「私たちはアジアにチャンスを見いだし、迅速に行動しました。アジア市場に進出したのは業界でも極めて早く、それが競争において非常に有利に働きました。何かをすると決めたら即座に行動できるのが、ファミリービジネス企業のメリットです。」
今回の結果は、市況が厳しく変化の速度が加速しているにもかかわらず、ファミリービジネス企業は活力にあふれ、成功を収め、アグレッシブさも持っていることを示しました。ファミリービジネス企業の経営者らは、長期的視野を持ち、どんな経済環境においてもファミリービジネス企業が重要な役割を担い、安定性をもたらし、コミュニティと社員に対する責任を果たそうとしています。また、ファミリービジネス企業は変化と革新のエンジンになることができると語ってくれました。
「父は常にテクノロジーを奨励しました。常に進んで投資し、技術進歩の分野で先頭を走るリスクを受け入れました。彼の夢は、JBMを自動車業界の『Intel Inside』に等しくすることでした。『JBM Inside』のマークがIntelと同じぐらい品質を保証するものになってほしいと思っていました。私たちはそれを実現したと思います。そして今は、それ以上を目指しています。」
ファミリービジネス企業は、四半期ごとのプレッシャーにさらされる公開企業とは異なり、長期的な展望に対して投資することができ、時間をかけて良いアイデアを実証する余裕があります。これは多くの公開企業に浸透する短期主義と一線を画しているという点で貴重です。このことを、ファミリービジネス企業は誇りに感じています。今回の調査では、ファミリービジネス企業が経済全体にとって安定性をもたらすと答えた回答者が77%、社員を厚遇すると答えた回答者が74%、成功を単なる利益や成長だけでなく幅広くとらえると思うと答えた回答者が72%に達しました。また、長期的な視野に立って意思決定を下していると答えた回答者は55%、同業他社よりも意思決定が速いと答えた回答者は71%でした。さらに、回答者の多くが、迅速な意思決定、起業家精神に富んでいることなどを、ファミリービジネス企業の特長と考えていました。
「多国籍企業のインフラとスタートアップ企業の柔軟な組織体制を備えています。これが大きな武器です。また、このセクターで長期戦略がどう機能するかも理解しています。中期計画は必要ですが、その実行に際しては非常に柔軟でなければなりません。」
これらは全て、極めてポジティブです。過去10年近くにわたって大局的な視野がおおむね変わらずに来たということ自体、これらファミリービジネス企業の底力を物語っています。
しかし、後継者、グローバル化、デジタル、イノベーションといった点で、調査を重ねても大きな変化が見られないことは、懸念材料です。非常に長い歴史を持つ企業は存在しますが、全業界にわたるファミリービジネス企業の平均寿命は3世代となっています。一般にそこまで長続きする企業はわずか12%で、4世代以上の企業となると実に3%しかありません。中には事業売却を意識的に選択し、それを成功の証しとするケースもあるものの、一般的に多くの企業にとって、次世代への継承という関門をうまく通り抜けられるかどうかが、長期的な目標を実現できるかどうかの鍵となるのかもしれません。
「この宮殿は300年も前からここに存在しています。私たちは、この土地を持っているというだけでなく、地域の景観の一部になっています。ですから、私たちがすることは全て、良識ある地主として行動し、現在と未来の世代のために一族の伝統を慎重に守っていくニーズに根ざしています。」
ファミリービジネス企業を「経営の失敗」に追い込む要因の中で最も明らかなのは、承継のプロセスです。ある世代から次の世代への引き継ぎは、このビジネスモデルに走る活断層です。事業継続性のための詳細な計画を持っていても、この最大のリスクが放置されているのであれば、まったく意味がありません。
どんなファミリービジネス企業でも、会社と一族の方向性を調整する方法を見つけることは必須ですが、承継のプロセスは、この会社と一族という二つの次元を直接な対立へと発展させ、結果として一族と会社の両方にリスクをもたらす可能性があります。一方、うまく管理された承継のプロセスがあれば、ファミリービジネス企業にとって拠り所となり、環境の変化に対応して事業を活性化し、成長や多角化、専門化のための新たな機会を見つけられるでしょう。このプロセスを成功裏に進めるには、できるだけ早いうちから、有効な後継者計画を策定し、実行し、意思疎通していく必要があります。
