション

競争力を維持するためにディールを成立させるというビジネスニーズが常に存在する中、適切な資産の買収、売却、統合を行う機能を積極的に構築しているヘルスケア業界企業は、業界内のそうでない企業を凌駕するでしょう。ここ数年ヘルスケア業界のディールメーキングを遅らせてきたマクロ環境と規制環境が改善し始めていることから、ディールメーカーは革新的なアセットが市場に登場した際に迅速に対応できるよう準備しておく必要があります。金利のさらなる動向と、米国の新政権から生じる政策変更を注視すべきです。特に、今後予想される規制緩和は、米国だけでなく世界的に、製薬・ヘルスケア業界のディールメーキングに追い風となるかもしれません。すでに数歩先を考え、引き続き残る不確実性をうまく乗り切ることができるヘルスケア業界のリーダーには、2025年にM&Aを活用してビジネスを成功に導く大きなチャンスが訪れるでしょう。

※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in health industries: 2025 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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