
2024年上半期最新情報 エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向
エネルギー・ユーティリティ・資源セクターにおけるM&A活動は、地政学的な変化とエネルギートランジションに伴う産業再編により継続的に注目されており、2024年の後半には活発化すると考えられます。
2025年に入り、世界のエネルギー・資源・ユーティリティ(EU&R)業界では、依然としてエネルギートランジションがM&A活動の最も大きな原動力となっています。しかし、地政学、エネルギー安全保障、AIの稼働に必要なエネルギー需要の急増、その他の市場のダイナミクスなどの要因が影響するため、変化の形やペースは地域やセクターによって大きく異なるでしょう。
グローバルプレーヤーがこのような地域的なダイナミクスに対応する中で、信頼性が高く、価格が手頃で持続可能なエネルギー源を確保するための競争は激化しており、2025年にはEU&Rのあらゆる領域でM&A活動が活発化することが予想されます。
米国では、ドナルド・トランプ氏が大統領に再選されたことで、化石燃料を優遇する政策が導入され、環境規制が一部後退する可能性もあります。このシフトにより、天然ガスインフラや火力発電施設への投資が促進される一方、再生可能エネルギーは目先の不確実性にもかかわらず、長期的な支援から引き続き恩恵を受けると予想されます。原子力発電は、廃炉になった一部の原子炉を再稼働させる計画もあり、排出ガスを出さない電力に対する需要の急増に対応するために再び検討されています。
欧州では、外部エネルギー源への依存度を低減するため、エネルギー安全保障が引き続き最重要課題となっています。欧州連合(EU)は、再生可能エネルギー、送電網の近代化、エネルギー貯蔵への注力を強めていますが、規制上の課題や高コストが取引活動を抑制する可能性もあります。
米国と同様、日本は原子力エネルギーを復活させる一方で、増大する国内エネルギー需要を満たすために重要鉱物の輸入への依存度を高めています。
中国では電気自動車の導入が加速しているため、企業がスケールメリットを必要とするにつれて、M&A活動が活発化すると予想されます。これにより、太陽光発電セクターのほか、エネルギー貯蔵や重要鉱物などの支援セクターの業界再編が進むでしょう。
中南米は再生可能エネルギー投資のホットスポットとして台頭しており、豊富な太陽光や風力資源が世界の資本を引き付けています。リチウムやその他の重要鉱物に対する関心の高まりも、チリやペルーを中心とするこの地域の鉱業セクターのM&A活動を後押しするでしょう。
アフリカにおいては、各国がエネルギーアクセスのギャップを埋めようすることで、投資家にとって大きな機会が生まれます。天然ガス、水力発電プロジェクト、分散型再生可能エネルギーへの投資は、国内市場と世界のコモディティーバイヤー双方からの需要の増加に支えられ、加速する見込みです。
インドの野心的な脱炭素化目標は、同国のエネルギー事情を大きく変えつつあります。石炭や重要鉱物への戦略的投資と並んで、再生可能エネルギーのインフラへの意欲が高まっているインドの状況は、先進国と発展途上国が同様に直面しているエネルギー安全保障とサステナビリティの微妙なバランスを浮き彫りにしています。
私たちは2024年上半期最新情報の中で「再構成の必然性」を初めて取り上げ、気候、テクノロジー、人口動態の変化といったメガトレンドがビジネスモデルのディスラプションを引き起こし、EU&RのM&A活動を世界的に促進していることを強調しました。
その核心にあるのは、企業が斬新な方法で、また業界の垣根を越えて買収、提携、パートナーシップを結ぶことによる、セクターを超えた相互依存に向けた大きな動きです。企業は市場シェアを獲得し、価値を高め、重要なサプライチェーンを確保し、技術面で自らをポジショニングするために、このような動きをしています。このような動きの重要性が高まっていることが今後のM&A戦略を形作り、特に今後の多くのトランジションで中心的な役割を果たすと見込まれるEU&Rのプレーヤーにおいては顕著に影響するでしょう。
ビジネス環境のダイナミックな変化により、新たなバリュープールが生まれつつあります。これらはもはやセクターによって定義されるものではなく、異なるセクターが結びついたテーマ別の活動領域によって推進されるものです。PwCでは、この再構築がエネルギー、モビリティ、建設、製造、食料、ヘルスケアの6つの領域で展開していると考えています。各領域において生まれつつある新たなエコシステムからは、さらなる考察が得られるほか、世界中で形成され始めている業界横断的な提携やパートナーシップの重要性も見て取れます。
