企業の生産性を向上させ、多様で柔軟な働き方を実現するための在宅勤務ガイダンス

4.労働基準関係法令に基づく労務管理

  • 労働基準関係法令の適用
    (1)労働条件の明示:
    特に勤務場所を明示しなければなりません。

    (2)労働時間の適正な把握:
    在宅勤務において、通常のオフィス勤務者と同様に、パソコンや情報通信機器を利用した、労働時間を適正管理する必要があります。業務に従事した時間・内容を作業日報などで記録し、企業側で労働時間の状況の適切な把握をするなどの対応もできます。そのような業務の可視化により、当該業務に必要な所定労働時間の管理や、業務内容やプロセスについて改善を行うこともできます(BPR:Business Process Reengineering)。

    (2)‐1 年次有給休暇の有効活用
    就労者が労働から離れ、自由利用が保障されている場合、規則類を整備することで休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取り扱うことも可能です。

    (2)‐2 通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク
    この場合でも、使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われるものは労働時間に該当しますので要注意です。ただし、移動することを就労者に命ずることなく、単に就労者自らの都合により就業場所間を移動し、自由利用が保障されている場合は労働時間に該当しません。

    (2)‐3 フレックスタイム制
    テレワークもフレックスタイム制を活用することは可能。ただしあくまで始業・終業の時刻を労働者に委ねる制度のため、労働時間の把握は必要です。

    (2)‐4 事業場外みなし労働時間制
    具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、事業場外みなし労働時間制が適用できます。
    具体的には、情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、および随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことが必要です。なお実態に合ったみなし時間となっているか確認し、実態に合わせて労使協定を見直すことなどが適当です。

    (2)‐5 裁量労働制
    裁量労働制の要件を満たせば、制度の対象となる就労者についても、テレワークの活用は可能です。労働者の健康確保の観点から、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務が生じます。また、労働者の裁量が失われていないかなどを労使で確認し、結果に応じて、業務量などを見直すことが適当となります。

    (2)‐6 休憩時間
    労使協定により休憩時間の一斉付与の原則を適用除外とすることは可能です。

    (2)‐7 時間外・休日労働の労働時間管理
    テレワークであっても法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いなどが必要となります。そのため労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容などについて見直していきましょう。

労働時間の把握・管理については、2017年に厚労省から「労働時間適正把握ガイドライン」が出されており、この内容が働き方改革の改正の土台となっています。この内容によると、会社(使用者)には、労働日ごとに労働者の始業・終業時刻を適正に記録する義務があり、実務的にはタイムカードやICカード、パソコンのログ記録などの「客観的な記録」によって把握することとなります。また、終業時刻を超えて残業しているのに機械的にタイムカードに就業時刻が打刻されているなどといった誤った運用がされている場合は会社の責任で正しく是正する必要があります。

また、社員からの自己申告により労働時間を管理している会社や業務も多くあり、正確な労働時間が把握できないリスクがあるため、会社は申告された労働時間が実際の労働時間と合致しているかどうか実態調査をしたり、必要な労働時間の「補正」を行うことが求められます。

  • 労働安全衛生法の適用
    (1)健康診断・安全衛生教育の実施
    在宅勤務者であっても通常の従業員と同様に、その健康保持を確保する必要があります。具体的には健康診断(労働安全衛生法第66条第1項)、在宅勤務を行う従業員を雇用したときは、安全衛生教育を行う必要があります(労働安全衛生法第59条第1項)。
    在宅勤務者に対して、産業医やEAP制度を利用した専門医へのメンタルヘルス相談を義務付ける場合は、規程に明記する必要があります。(厚生労働省委託事業テレワーク相談センターより)

    (2)従業員の健康保持に留意
    また、通信機器を活用した働き方になりますから、在宅勤務を行う従業員の健康保持に特に留意していきましょう。従業員自身の健康を確保する観点から、『VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン』(平成14年4月5 日基発第0405001号)が公表されています。この内容を周知し、必要な助言を行っていくことです。
  • ガイドラインを踏まえた適切な労務管理
    国から公開(平成30年2月22日)された『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン』も参考にして労働環境の整備を行うのも有効です。
  • 在宅勤務に係る費用負担
    (1)情報通信機器の費用
    パソコンやその周辺機器などの情報通信機器を会社貸与とするのか、個人所有のものとする場合は会社負担はあるのか、また機器故障時のコストについても明確にしておく必要があります。

    (2)通信費・光熱費の負担
    在宅勤務中の自宅の通信回線を利用することによって生じる通信費や水道光熱費の負担、また業務に必要な郵送費、事務用品費などについても規程に明記する必要があります。

    (3)作業環境整備に係る費用の負担
    自宅で作業をする場合の机や椅子といった環境作りに必要な備品購入費用の負担やシェアオフィスなどの利用料金の負担についても明確にしておく必要があります。
    在宅勤務者が負担する費用のうち業務に係る費用分を在宅勤務手当の支給の形で対応することも可能です。
    新たに在宅勤務手当を設置した場合は、賃金規程などの改定が必要となります。
  • 服務規律(セキュリティ)
    資料の持ち帰りルールや情報漏えい防止のための管理の方法が不十分な場合は、対応方法を見直し服務規律上に明示することが適当です。

前のページ

次のページ

※PwCコンサルティング合同会社が提供するものは運用のアドバイスであり、法的アドバイスではありません。労働法全般及びそれに関わる法規制に関する事項については、PwC弁護士法人またはPwC社会保険労務士法人にご相談ください。