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2024年上半期最新情報 プライベート・キャピタルにおける世界のM&A動向
プライベート・キャピタルのM&A市場は、景気の不透明感やバリュエーションギャップが短期的見通しに影響を及ぼしているものの、再び活況を取り戻す機運が高まっています。
2025年については、昨年来のプライベート・キャピタルによる世界的なM&A活動の活発化が継続、そして加速すると予想されます。これは、調達コストの低下に加えて、プライベート・キャピタルが手元に抱える投資待機資金の増加およびエグジットを求めるポートフォリオ企業のかなり大規模な積み増しという2つの業界固有の要因によって促進されます。さらに、米国の新政権が規制緩和と減税に重点を置くと予想されることも、年内のディールメーキングを後押しする可能性があります。
特に米国で顕著な資本市場の活況と金利の緩やかな低下傾向を背景にバリュエーションが高水準で推移する中、今年の大きなテーマの1つとして、価値創造に再び焦点が当てられるでしょう。各社は高水準のバリュエーションを正当化できるよう、より規律を持って十分なアップサイドを確保しながら事業のトランスフォーメーションに取り組んでいます。多くの大企業が中核事業に集中し、ポートフォリオの最適化を図り、その過程で大規模な事業部門を切り出すこともあることから、投資機会はますます増加しています。
2つ目の新たなテーマは、M&A取引におけるセクター間の融合です。プライベート・キャピタルによる、産業横断的な企業やプロジェクトへの投資が増えています。その一例が、AIによるトランスフォーメーションに後押しされたインフラ、エネルギー、テクノロジー間の新たな結びつきです。テクノロジー企業は、巨大なAIデータモデルを実行するために必要なデータセンターのサーバーに電力を供給するために、新たなエネルギー源を利用しようとしています。また、消費者向けヘルスケア企業とフィンテック企業が個人の健康に関するデータをより有効活用するために提携するといった例もあります。
2025年においても、このような業界を統合するような取引は引き続き広まるものと思われます。また、プライベート・キャピタル業界自体も再編が進むと予想され、大規模プレイヤー各社はアセットクラス全般(エクイティとデットの両方)で規模の拡大を図っています。これらプレイヤーの規模が大きくなるにつれ、中堅ファンドは特定のニッチプレイヤーでない限り、新規投資の調達が難しくなっています。
「多少の波乱はあるかもしれませんが、プライベート・キャピタルによるM&Aは全体的に上昇傾向にあります。私が考える重要なテーマの1つは、例えばAIの原動力となるエネルギー需要の増加といった世界的なトレンドが継続する中で、伝統的な産業がますます融合していくということです」
Eric Janson、PwC米国、パートナー、グローバルPE・リアルアセット・ソブリンファンドリーダープライベート・キャピタルのM&Aは数カ月前から好転し、2年間続いた横ばい状態が終わりを告げました。2024年第2四半期から、プライベート・エクイティ(PE)のディール金額は再び増加し始めました。その進展は直線的ではなく、年後半には再び軟調な動きも見られたものの、最初の上昇によって2025年には業界はより強い上昇軌道に乗り、再び勢いを取り戻すことになります。ただし、市場には金利に対する神経質な見方も残っています。
このようなディールメーキングの増加に伴い、新規株式公開(IPO)件数は正常化を続けており、2025年の見通しも堅調であることから(英語)、新株発行による調達の気運はますます高まっています。非上場市場では1,200社を超えるユニコーン(バリュエーションが10億米ドルを超える未上場企業)が存在し、PEによるエグジットが滞留していることから、2025年のIPOパイプラインは有望と思われます。米国のIPO市場は2024年も緩やかな復活を続け、2023年比で50%、2022年比で約4倍の資金を調達しました。IPOのトレンドは地域によって異なるものの、リミテッドパートナー(LP)に資本を還元する方法を模索するPEにとって、IPO市場は依然として重要なエグジットルートです。