「エネルギー・ユーティリティ・資源・化学セクター全体での産業の再構成の一環として、セクターを超えた大きな相互依存関係が生まれると見ています。戦略的にポジショニングを変えようとする企業の努力は、2025年、そして今後何年にもわたって、M&Aやパートナーシップ、その他の提携のきっかけを生み出すでしょう。」
Greg Oberti、PwCカナダ、パートナー、エネルギートランジション&ユーティリティ・ディールズリーダーEU&Rの文脈でこのようなセクターを超えた相互依存の例がとりわけ見られるのが、モビリティの領域です。企業は戦略的に原材料にアクセスし、隣接する技術や専門知識を獲得し、サプライチェーンを強化し、エネルギー需要を確保するために、再構成を模索しながらM&Aに取り組むでしょう。Volkswagenが2024年12月にリチウム開発会社Patriot Batteryの9.9%を買収したように、鉱業会社は電気自動車用バッテリー生産用のリチウム供給源として自動車メーカーと提携するか、あるいはその買収ターゲットになるでしょう。重要鉱物や新興技術プラットフォームなどに関連するディールが、多極化する地政学的状況下で戦略的地位の確立を目指す企業を中心にさらに活発化すると予想されます。
また、建設や製造といった他の領域でもEU&Rが関与する例があると見ています。例えば、EU&R企業が建設会社や製造会社とつながるケースがありうるでしょう。このようなつながりはさまざまな形で展開される可能性があり、企業が規模を拡大し、収益源を拡大し、サプライチェーンを確保するために業界を超えて協力するためのパイプ役として機能します。2024年には、この傾向の継続と加速が見られました。例えば建設領域での注目すべき例として、BPが2024年6月にオーストラリアのエンジニアリング会社であるWorleyと、2024年8月には世界的なエンジニアリングコンサルティング会社であるWoodと、効率化、継続的改善、現場開発の強化を推進するためにグローバル提携を結びました。製造領域では、カナダのBruce Powerが2024年3月に、重要なサプライチェーンの安全性を高め、事業全体の効率化を推進することを企図してGE Vernova社の蒸気発電事業と提携しました。
出典:PwC第28回世界CEO意識調査(2025年1月)
EU&Rセクターは、持続可能性、信頼性、成長を同時に実現する取り組みの中心にあります。このダイナミックな環境における2025年のM&Aは、4つの主要テーマによって形作られると見ています。
地政学的緊張や同盟関係の変化の中で、各国が信頼性の高い多様なエネルギー供給を優先する中、エネルギー安全保障は依然としてM&Aの重要な推進力となっています。米国の新政権下では、国内のエネルギー自給を強化するために化石燃料への投資が促進されるでしょう。欧州は、特にロシアからの輸入への依存度を下げることを引き続き推進するでしょう。こうした動きは、天然ガス、原子力、重要インフラアセットにおけるクロスボーダー・ディールを促進しています。
脱炭素化への世界的なシフトは、蓄電池や重要鉱物などの分野でのM&Aに拍車をかけるでしょう。エネルギー貯蔵や電気自動車の生産に不可欠なリチウム、コバルト、ニッケルに対する需要の高まりは、特に中南米、オーストラリア、アフリカでの鉱業ディールを促進しています。再生可能エネルギー分野のM&Aも引き続き活発になると予想され、企業は再生可能エネルギーアセットを取得し、グリーン水素、電気自動車、送電網の近代化をサポートするインフラに投資するでしょう。KKRによるドイツの再生可能エネルギープラットフォームで独立系発電事業者のEncavisの買収や、Iberdrolaによる英国の配電事業者ElectricityNorthWestの買収などがその例です。
AI、クラウドコンピューティング、デジタルトランスフォーメーションの急速な普及により、エネルギー消費の多いデータセンターに対するかつてない需要が生まれています。2024年9月に発表されたBlackRock、GlobalInfrastructurePartners、Microsoftおよび中東の大手AI投資家によるデータセンターとそれを支える電力インフラへの投資を目的としたAIパートナーシップのように、こうした施設の電力供給を確保するための斬新なパートナーシップや買収が行われています。また、効率性とレジリエンスを高めるため、スマートグリッド(次世代電力網)やエネルギー管理システムへの投資も増加しています。
