EU強制労働製品禁止規則の発効と米国ウイグル強制労働防止法のアップデート

ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2025年1月)

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。

今回は、EUの強制労働製品禁止規則の発効と米国のウイグル強制労働防止法の最新動向についてご紹介します。

1. EU強制労働製品禁止規則

(1) 採択と発効

EU理事会は、2024年11月19日、強制労働によって生産された製品のEU域内における流通及び輸出入を禁止することを可能にする規則*1(Regulation (EU) 2024/3015 of the European Parliament and of the Council of 27 November 2024 on prohibiting products made with forced labour on the Union market and amending Directive (EU) 2019/1937)(以下「本規則」といいます。)を採択しました。
本規則は、同年12月12日にEU官報に掲載され発効しています。なお、EU加盟国における実際の適用は発効から3年後とされています*2

(2) 本規則の概要

本規則は、強制労働がその抽出、収穫、生産又は製造(サプライチェーンのいずれかの段階における製品に関連する作業又は加工を含む)のいずれかの段階で全部又は一部使用された製品を、「強制労働によって製造された製品」(以下「強制労働製品」といいます。)と定義しています(2条(g))。製品に関して、原産地や産業セクターの限定はされておらず、広範な強制労働製品が規制対象とされています。そして、本規則においては、強制労働製品のEU市場への上市等のみならず、EU加盟国からEU域外への輸出(3条)、EU域内のエンドユーザーを対象とするオンラインマーケットプレイスにおける販売などの遠隔販売(4条)も禁止行為に該当します。

EU当局(EU加盟国内に強制労働の疑いがある場合には加盟国当局、EU域外での強制労働の疑いに関しては欧州委員会(15条))は、強制労働の疑いがある製品に関し調査を実施し、強制労働があると判断した場合、事業者に対して当該製品のEU市場からの回収及び廃棄を命ずる権限が付与されています。EU当局による調査は、(a)疑われる強制労働の規模と深刻さ(国家権力によって課される強制労働の懸念を含む)、(b)EU市場に上市又は提供される製品の数量又は量、(c)最終製品において強制労働によって製造されたと疑われる部分の割合を基準とするリスクベースアプローチに基づいて行われるものとされています(14条2項)。

初期的な調査においては、EU当局は、疑義をかけられている事業者等に対して、その事業とサプライチェーンにおける強制労働の特定、防止、緩和、阻止、修復のために行われた関連する行動に関する情報を提供することを求めることとされています(17条1項)。初期的な調査の結果、強制労働製品のEU市場への上市等又はEU域外への輸出の禁止違反に関する懸念が実証されたとEU当局が判断した場合、関連する製品及び事業者について調査(以下「本調査」といいます。)が開始されます(18条1項)。

本調査において、EU当局は、調査対象となった製品が強制労働製品であり、3条違反であると決定した場合には、事業者に対して、当該製品のEU市場への上市等又はEU域外への輸出の禁止等を命ずる等の決定を行います(20条4項)。この際、EU当局が当該製品のうち3条に違反していると認められる部分を特定しなければならないものとされています。合理的な期間内に事業者がEU当局による決定を遵守しなかった場合には、EU当局は、決定内容の執行措置をとるものとされます(23条1項)。

2. 米国ウイグル強制労働防止法の近時の動向

強制労働により生産された製品等については、既に米国において、関税法307条及びウイグル強制労働防止法(以下「UFLPA」といいます。)による米国への輸入禁止規制が課されています。UFLPAは、2022年6月の施行以来、積極的に執行されており、U.S. Customs and Border Protection (CBP)の公表資料によれば2024年12月までの執行件数は12,666件に上り、そのうち5,443件が最終的に差止めされています。製品別の執行件数は、上位から電子部品(5,258件)、自動車製品等(2,290件)、アパレル製品等(1,996件)、工業部品等(1,311件)、一般消費者向け製品(697件)などとされています。また、原産国は、積荷価格を基準として、上位からマレーシア、ベトナム、タイ、中国と続きます。

