企業の生産性を向上させ、多様で柔軟な働き方を実現するための在宅勤務ガイダンス

9.在宅勤務を促進するための基盤となる仕組み作り

在宅勤務およびテレワークの導入背景と、日本における促進に向けた課題は以下のとおりです。

  • テレワークの歴史を振り返ってみると、1970年代に西海岸のロサンゼルスを中心にマイカーブームによる大渋滞と、排ガスによる大気汚染問題が深刻化した際、仕事にも環境にも影響が大きいことから、テレワークの導入が始まったと言われています。その後、パソコンが普及するとともに1989年のサンフランシスコ地震などを受けたリスク分散対策として広がり、米同時多発テロの際にも改めてその効果に注目が集まりました。
  • 今日、日本と米国でICTの技術面での差はありませんが、米国を始めとする欧米には、在宅勤務やテレワークなどの制度が導入しやすい仕組みや働き方があったと言えます。具体的には中長期的な雇用を前提して仕事のプロセスや進め方などの職務遂行能力を管理する日本の環境(決められた場所で働き、労働時間を管理)に比べ、欧米では個々人の仕事の範囲と責任が明確で、結果を重視する業績評価と報酬制度が浸透している点が挙げられます。
  • また米国では、ホワイトカラー労働者については時間管理の枠から除外できる“ホワイトカラーエグゼンプション”が導入されています。ホワイトカラー以外の職場でも、米国では働く場所や時間よりも、成果や雇用者の生活が重要、という見方がされています。
  • 日本においても2000年初頭から成果主義の導入の必要性が叫ばれ、業務のプロセスに加えて結果重視の働き方や評価制度が浸透する兆しがありますが、まだ多くの企業に根付いたとは言い難いのが実情です。

2019年4月1日から順次施行されている”働き方改革の関連法”の改正ポイントを正しく理解することで、今この時を組織として生産性を高める機会に変えましょう。

  • 各企業が労働時間の抑制に取り組み始める契機となった“働き方改革の関連法”により、時間外労働の上限が定められました。「特別条項」を結ぶことで事実上無制限であった残業時間についても上限が定められ、罰則が設けられました。また2023年4月からは、60時間を超える残業時間の割増率が現行の25%以上から50%以上となります。ますます労働時間管理におけるハードルが高くなり、企業にとって生産性の向上は喫緊の課題となっています。
  • 在宅勤務を通じた社内業務の整理やワークフローの改善、また自社で働いていた高齢者やパートタイマーが退職した場合に、その業務を外部委託(BPO:Business Process Outsourcing)することで、社内業務の効率化を進めることができます。
  • また、柔軟な勤務制度を導入し、従来からある変形労働時間制やみなし労働時間制、あるいは今回の法改正により新設された高度プロフェッショナル制度などを活用することで、忙しい時間とそうでない時間がはっきりしている職務に従事している社員の時間管理の無駄やほかの社員との業務量などの格差を是正できる可能性があります。
  • 在宅勤務者やテレワーカーについても、労働時間の管理や、その成果をどのように測るのかなど、整理の必要な課題があります。一方、労働基準法では、「事業場外労働についてのみなし労働時間制」が設けられ、例えば1日の「みなし労働時間」を8時間と決めれば、実際の実労働時間に日ごとの変動があっても、8時間として取り扱うことができます。このような仕組みを活用することも効果的です。
  • 高度プロフェッショナル制度は、以前は「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれていました。、一定の年収を超えるホワイトカラー社員に対して、労働基準法における労働時間規制を適用しない(除外する)というもので、元々米国の制度です。同制度の適用社員は、1日8時間の縛りがなくなります。同制度の活用には、会社の時間管理のコストをなくすとともに、在宅勤務を促進し、社員の生産性を高めるための有効な手だてと考えられています。年収1075万円以上が基準とされ、職務範囲が明確であること、また当人の同意が必要など多くの条件がありますが、今後、さらに活用される可能性があると考えられます。
  • また法改正により、パートタイマー・アルバイトや契約社員を一人でも雇用している会社は、就業規則と労働契約書の見直しが必要となりました。同じ仕事に携わっているのであれば、基本的に正社員と同じ扱いにしなくてはならないことが明確になりました。在宅勤務を始めとするテレワークを促進し、多様な働き方のニーズに応えるためにも、パートタイマー・アルバイトや契約社員への在宅勤務などの適用も、今後ますます注目されていくものと予想されます。

柔軟で新しい働き方を導入することにより、多様で優秀な人材を獲得し、保持できるようになります。

  • 2018年1月、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公開し、「モデル就業規則」から副業・兼業の禁止規定を削除したことにより、副業・兼業を解禁する会社が増えています。ダブルワークや週末起業などを推奨し、そこで得られた知識や経験を本業に生かすことによる「多様な働き方の意義」を認める流れも強まってきています。テレワークなどの在宅勤務者にも、副業・兼業を奨励する企業が増加することが予想されます。
  • 働く女性が家庭で家事や育児の役割を担いながら働き続けられる環境を整備することは、企業経営の中長期的な成長の観点からも重要なテーマとなっています。例えば、雇用保険の教育訓練給付の拡充、女性リカレント教育、女性活躍推進法の取り組みによる女性の就業者数の拡大に向けた取り組みなどが実施されています。この流れの中で、就業規則を中心に各種附帯制度(賃金制度、休職・休暇制度、短時間勤務制度、評価制度)や在宅勤務制度の導入、見直しに拍車がかかり、さらなる働きやすい環境作りへのニーズが高まっています。
  • 2018年4月から、障がい者の法定雇用率が2.0%から2.2%へ引き上げられました。働き方改革の一環として、障がい者の特性に応じた就労支援や障がい者の住宅就労を促進する取り組みの強化が求められています。

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