業界にとって現在および将来のM&A成長の2つの原動力の1つである「ドライパウダー」の蓄積には目を見張るものがあります。Preqinの推計によると、プライベート・キャピタル(ベンチャー・キャピタルを除く)が2024年に世界で調達可能な資金は初めて1.6兆米ドルを超え、そのうち約1兆米ドルは米国内から調達されたものです。2024年12月の世界のプライベート・キャピタルのドライパウダーの額は、パンデミック前の2019年末に比べて43%増加しました。2024年上半期最新情報で述べたように、プライベート・キャピタルは伝統的な機関投資家に加え、プライベート・リテール投資家や保険会社も大規模な資金源とするようになってきています。
エグジットを求める投資先企業の増加に加え、2024年末時点で29,400社のPE投資先企業が存在し、その46%が2020年以降に投資された企業であることも注目に値します。このように、M&Aの活動が活発化することは産業界にとって歓迎すべきことであるだけでなく、LPがリターンに対するプレッシャーを強める中で必要なことでもあります。このプレッシャーはいわゆるコンティニュエーション・ファンドの急増につながり、以下のスポットライトで述べるように、プライベート・キャピタルはこれによって、市場が軟調であるにもかかわらず内部取引を通じてLPに資本を還元することが可能となっています。
パンデミック真っ只中の2020年と2021年にディールメーキングが大きく伸びた後、PEのM&A件数と金額は2022年後半に急減し、その後2年間は金利の上昇、資本の利用制限、その他のマクロ経済要因によって横ばいで推移しました。しかし、2024年第2四半期に始まった上昇は勢いを増しています。PitchBookのデータによると、世界のPEディール金額は2023年の1.4兆米ドルから2024年には23%増の1.7兆米ドルに達し、ディール件数も前年の約1万7,000件から1万9,000件強に増加しました。ディール金額、ディール件数ともにピーク時の2021年、2022年よりはまだ低いものの、パンデミック前の水準よりは大幅に増加しています。
このような新たな動きの中で、いくつかの傾向が目立っています。第一に、価値創造を重視する一環として、多角化した企業がポートフォリオを見直し、時には投資家からのプレッシャーを受けながら、戦略の中核と見なされないアセットを売却するカーブアウト取引が増加しています。最近、いくつかの世界的企業が主要ポートフォリオの売却を発表しました。その中には、すでにアイスクリーム事業の売却を検討しており、さらに10億米ドルの食品会社資産の売却を希望していると報告しているUnileverや、2024年11月にNBCUniversalのケーブルテレビネットワークと補完的なデジタルアセットを分離する意向を発表したComcastなどが含まれます。PEファームは、この種の事業部門を買収する有力候補です。
第二に、ハイテク関連の取引が引き続き注目を集めています。Thoma Bravoによる危機的事象の管理ソフトウェア会社Everbridgeの15億米ドルでの買収や、GICとSilver Lakeによる17億米ドルでのZuora買収合意(2024年10月)など、ここ数カ月でM&A全般を大きく牽引してきたソフトウェア関連のディールが続いています。しかし、気候変動テクノロジーやヘルスケア・テクノロジーなど、他の形態のテクノロジーもM&Aの関心を集めています。
第三に、業界を統合するようなディールが加速しています。特に顕著なのが、AIブームを後押しするテクノロジーとエネルギーインフラに関連するディールです。データセンターは、過大評価される危険性があるほどディールメーカーの間で人気のある投資対象となっていますが、それは先進国において資金調達が必要な中核的なエネルギー供給インフラの一部に過ぎません。プライベート・キャピタル・プレイヤーが関与するエネルギーインフラ分野の注目すべき取引として、BlackRock、Global Infrastructure Partners(最近BlackRockが買収)、Microsoft、中東の大手AI投資家によるパートナーシップが発表されました。このパートナーシップは、データセンターおよびそれを支える電力インフラに対し、新規および拡張施設の構築に今後必要とされる資本として最大1,000億米ドルを投資することを目指しています。まず投資家、アセットオーナー、企業から300億米ドルのPE資本を調達することを目指します。OpenAI、SoftBank、Oracleが2025年1月に発表した、全米にデータセンターのネットワークを構築することを目的とした5,000億米ドル規模の合弁事業「Stargate」に見られるように、企業もこの分野に多額の投資を行っています。
