「当社では、5年おきに事業を詳細に見直して、次のフェーズで何を達成したいかを決定しています。これには、人材、資本、スキル、新しい組織構造などが含まれます。」
中期的な戦略計画が多くのファミリービジネス企業にとって重要な課題であり、ファミリービジネス企業はこれを適切に策定することで、さらに大きな成功をつかみ、真の潜在力を発揮することが可能です。私たちは、調査結果とこれまでの直接的な経験の両方から、この結論に至りました。
ファミリービジネス企業の中には、これをすでに実践していて、効果的に進めている企業もあります。一方で、日々の業務と世代間の期待の重さの間に挟まれて、身動きが取れなくなっている企業もあります。これが課題であることを十分に認識している企業がある一方で、(今回の調査では、デジタル時代に適した戦略を持っていると答えた回答者が半数しかありませんでしたが、それすら現実をバラ色に描いている可能性があります)、このタスクに取り組むためのスキルを十分に持ち合わせていなかったり、どこから始めればよいのか分からずにいたりする企業もあります。さらには、この問題を意識的あるいは無意識のうちに避けている企業もあると思われます。中期的な戦略計画を立てようとすれば、後継者のことなど個人的なトピックに触れ、問題を解決するよりもむしろ問題を引き起こしかねないと恐れているためです。また、ビジネスプランがあり、それを実行している会社もあるでしょう。しかし、戦略的な計画は、ビジネスプランとは異なります。それに、文書化されておらず、社内への共有・コミュニケーションも進捗管理もされていないものは、「計画」ではありません。
「今後5年間のうちに、売上と利益の倍増を計画しています。それを実現する戦略的計画があります。さらに、より視野を広げると、5年後にはまったく違うことを行っているようになるというのが当社の目標です。それがどんなものかは、今は分かりません。新製品かもしれないし、新たなアイデアかもしれません。あるいは、新しい方法の採用かもしれません。」
PwCアイルランドのファミリービジネス企業担当リーダー、Paul Hennessyは、次のように話しています。
「ファミリービジネス企業は、計画がいったん策定されれば、それを実行することには長けています。ロードマップに従うことは、全般に上手です。しかし、そのロードマップをまず作成するのが、困難と言えます。デジタル技術の導入といった具体的な課題と、より幅広い戦略的な計画策定の両方において、このようなケースに数多く携わってきました。実際、技術のような具体的な課題に対する計画は持っているが、それらの計画を全てつなぎとめる戦略的なリンクがないというファミリービジネス企業をよく見かけます。事業のあらゆる側面にわたる一つの明確な戦略計画が存在し、それが明らかに一族の長期的な目標や計画と整合していなければなりません。その出発点となるのが、ビジョンと価値観です。共通の目標へのビジョンを持ち、そこへ到達するために必要となる意思決定のプロセスで基本となる価値観について合意する必要があります。この二つを確定させないかぎり、計画策定のプロセスは間違いなく失敗に終わるでしょう。」
「私たちは全員が長期目標について合意しています。例えば、次世代の育て方や引き継ぎ方、SABCOに勤務していない一族のメンバーのかかわりをどのように確保していくか、収益性のニーズと、事業設立時の幅広いビジョンとのバランスをどのように取っていくかなどを、入念に検討しています。」
PwCドイツのグローバルファミリービジネス企業担当リーダー、Peter Bartelsも、この見方に同意しています。
「オーナーが自分の頭の中で計画を立てていて、他の多くの人と共有していないファミリービジネス企業の案件によく携わります。社内の他の人たちがオーナーを信頼しているため、これで会社は機能しています。少なくとも当面は。しかし、長期的には、これは失敗のレシピです。プロの経営者を雇い入れたり、事業の成長や再編のために外部資金を調達したりするのは、困難になってしまう可能性があるでしょう。明確な計画を文書にまとめ、説明し、合意する必要があります。」
「不動産業界は、比較的参入障壁が低く、新たに参入してくる人がたくさんいます。でも、こうした人たちは、業界の仕組みを分かっていません。ビジネスプランすらなく、中長期的な戦略計画など言うまでもありません。これらは、父が教えてくれた最も重要なスキルです。」
Paul Hennessy
PwCアイルランド ファミリービジネス企業担当リーダー
どんな企業にも業界と市場、会社の成熟度に合った戦略的な計画が必要だが、全ての優れた計画に共通する基本原則も存在します。計画策定のガイドとなる10のステップを紹介します。
戦略的な計画とは、中期的に達成したいと考える目標を設定し、会社の向かう方向性を定めることです。一方、ビジネスプランは、この戦略的な計画を実行するために、向こう12カ月間に取るべき具体的な行動を明確にするものです。優れたビジネスプランを持つことは重要ですが、それは求められるものの半分でしかないのです。
3年後にどのようになっていたいでしょうか。5年後はどうでしょうか。どのような将来を目指すかを具体的に思い描き、そこに至るために何が必要かを、製品、サービス、バランスシート、会社の文化、組織などにわたって考えていきます。
事業の現状を、厳しい目で詳細に検討します。真の競争力を有しているでしょうか。自分の目標は現実的でしょうか。何を変える必要があるでしょうか。SWOT分析のようなテクニックは、自分の現状を客観的に内省するのに役立ちます。また、PESTLE(Political(政治)、Economic(経済)、Social(社会)、Technological(技術)、Legal(法律)、Environmental(環境))分析を使用して、市場に作用している外部要因を分析することもできます。マイケル・ポーターが提唱したファイブフォース分析も、業界に新規参入してくる競合の脅威や革新的な変化をもたらす新しい製品やサービスの可能性を評価する上で役立つでしょう。
戦略的な計画はCEOが中心となって策定しなければなりませんが、多くの人が寄与するほど有効性の高いものが完成するでしょう。また、自分が策定に協力した計画であれば、実行に際しての意欲も高まります。市場がどのように変化しているかを確実に理解している人など、社内の各所にいるスキルのある社員(と信頼の置ける外部のアドバイザー)の協力を募ることが重要です。社員に意見を聞き、顧客調査を実施してみるのもよいでしょう。
戦略的計画策定の厳密なプロセスは、今の経営のあり方に難問を投げかけ、次の段階へ発展させる準備ができているかどうかを試してくるでしょう。そうでなければ、この取り組みの甲斐はありません。このため、さまざまな選択肢や新しいアプローチに対してオープンな姿勢を保ち、経営方針や自分自身の役割をも調整しなければならないかもしれないという現実を受け入れなければなりません。
優れた戦略計画というのは、旅行計画のようなものです。最終目的地だけでなく、途中の通過点をいつまでに通過するかも考えなければなりません。
CEOと取締役会が計画全体の最終的な責任を負いますが、具体的な個々の要素は、しかるべき管理職に任せて、必要な予算とリソースを与えなければなりません。
戦略から戦術への移行は、まず計画の第1段階を向こう12カ月間の行動と実践のプログラムに変えることで達成します。
計画を実行する段階では、どのような成果が出ているか、微調整が必要かどうかを評価します。この状況評価には、客観的なKPI(重要業績評価指標)を使用します。
戦略計画を共有するだけでなく、その実行の進捗状況も共有する必要があります。これにより、コミットメントやアクションを皆で共有し、同じ方向を皆で目指しているという感覚を構築できるようになります。
Same Passion, different paths: How the next generation of family business leaders are making their mark.
The next generation of family business leaders are well prepared, confident, and above all they have great ambition – both for themselves and for their firms. 88% want to do something special with the business.