このような後継者計画の策定は、かつて以上に重要性を高めています。少子化もしくは晩婚化などにより、次世代がいない、もしくは子を持つ年齢が高まっている結果、現世代のオーナーが引退したいと思った時に、次世代が引き継げるまでになっていない場合があるためです。
それにもかかわらず、承継のプロセスに対して「計画」を持っているファミリービジネス企業は、わずか15%しかありません。この数値が近年大きく向上していないことも、さらなる懸念材料です。この点企業が単なる「承継」ではなく「事業継続性」という考え方を取り入れていくことで状況が改善する可能性があることが、私たちの経験から分かっています。現世代が後継者の問題を事業継続性の一環として考えるようになれば、より客観的にとらえられるようになり、主観的なアプローチに伴いがちな感情的なストレスを回避できる可能性があります。
PwCオーストラリアのファミリービジネス企業担当パートナー、Simon Le Maistreは、次のように語っています。
「後継者計画は、一族の中に家業で働いている人とそうでない人がいる場合に、なおさら重要になります。このようなケースの多くで、オーナーシップや他の権利の問題が話し合われておらず、その結果、将来について皆が勝手な思い込みをしている可能性があるためです。このようなケースでは、私たち第三者が一族の人たちと多くの時間をかけて話し合い、将来の対応を見極めることが重要です。これにより将来の対立を回避し、一族の絆が深まります。」
調査結果はもとより、私たちが世界各地でファミリービジネス企業オーナーや経営幹部と築いてきた関係からも明らかになりつつあるのは、承継のプロセスに伴う課題は確かに重要である一方で、実ははるかに幅広い問題の一例にすぎないということです。ファミリービジネス企業は、数カ月や数年などではなく何世代という単位で物事を考える傾向にあり、もっともなことだが、この長期的な視野を誇りにしています。一方で、日々の業務、すなわち事業経営の基本と言える部分を着実に遂行する力を持っています。問題は「ギャップ」にあります。すなわち、事業の現状を長期的な未来のビジョンへ結び付ける戦略的な計画を持つという点で課題を抱えているのです。
今回の調査で、ある米国の回答者は「長期的な思考に透明性をもたらし、そのビジョンを一貫して実現していくという合理的な確証を持てるようになる必要性があります」と説明しました。そして、このビジョンには、会社とオーナー、それに一族が含まれていなければなりません。これらは相互依存の関係にあり、他を差し置いてどれか一つだけが成功することはできないためです。
しかし、オーストラリアの調査回答者が言っているように、「私たちには、年間予算達成までの戦略以外に戦略は存在しません」。これは言い換えれば、向こう12カ月を超えて5年~10年先の目標を実現する計画が欠けていることを意味します。これを私たちは「ビジョンと戦略のギャップ」と呼んでいて、多くのファミリービジネス企業が当初の有望な実績を持続可能な成功に変えられずにいる理由もそこにあります。
「ファミリービジネス企業は『成功シンドローム』と決別する力を持っていなければなりません。変化に対してオープンでなければ、自己満足や傲慢、過度に内向きな姿勢を招く可能性があります。」
後継者計画は、「ビジョンと戦略のギャップ」に対応する上で大きな役割を果たします。事業継続性を確立するだけでなく、それよりも幅広い役割があります。オーナーと一族の希望をかなえ、かつファミリービジネス企業が中長期にわたって調和の取れた事業目標を追求していく上で、後継者計画は極めて重要な役割を果たします。今年の調査では、自分の家族と会社の方向性の調和が取れていると答えた回答者が69%に上りました。しかし、個別事例や私たちの直接的な経験を参考にするかぎり、この調和が取れているという理解は、主にオーナーの見方である可能性があります。
戦略的な計画策定を重視することは、承継のプロセスの鍵を握ります。事業と家族の将来に何を望むかを明確にしないかぎり、ふさわしいリーダーを選んだり、どのような資質やスキルが必要になるかを考えたりすることは、そもそも不可能です。言い換えれば、戦略的計画策定と後継者計画は、切り離せない関係にあり、事実、後継者計画は全体的な戦略プロセスの一部に当たります。とはいえ、今回の調査結果が示しているように、承継のプロセスに適切な枠組みを設けてアプローチしているファミリービジネス企業は限られていました。また、これを1回きりの出来事と見なしているファミリービジネス企業は、「何」よりもむしろ「誰」に関心を寄せていました。現実には、こうした決定は継続的に行っていくべき作業であり、何度も立ち返っては、状況の変化や会社の戦略の進化に合わせて調整していく必要があります。