最後に、PEには地理的な差異がいくつか見られ、特に有望と思われる地域市場もあります。その一例が日本であり、円安によって日本企業は海外の買手にとってより魅力的になっています。国内市場が縮小する中、日本企業や投資家の間でクロスボーダーディールに対する意欲が高まっていることも注目に値します。日本企業が保有する大量の手元資金も、価値創造を求める株主アクティビズムの高まりに拍車をかけ、いくつかの資産の売却につながり、国内外のPEからの関心を集めています。White & CaseのM&Aエクスプローラーによると、日本におけるPEのディール金額は、2022年の2%未満から2023年には約500億米ドル(世界のPEディール金額の約5%)に急増しました。2024年には取引金額は減少しましたが、それでも世界のPE全体の約3%を占めています。インドでも、急速な経済成長、大規模な消費者基盤、デジタル化の進展、盛んなスタートアップエコシステム、好意的な政府政策がディールメーカーにとって肥沃な土壌を形成していますが、日本と同様、PEの取引金額は2022年のピークから急減しています。
プライベート・キャピタルは、価値創造にあらためて重点を置くため、社内組織を調整しています。大手の投資家は、投資先企業の収益を上げることを重視し、専門部署を立ち上げてコスト削減や収益成長の加速に取り組んでいます。こうしたトランスフォーメーションは、効率性と生産性を向上させ、将来的に手元流動性を高めることを目的としています。
このようなより積極的な運用は、PEが従来よりも長期にわたってアセットを保有するようになった今、投資家の期待に応える内部収益率を達成するためのプレッシャーの表れでもあります。エネルギーやインフラなど、現在注目されているアセットクラスの中には、もともとライフサイクルが長いものもあります。
金利上昇傾向にある過去3年間の資金調達環境の悪化により、プライベート・キャピタル業界の統合が加速しました。2024年上半期に世界全体で調達されたPEファンドの総資金の半分以上は、12の新しいメガファンドによるもので、50億米ドル以上の価値になりました。PitchBookのデータによると、調達を完了した最大のファンドには、2024年4月の Vista Equity Partnersの200億米ドルを超える8号フラッグシップファンドと、2024年5月にクローズしたSilver Lakeの205億米ドルの7号ファンドが含まれます。中堅、中小のPEがこのような環境で生き残るためには、ニッチな専門性を持つ必要があります。
再編を後押ししている要因は他にもあります。1つは、大規模ファンドが、特に中堅、中小のPEにとってディール資金調達や企業リファイナンスの主要な供給源として台頭してきたプライベート・クレジットを含むあらゆるアセットクラスをカバーしようとしていることです。管理下にあるプライベート・クレジットのアセット総額は現在、世界で約1.7兆米ドルに達し、2015年の総額の3倍以上に達しています。
プライベート・クレジットは、より伝統的な銀行融資に対して高い競争力を持つことが証明されました。再編の例としては、2023年11月にTPGがクレジットと不動産投資に特化したオルタナティブ投資会社であるAngelo Gordonを27億米ドルで買収したことや、2024年9月にBrookfieldがアセットベースのプライベート・クレジットを専門とするオルタナティブ・アセット・マネージャーであるCastlelakeに15億米ドルの戦略的投資を行ったことなどが挙げられます。アセット・マネージャーのBlackRockも、プライベート・クレジットとパブリック・クレジットの両方を専門とするHPS Investment Partnersを2024年12月に約120億米ドルで買収することを提案するなど、プライベート・クレジット事業を拡大するために最近いくつかの動きを見せています。
このような業界再編の中で、重要なファンドの1つであるソブリン・キャピタルが行動を変化させています。ソブリン・ウェルス・ファンドは、かつてのようにPEファンドのLPとして行動することが主ではなくなり、より直接的に投資するようになってきています。現在では、大手ファンドと並行して独自の投資チームを立ち上げ、投資を行っているところもあります。また、従来のPEに加え、プライベート・デットへの投資も進んでいます。