(1) 優先セクター

米国国土安全保障省(以下「DHS」といいます。)が公表するUFLPAに関する戦略において、執行の優先度が高いセクターが明示されています。2024年7月9日に公表された最新の戦略では、従来のアパレル製品、綿花及び綿製品、シリカ製品(ポリシリコンを含む)、トマト及び加工品に加えて、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミニウム及び水産物を優先度が高いセクターに追加しています。

(2) Entity Listへの多数の中国事業者の追加

DHSは、UFLPAに基づく輸入禁止対象の事業者をEntity Listに掲載し、公表しています。Entity Listの掲載事業者は、UFLPAの施行以来、徐々に追加されてきましたが、2024年11月25日より中国に拠点を置く29の事業者が新たに追加されました。この結果、Entity List掲載事業者数は合計107となりました。新規に追加された事業者のセクターは、広範に及びますが、食品(トマトのほか、クルミ、レッドデーツ、マンゴー、ピーナッツなど種々の製品を含む)、医薬品・栄養補助食品(生薬製剤)及び金属製品等が含まれています。

(3) 自動車産業におけるUFLPA対応の遅れの指摘

米国上院財務委員会は、2024年5月20日、複数の欧州系自動車メーカーにおいて、米国に輸入される自動車に新疆ウイグル自治区由来の部品が使用されないことを確保するための取組みが遅れていること等を指摘する報告書を公表しました。自動車製品等に対する執行件数は、上記(1)のとおりですが、2024年7月以降に件数及び金額とも増加が見られます。報道等によれば、2024年2月以降、強制労働に基づく部品使用の疑いから欧州系自動車メーカーの米国への輸入差止めが行われており、これらの差止めが反映された結果とも考えられますが、2024年11月から12月にかけて執行件数も急増しています。今後の執行強化の可能性についても引き続き留意する必要があります。

3. おわりに

EUにおける強制労働製品禁止規則が発効しましたが、まだ具体的な内容には不明確な点も多いように思われます。実際の適用に先立ち、施行から18か月内にガイドラインが公表されるものとされており、公表され次第、ガイドラインの内容を確認する必要があります。また、UFLPAに関しては、毎年7月までに執行の戦略が公表されますが、米国における政権交代もあり、どのような内容となるのか注視する必要があります。一方、サプライチェーンの問題への対処には時間を要することから、いずれの規制への対応としても、国連ビジネスと人権に関する指導原則やEUのCSDDD等に基づく人権デューディリジェンスを通じてサプライチェーンの課題への対処を継続して進めることが肝要です。

*1 最終的に発効した本規則の条文については以下のURLをご参照ください。https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32024R3015

*2 本規則の概要については、「欧州:強制労働により生産された製品の流通と域外輸出を禁止する規則」(2024年7月)もご参照ください。

*3 ウイグル強制労働防止法については、「米国ウイグル強制労働防止法の成立等」(2022年2月)、「米国ウイグル強制労働防止法の施行と実務上の対応」(2022年8月)もご参照ください。

*4 このほか、カナダ及びメキシコにおいても、米国との3か国間条約に基づき、強制労働に基づく製品の輸入禁止を定める法令が制定されています。なお、米国ウイグル強制労働防止法については、「米国ウイグル強制労働防止法の成立等」(2022年2月)、「米国ウイグル強制労働防止法の施行と実務上の対応」(2022年8月)もご参照ください。

*5 Uyghur Forced Labor Prevention Act Statistics (https://www.cbp.gov/newsroom/stats/trade/uyghur-forced-labor-prevention-act-statistics) (最終閲覧2025年1月20日)

*6 https://www.dhs.gov/uflpa-strategy

*7 https://www.finance.senate.gov/chairmans-news/automakers-shipped-cars-and-parts-made-by-chinese-company-banned-for-forced-labor-to-the-united-states-car-companies-are-failing-to-police-their-supply-chains-for-chinese-components-made-with-forced-labor-finance-committee-majority-staff-investigation-finds

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