進化するエネルギーニーズに対応するために企業がシナジーを求めるにつれて、エネルギー・ユーティリティ・資源セクター間の境界線は曖昧になり続けるでしょう。テクノロジー企業がデータセンター向けに自然エネルギーやエネルギー貯蔵に投資する一方で、従来のエネルギー企業がデジタルソリューションを獲得してオペレーションを強化する動きが見られます。同様に、産業機械メーカーはエネルギー企業と提携し、製造業の脱炭素化のために信頼できる電力を確保しようとしています。2024年10月に核融合エネルギー技術の商業化を加速させるためにドイツの企業グループが産業団体を設立するなど、このような融合は革新的パートナーシップを促進するでしょう。M&A活動は、伝統的な業界の垣根を越えて継続するでしょう。
出典:PwC第28回世界CEO意識調査(2025年1月)
2023年から2024年にかけて世界のEU&Rディール件数は8%減少したものの、世界のM&A市場全体では18%減少したのと比較すると、良好なパフォーマンスを示しています。ディール金額は2023年から2024年の間に23%減少しました。これは主にメガディール(50億米ドル超のディール)の減少によるもので、2024年には10件のメガディールが発表されましたが、前年は16件でした。さらに、2023年にはExxonのPioneer Natural Resources買収とChevronのHess買収案という500億米ドル以上のディールが2件発表されましたが、2024年に発表された最大のEU&RディールはDiamondback EnergyとEndeavor Energy Resourcesの260億米ドルの合併でした。
エネルギー、ユーティリティ、鉱業、化学セクターにおける世界のM&A活動は、エネルギートランジション、地政学的安定化、テクノロジーの進歩に牽引され、2025年に勢いを増すと予想されます。再生可能エネルギー、送電網の近代化、クリーンエネルギー技術のための重要鉱物への投資が主流になるでしょう。化石燃料アセットについては、伝統的なエネルギープレーヤーがポートフォリオの再編を行う可能性があります。新興国市場は、豊富な資源や政策的支援により、関心を集めるでしょう。プライベート・エクイティとソブリンファンドは引き続き活発で、戦略的バイヤーは気候変動関連の買収に注力するでしょう。
今後、セクター間の相互依存関係も重要性を増すと思われます。エネルギー・ユーティリティ・資源分野は、このような相互依存関係がどのように展開されるかを左右する中心的役割を担っており、経験豊富なエグゼクティブやディールメーカーは、自社が直面する再構成の必然性に応じてM&A戦略を策定する際に、この分野を考慮する必要があります。
※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in energy, utilities and resources: 2025 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
エネルギー・ユーティリティ・資源セクターにおけるM&A活動は、地政学的な変化とエネルギートランジションに伴う産業再編により継続的に注目されており、2024年の後半には活発化すると考えられます。
2024年のエネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)セクターのM&A活動は、全般的な景気の不透明感を背景としながらも、ディール金額および件数ともに良好なトレンドが続くと予想されます。
エネルギートランジションという戦略的目標を世界的に追求することにより、エネルギー・ユーティリティ・資源セクターへの投資資金は引き続き大きく増加しています。
エネルギートランジションとサプライチェーンの確保が引き続き活発なディール活動を支え、エネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)分野におけるM&A市場に新たな投資家を引きこむとともに、さらなる複雑性をもたらすでしょう。