2023年の国内株式市場は、円安による企業業績の改善、日本経済のデフレ脱却への期待などにより、グローバル視点での日本企業の稼ぐ力が再評価され、日経平均株価の年間での上げ幅は7,369円とバブル経済崩壊後の高値を更新するなど全体としては上昇基調でした。一方で、東証グロース市場250指数は、2023年12月末時点で706.41ポイントと20年前※1と比較して約3割低い状況となっており、依然としてベンチャー企業・中堅企業の株価は厳しい水準であり、IPOを目指す企業にとっては厳しいマーケット環境となりました。このようなマーケット環境下において、2023年の国内IPOについて振り返るとともに、2024年の動向予測を紹介します。
なお、本稿における意見の部分は筆者の私見であり、PwCJapan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをあらかじめお断りいたします。
2023年のIPO社数(TOKYOPROMarketの新規上場会社を除く)は、2022年の91社から5社増加し96社となりました。直近10年の中では、2021年の125社に次ぐ水準となっています(図表1)。
出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC作成
東京証券取引所の市場別にみると、2023年はプライム市場へのIPO企業数は2社、スタンダード市場へのIPO企業数は23社、グロース市場へのIPO企業数は66社となりました。2022年と比較するとグロース市場の上場割合は若干低下しているものの、依然として、IPO企業においては、将来的に高い成長性が期待されるグロース市場の占める割合は高い水準となっています(図表2)。
注:上記2022年4月の市場再編以前は旧市場区分の数値を記載しています(プライム市場は市場第一部、スタンダード市場は市場第二部およびJASDAQ、グロース市場はマザーズにそれぞれ対応させて集計しています) 出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC作成
初値時価総額を見ると、2023年は1,000億円超のIPO件数が6件(グロース3社、スタンダード1社、プライム2社)と大型銘柄の上場も昨年と比較して増加した年でもありましたが、100億円未満の会社が全体に占める割合は43%となっています(図表3)。
出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC作成
一方で、業種別で見ると、2022年から引き続きIT系テック(SaaS、AI関連)、DX推進企業など、情報・通信業およびサービス業が中心になっています(図表4)。また、2023年は宇宙ベンチャー企業も上場するなど多種多様な企業が上場した年でもありました。
出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC作成
2024年においても、2023年と同水準レベルのIPO社数が期待されます。IPO企業の業種やビジネスモデルが多様化する傾向は今後も継続し、最先端な領域や新しい領域のスタートアップ企業、社会課題の解決を掲げる企業の上場など業種・サービスの幅が広がると予想されます。
その一方で、グロース市場では新規上場基準として時価総額や売買高の基準はなく、流通株式時価総額は5億円以上、流通株式比率は25%以上と設定されていることから、時価総額が低い「小粒上場」が多くなっています。このような状況は、資金調達をして成長性に繋げるという市場本来の機能を十分に発揮できていないのではないかという意見があり、現在、東京証券取引所では、グロース市場の上場維持基準の見直しについて議論されています。結論が出るのはまだ先ですが、将来的には、グロース市場に新規上場を予定している企業が、スタンダード市場やTOKYO PRO Marketへ切り替える可能性もあると考えられます。
※1 東証マザーズ指数(基準日:2003年9月12日、1000ポイント)
※2 「1.IPO企業数の推移」出所:各証券取引所の発表資料をもとにPwC Japan有限責任監査法人 財務報告アドバイザリー部 キャピタルマーケッツ&IPOソリューションズがとりまとめ
PwC Japan有限責任監査法人
京都第二アシュアランス部
ディレクター 前本 敏子