リーダーシップについて
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オーナーシップについて
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家業以外での経験を積む 事業環境が複雑化していくのに伴って、リーダーシップに幅広い経験を持ち込むことが欠かせなくなっています。そこで、家業以外の会社に勤務することをキャリアプランに組み込み、後に家業で必要となる具体的なスキルを身に付けるようにします。 |
早くから計画する 後継のプロセスは、できるだけ早くから始めることが重要です。全ての関係者が、いつ何を期待すべきかを知っていなければなりません。これにより、誤解や水面下の緊張関係などを生じさせず、あからさまな対立に発展するのを防ぐことができます。このことは、将来、経営幹部の役割を担う一族のメンバーにとって特に重要です。私たちは、現世代が存命中に株式を承継し始めることを、常にアドバイスしています。 |
中期的な戦略計画を策定する 次世代は、承継のプロセスを、事業を変革するチャンスだと見なすことが多く、実際、そのニーズがあることもあります。しかし、長期的な目標を考えて変化を起こすことが重要です。このため、現世代と次世代の両方が介入し、全ての株主と議論した上で、戦略的な計画を立てることが不可欠です。 |
徹底的にコミュニケーションする 意思決定はオーナーが独断で下すのではなく、議論し話し合った上で下す必要があります。この過程では、全ての関係者に発言権が与えられなければなりません。 |
意思決定のプロセスの幅を広げる 会社が世代交代するに当たって、誰か一人に依存しない組織構造を作ることが重要です。意思決定は、適切な情報と準備に基づいて、集団で行う必要があります。 |
入念に準備する 後継者計画に関係する税務や法務の仕組みを前もってよく理解しておきます。個別の事情や現地の法規制によっては予定しているアプローチが困難を来たすこともあるため、それが分かった時には遅すぎたということにならないようにします。 |
取締役会の役割を強化する 取締役会は、承継のプロセスを監督し、適切な能力を持った一族のメンバーのみが役職に就くようにするという点において、重要な役割を果たします。引退する世代が取締役になることで、引退後も会社にとって重要な貢献を続けることができます。 |
教育に投資する 事業経営という点では適切な専門知識を持っていても、オーナーになる上で必要なスキルは異なります。このため、現行と将来の全ての株主が必要な教育を受けてプロフェッショナルかつ有能なオーナーになるよう促していくことが重要です。 |
現世代の引退後の役割を明確にする 現世代は、自らの引退後に対して明確な計画を持っていなければなりません。これにより、誤解を回避し、介入したいという誘惑を克服できるようになるでしょう。家業以外の役割、例えば(会社と関係のない地域)コミュニティの役員などを引き受けることは、有意義でやりがいのある選択肢になり得ます。 |
資産を分散する 現世代が引退後の収入を完全に家業から得ていこうとすれば、それが事業に不釣り合いな負担をかける可能性があります。また、生活がかかっているため、引退後に「身を引く」ことも難しくなるかもしれません。このため、早いうちから家業以外の資産を形成しておく必要があります。 |
Same Passion, different paths: How the next generation of family business leaders are making their mark.
The next generation of family business leaders are well prepared, confident, and above all they have great ambition – both for themselves and for their firms. 88% want to do something special with the business.