企業の生産性を向上させ、多様で柔軟な働き方を実現するための在宅勤務ガイダンス

10.生産性を高め、新しい働き方を実現するための課題

“働き方改革の関連法”に基づく今後の方向性に準拠しながら、在宅勤務やテレワークなどを通じて生産性を高め、競争力ある組織作りを推進するための基本的な仕組みや意識改革に関わる最重要課題として、以下の点が挙げられます。

  • 欧米における在宅勤務を含めたテレワークの進行の視点でも触れましたが、社員(特に正社員)の管理にあたって、労働時間や勤続年数などの長さや過去のスキル・知識・経験を評価する視点から、目標に対する結果である「成果」とそれを実現する「役割・責任」、およびそれを達成するための「スキル」「行動」を明確化し評価するジョブ型の評価制度へ移行することが重要です。このような仕組みを導入しないことには、たとえ在宅勤務制度を導入しても、目の届かない社員の管理が困難となり、人事マネジメントがうまく機能しなくなる可能性があります。
  • 働き手の価値観やニーズの多様化に対応した柔軟な働き方を許容する人事制度の構築や社員のマインドセット、そしてそれを支える風土の醸成が必要です。育児や介護、また副業などのさまざまな事情や関心を持った働き手が増加する中で、同一化された制度、均質的な職場を前提とした一律管理というシステムや制度から、兼業・副業やテレワーク、フリーランスなど外部人材の活用も含めた、ダイバーシティ&インクルージョンが重要となります。
  • 組織の成長を維持しながら、社員の自立・自律を促進するためのキャリア構築や、それを支援する仕組み作りが必要となります。個の成長を組織内だけの仕組みで支えるという視点から、兼業・副業などの社外における経験の重視、また、一度退職した社員を再雇用するなどの企業内・外の隔たりのない、柔軟性高い組織風土の醸成と仕組みが必要となります。
  • 以上の3点を実現し、組織の生産性向上を図っていくためには、AIやデータ活用による「HRテクノロジー」の導入が極めて重要となります。給与・労働時間などの管理、行政向けの資料作成、各種申告や届け出の処理といったこれまでの人事業務は、RPA(Robotics Process Automation)に代表されるテクノロジーを活用した定型業務の自動化や効率化に向けたリソース投資により、機能の向上を図る必要性があります。例えば採用面接や人事異動といった、担当者の経験・勘に頼っていた従前の人事機能は、テクノロジーの活用によってより可視化されていくことでしょう。採用、育成、配置、評価、キャリア開発、組織開発など、AIやデータ活用によって、より合理的で科学的な根拠に基づく最適人事を追求できる体制へと移行することができます。
  • テレワークや在宅勤務は、テクノロジーの導入により可能になります、同じ場所で同じ時間に働くという、場所的・時間的な拘束から社員を解き放ち、一人ひとりが望む働き方を実現できるようになります。
  • 人事トランスフォーメーションの観点では、テクノロジーの活用によって、以下のようなことが可能になります。
    (1)ウェアラブルやアプリで労務管理ができるようになり、個人ごとで労務・健康管理が実現する

    (2)人事データをクラウドで管理し、AIなどにより最適な人材配置や運用を提示できるようになる

    (3)個々の特性やニーズに応じた能力開発や育成プログラムを自動的に組成できるようになる

    (4)労働市場と企業内のミスマッチが解消され、スキルや能力分析の精度が向上する

    例えば、AIを活用して応募者とジョブ(職務)とのマッチング度合いを測定するジョブフィット率の算出や、ハイパフォーマーの行動特性を可視化するピープルアナリティクス、あるいは過去の社員の退職データから将来の退職予測モデルを算出する、といった新しいアプローチを実現できるようになる可能性があります。

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