2014年の調査では、ファミリービジネス企業の経営の専門化、すなわちプロフェッショナリゼーション※を主なテーマとしました。今回の調査では、この部分で具体的な進歩が見られましたが、同時にまだ多くの道のりが残されていることも明らかになりました。
全ての企業が、いずれは経営を専門化しなければならない段階に到達します。つまり、より厳密なプロセスを導入し、ガバナンスを明確に確立し、社外から人材を雇い入れることで会社として必要としているスキルを調達する段階です。ファミリービジネス企業も例外ではありません。今回の調査では、これがいかに重要な優先課題であるかが、あらためて浮き彫りにされました。例えば、向こう5年間の重要課題として経営を専門化するニーズを挙げた回答者は43%に上りました。
「次の世代が成長して引き継ぐまでにはまだ時間がかかりますし、もう一段レベルアップするには、新しい血と異なる専門スキル、思考、経験を持つ人材が必要だと強く感じます。そこで外部から社長を迎えることにしました。」
しかし、ファミリービジネス企業には、他の企業が考えなくてもよい課題が存在します。それが一族の問題です。この問題は、はるかに対応が難しいのです。より個人的で、複雑で、うまく運ばなければ望ましくない結果になる可能性があります。「ファミリービジネス企業は家族が理由で失敗する」とは、よく言われることです。このため、この部分の進歩に時間がかかるのは驚きではありません。実際にはほとんど何も変わっていないにもかかわらず、前進があったと考えるファミリービジネス企業があるのも不思議ではありません。
「当社では現在、10人の一族出身者が積極的に日常的な事業運営に携わっています。しかし私たちは、外部の有能な専門家を起用することの価値も認識しており、実際に上級管理職または最高責任者に外部の専門家を多く起用しています。」
今回の調査では、ファミリービジネス企業が経営を専門家するためのプロセスを引き続き整備している様子がうかがえました。株主の間の合意の確立、家族会議の設立、オーナーが就労不能になった場合の取り決めなどです。
外部の経営者を雇い入れることも、経営を専門化させる手段となります。特にこれは、「ビジョンと戦略のギャップ」を考えると、差し迫った重要な課題です。
最も基本的なレベルでは、プロセスを改善し、役割と責任を明確に分離することで経営幹部の時間と労力の負担が軽減され、より戦略的な思考と計画策定が可能になるでしょう。
「柔軟性を持ち、起業家精神を発揮することで、これまで成長してきました。しかし、ルールが必要になる時というのがあるものです。当社には不文律がたくさんありました。これが最終的には事業の障害になる可能性があります。経営の専門化は長期にわたる歩みです。たとえ不況に臨んでも強い会社を作ることが、私の使命だと考えています。将来のために体力を付けることです。」
社外からCEOを雇い入れることは、一族とCEOの両側にとってメリットと困難をもたらします。この点については、以前の報告書でも取り上げました。外部から雇われた経営幹部は、意思決定をすばやく下せる点や経営を自律できる点など、ファミリービジネス企業ならではの良さを明らかに評価しています。
しかし、今回の調査では多くのCEOが、なおも困難に直面し続けていることを指摘しました。一族がコントロールを譲ることに消極的であれば、外部から雇われたCEOは、プロフェッショナルとして下した判断を一族とオーナーの決定によって覆される可能性があります。後者の決定は、理知的な議論というよりも、感情的な議論に根ざしているように見えるかもしれません。
今回の報告書の全体的なテーマを考えると、戦略的な意思決定から除外された経験のある外部からのCEOがどれだけ多いかは、とりわけ重要です。その多くは、一族が「夕食のテーブルを囲んで」(あるオーストラリアの企業ではバーベキューの場で)決定が下されたと説明しています。3世代の歴史があるファミリービジネス企業に雇われたあるCEOは、次のように語ってくれました。
「私は内々の意思決定には関与していません。私自身はそれでいいと思っていますが、中にはこれを懸念する人もいるでしょう。」
また、プロの経営者が、一族内の意見対立に際して調停役を務めるよう求められるケースもよく見受けられます。これは、仕事上の人間関係にとって困難やダメージをもたらし得ます。それに、そもそも経営のプロに求められる役割ではありません。彼らは、事業経営のスキルに専念し、そこにエネルギーを注ぐ必要があります。事実、多くの有能な経営者は、まさにこの理由ゆえに、ファミリービジネス企業に雇われるのを避けています。
このフィードバックから判断するに、ファミリービジネス企業の多くは今もなお、外部からのCEOがもたらす価値をきちんと理解して、彼らが仕事をできるよう自由を与えるという点での努力が必要です。そうしなければ、プロの経営者は離れていき、彼らがもたらす価値も発揮しないことになるでしょう。
「一族のメンバーや株主でないということは、戦略的な意思決定に介入するチャンスがないことを意味します。このため、自分の個人的な考えを提案するのが難しいこともあります。結果として、自分が必ずしも事業に価値をもたらしていると感じられないことがあります。」
「経営陣の交替が非常に頻繁です。前年より良い業績を出していても、一族のメンバーが経営陣をすぐに解雇するためです。」
「私は一族のメンバーの間を取り持つコミュニケーション役です。彼らは直接話すことができないため、私を仲介役に使っています。」
ファミリービジネス企業のプロフェッショナリゼーションのプロセスにおいてガバナンスとリスク管理が果たす役割について、PwCアジア太平洋のファミリービジネス企業担当リーダー、Siew Quan Ngが解説します。
創成期にあるファミリービジネス企業においては、ガバナンスは通常、インフォーマルなシステムを通じて実践されており、オーナーが中心に立って事業にかかわる重要な意思決定を下しています。経営とオーナーシップが一族のメンバー数人のみに帰属している間は、このやり方で問題は生じないでしょう。しかし、事業が成長して、さまざまな利害関係を持った多くの株主ができる段階では、その株主の見方全てを考慮するためのメカニズムを策定し、正式に確立しておく必要があります。このことは、ファミリービジネス企業が株式公開するのであれば、なおさら重要になります。現地の規制に対するコンプライアンスはもちろんですが、それを別にしても、コーポレートガバナンスの情報を開示して取締役会が手綱をしっかりと握っていることを投資家に示す必要があるためです。
このことは、次のリスク管理のポイントにつながります。小規模なオーナー経営者の企業が直面するリスクは、多国籍企業が直面するリスクと複雑さという点で比べ物になりません。このためファミリービジネス企業は、規模を拡大し進化していくにつれ、リスク管理の方法も進化させる必要があります。しかし残念なことに、リスク管理はしばしば後知恵であるかのように、コンプライアンスのプロセスの一部として付け足されています。現実には、事業が成功するには、ごく初期の頃から、戦略を明確に策定するとともにリスクを管理する必要があります。取締役会(およびその延長として株主)は、事業のガバナンス構造がリスク管理を支えているという事実を理解しなければなりません。単にリスクを効果的に管理するだけでなく、適切なリスクをいつ取るべきかも分かっていなければなりません。
Same Passion, different paths: How the next generation of family business leaders are making their mark.
The next generation of family business leaders are well prepared, confident, and above all they have great ambition – both for themselves and for their firms. 88% want to do something special with the business.