再上場の際の留意事項

  • 2024-07-18

はじめに

東京証券取引所(以下、東証)において、2016年12月に「MBO後の再上場時における上場審査について」※1が公表され、再上場の際の上場審査の視点や運用が再整理されました。特にMBO(Management Buy-Out)により上場廃止となった会社が再上場する場合には、市場に対する信頼を維持する観点から、通常の上場審査に加えて個別に投資者保護のための追加的な審査が行われることになります。本稿では、再上場の際の留意事項、特にMBO後の再上場の際の留意事項について解説します。

なお、本文中の意見に係る部分は、全て筆者個人の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解でないことをあらかじめお断りします。

1 再上場の事例

2020年から2023年までの日本国内における再上場の事例としては、図表1に挙げているものがあります。

図表1:再上場の事例

会社名 再上場年月 上場廃止年月 再上場までの年月
株式会社KOKUSAI ELECTRIC 2023年10月 2018年3月 5年7カ月
株式会社オートサーバー 2023年9月 2016年3月 7年6カ月
株式会社ノバレーゼ 2023年6月 2016年11月 6年7カ月
株式会社クルーバー(現在は株式会社アップガレージグループ) 2021年12月 2012年4月 9年8カ月
シンプレクス・ホールディングス株式会社 2021年9月 2013年10月 7年11カ月
ウイングアーク1st株式会社 2021年3月 2013年9月 7年6カ月
ローランド株式会社 2020年12月 2014年10月 6年2カ月
バリオセキュア株式会社 2020年11月 2009年12月 10年11カ月
株式会社雪国まいたけ 2020年9月 2015年6月 5年3カ月

出所:PwC作成

その他にも、エキサイトホールディングス(2018年11月上場廃止、2023年4月再上場)のように完全子会社化により非上場となったのちに再上場した事例や、スカイマーク(2015年2月上場廃止、2022年12月再上場)のように民事再生により非上場となったのちに再上場した事例などもあります。

2 東証における上場審査の日程に関する留意事項

東証における上場審査では、上場申請から上場承認までの標準審査期間は、通常、2~3カ月とされています。一方で、再上場を目指す会社など市場や投資者に重大な影響を及ぼす可能性が高いと考えられる申請会社は、審査上の確認項目が多岐にわたることが想定されるため、標準審査期間に加えて1カ月以上の審査期間が必要となります。

ちなみに、東証の「新規上場ガイドブック」※2では、このように標準審査期間に加えて1カ月以上の審査期間が求められる会社として、以下のような会社を挙げています。

  • 民営化企業
  • 議決権種類株式の活用などガバナンス上議論を要するスキームを採用している申請会社
  • 再上場企業
  • 申請会社グループやその経営陣が過去に重大な事件・法令違反を起こしているなどコンプライアンス上の重大な懸念のある申請会社
  • その他新たな論点が含まれる申請会社
  • 上場時に見込まれる時価総額が概ね1,000億円を超える申請会社

3 MBO後の再上場に対する考え方の再整理の経緯

再上場の事例の蓄積や、将来においてMBO後の再上場案件が増加していく可能性に備え、2015年12月から東証における上場制度整備懇談会において議論が始まりました。そこでは、MBOにより上場廃止となった会社に一定期間再上場を認めない規制の可否などが議論されましたが、そのような制度的・一律的な規制はかえって資本市場の活力をそぐことになりかねないと結論づけています。その代わりに、再上場時の上場審査の視点や運用が再整理され、意見募集を経た上で、「MBO後の再上場時における上場審査について」が2016年12月に公表されています。

上場会社におけるMBO

そもそもMBOは、上場会社の経営者が株主から株式を買い取って会社を非上場化する取引です。MBOは、上場会社として役割を終えた企業を市場から退出させるという意義を持つ場合もあれば、機動的な経営改善を可能とすることで企業価値を向上させるなどの意義を持つ場合もあり、一方で、株主にとってはプレミアム取得の貴重な機会でもあります。

このようにMBOは、活力ある資本市場を維持していく上で重要な役割を果たしている面があり、国内でもこれまでに実施された件数は少なくはありません。

一方でMBOは、一般のTOBと異なり、株主から経営を付託された経営者が自ら株主との間で利益相反を引き起こす取引であり、また、経営者が株主と比べて大きく情報優位に立つ取引です。そこで、経済産業省が公正なM&Aに関する各種ガイドライン※3を取りまとめ、MBOを行う場合には公正な手続きによってプレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性の確保を求めています。また、東証の上場ルールに則って必要かつ十分な開示が求められ、投資者保護のための公正な手続きが行われているかどうかが注視されます。明らかに問題がある場合には、是正措置が指導されます。