例えば、2024年5月、アラブ首長国連邦のMubadalaは、Global Infrastructure Partnersとともに、オーストラリアの大手肥料ベンチャー企業に42億米ドルを投資すると発表しました。同月、サウジアラビアのPublic Investment Fund(PIF)はLenovoとの戦略的合意を発表し、レノボの進行中のトランスフォーメーションを加速させ、世界的プレゼンスをさらに高め、世界的な製造拠点の地理的多様化を進めるとしました。プライベート・クレジットでは、Korea Investment Corporationが特にアジアに重点を置いたダイレクト・レンディングにおけるプレゼンスを強化する意向を発表しました。また、Abu Dhabi Investment Authorityはコーポレート・クレジットを専門とするアセット・マネージャーであるAGL Credit Managementのプライベート・クレジット・プラットフォームにシード投資を行い、同社初のプライベート・クレジット・ファンドに10億米ドルを出資しました。
これらのファンドはかなりの資本プールを有しています。例えば、PIFの運用資産は9,250億米ドルで、2030年までにこれを倍増させる計画です。ここに挙げたソブリンファンドのうち、3,000億米ドル未満のファンドはほとんどありません。ソブリンファンドがプライベート・キャピタルと比較して優れている点は、投資家から時間的な制約を受けないため、長期的な投資が可能であることです。
PEファンドのアセットには通常、エグジットに至るライフサイクルが想定されています。しかし、資産価値が予想と合わなかったり、エグジットが予想より遅かったりする場合、ジェネラル・パートナー(GP)はこれらのアセットを「コンティニュエーション・ファンド」に転換することができます。これは、基本的にスポンサーにとって投資先企業の保有期間を延長すると同時に、LPにとっては競合他社に売却することなくキャッシュアウトする機会を提供するものです。
コンティニュエーション・ファンドは、2008年の世界金融危機以降、投資家が価値の回復を待つ中で流行しました。そして、過去2年間の複雑な高金利環境と、エグジットを求めるポートフォリオ企業のバックログの増加により、これらのファンドへの関心は爆発的に高まり、2024年上半期までにコンティニュエーション・ファンドは500億米ドル以上の運用資産を保有しています。
ファンド・オブ・ファンズおよびセカンダリーを除いたデータ。*2024年は期末速報値に基づく推定値。
出典:PwC、PwC AWM & ESG Research Centre(ルクセンブルグ)、Preqin
現在、コンティニュエーション・ファンドはPEのセカンダリーマーケットにおいて重要な位置を占めており、その他のセカンダリーマーケットにおける取引と並んで、スポンサーにとって確立されたエグジットルートとなっています。このような取引には、投資家であるLPがファンドの持分を第三者の買い手に売却することや、GP自身がファンドの個別アセットを売却することが含まれます。このようなLP主導やGP主導の取引は、新たな投資家にとって魅力的ですが、現在の市場ではアセットの価値より割安な価格で行われる可能性があります。アセットをコンティニュエーション・ファンドにローリングすることは、価値の減少を回避する方法です。コンティニュエーション・ファンドは、現在の投資家に流動性の選択肢を提供するだけでなく、新規投資家にも実績のあるアセットにアクセスする機会を提供します。
コンティニュエーション・ファンドの性質上、投資家やスポンサーはバリュエーションや潜在的な利益相反、規制当局の監視に細心の注意を払う必要があります。しかし、こうしたファンドの台頭は、市場が閉塞している時にエグジットを見つけるという市場の創意工夫の証です。
マクロ経済環境が好転する中、買い手と売り手のプレッシャーが相まって、プライベート・キャピタルのディールメーキングは今後数カ月間活発化するでしょう。期待される成長は直線的なものではなく、地政学から政治課題、金利引き下げペースの不確実性まで、さまざまな要因により、ディール市場には不安定さが残る可能性があります。さらに、地域によって状況は異なる可能性があり、すでにアジア、欧州、米国の一部のディール活動にはかなりの乖離が見られます。しかし、好転の兆しはすでに訪れており、特に業界の統合に焦点を当てながら、2025年まで好転が続き、成長すると予想されます。とりわけ、バリュエーションが高い今、プライベート・キャピタルのプレイヤーは、質の高いアセットから生み出される付加価値に目を光らせています。
※本コンテンツは、PwC米国が2025年1月に公開した「Global M&A trends in private capital: 2025 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。