MBOによる上場廃止とイグジットとしての再上場

MBOのうち、経営改善によって企業価値の向上を目指すケースでは、MBOを実施する当初から再上場などによるイグジットを念頭に置き、MBOと再上場が一連の取引として行われることがあります。

MBOを実施して上場廃止となった会社が再上場する場合には、MBO時の計画とMBO後の進捗との間に乖離があると、MBOと再上場との関連性が問われたり、改めてプレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性が問われたりすることがあります。そこで、東証の上場審査では、過去にMBOを実施して上場廃止となった会社が再上場する際には、市場に対する信頼を維持する観点から、通常の上場審査に加えて、MBO後の状況を勘案しながら、投資者保護の観点から問題がなかったかどうかについて追加的な審査が行われます。

もっともMBOは、非上場化による機動的な経営改善を目的として、ファンドなどの関与の下に実行されるものが大多数であり、その場合にはイグジットの手段の一つとして再上場が念頭に置かれるのが通常です。MBOと再上場に関連性があることだけが問題とされるのではなく、その関連性を踏まえ、MBO時の手続きやMBO後の状況も加味し、投資者保護の観点から問題がないか確認していきます。

4 上場審査の視点と運用

東証の上場審査でMBO後の再上場の場合、以下のようなポイントを追加で確認することになります。

(1)MBOと再上場の関連性

MBOと再上場はそれぞれ独立した行為であり、両者の間に必ずしも高い関連性があるとは限りません。そこで上場審査では、主導者(経営者・株主)の同一性や連続性、MBOから再上場までの期間の長短などが確認されます。

(2)プレミアム配分の適切性・MBO実施の合理性

プレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性を一義的・客観的に判定することはできませんが、MBO時に株主の判断の前提となる手続きが公正に行われた上でMBOが成立していれば、大多数の株主が納得して取引に応じたものと判断でき、プレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性を問う必要性は低い、と考えられます。そこで上場審査では、MBO時の手続きの指針(経済産業省により2007年策定。その後、2019年および2023年策定※4)への準拠性などが確認されます。

再上場時から見て、MBO時の計画とMBO後の進捗との間に乖離がある場合であっても、再上場時にその理由について合理的に説明することができるのであれば、プレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性を問う必要性は低いと考えられます。そこで上場審査では、MBO時の計画とMBO後の進捗との間のかい離についての説明が十分に説得力のあるものかどうかなどを確認することになります。

(3)上場審査の運用

上場審査では、上記(1)および(2)の視点に基づいて確認が行われ、MBOと再上場の関連性が高くないか、プレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性が低くないかが審査されます。

その上で、再上場時のコーポレートガバナンスの体制や再上場に至るまでの経緯の説明および開示などを勘案し、総合的に再上場の可否が判断されます。

5 開示事例

直近の再上場事例では、前述の追加確認のポイントを含め、開示情報が充実してきています。ここで、関連する開示事例を図表2にまとめました。

図表2:再上場に際しての開示事例

A社 B社 C社
MBOに至る経緯とその目的 非上場化までの経緯とその目的 創業から株式上場まで
上場廃止
MBO後の経営状況 上場廃止後の状況 主要株主の異動
非上場化による効果 非上場化の効果
再上場を目指す理由 再上場の目的 再上場の目的

出所:「有価証券届出書」よりPwC作成

上場時の開示資料である「有価証券届出書」などにおいて、【企業情報】第1【企業の概況】の冒頭(1【主要な経営指標等の推移】より前)に開示される事例が見受けられます。

このように、前述の上場審査の視点と運用の追加確認のポイントはもとより、経緯についての丁寧な説明と、再上場の目的や理由が開示されていることが読み取れます。

一般的なIPOの場合には調達資金の使途などは開示されますが、再上場の場合には再上場の目的や理由が明確に開示される点は注目に値すると考えられます。

6 おわりに

本稿では、再上場の際の留意事項、特にMBO後の再上場の際の留意事項を解説しました。

MBO後の再上場時における上場審査のポイントは明確で、上場準備を進めるにあたっては、MBOと再上場の関連性、プレミアム配分の適切性・MBO実施の合理性などの追加的な審査項目に留意する必要があります。また、再上場の場合には東証における上場審査の日程について、標準審査期間(2~3カ月)に加えて1カ月以上追加されるため、上場準備のスケジュールでの留意も必要になります。


※1 東京証券取引所、日本取引所自主規制法人「MBO後の再上場時における上場審査について」2016年12月2日
https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/nlsgeu0000020ffh-att/20161202-01.pdf

※2 東京証券取引所「新規上場ガイドブック」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/guide-new/index.html

※3 経済産業省「公正なM&Aに関するルール形成について」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/fair-ma-rule.html

※4 脚注3参照


執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
ディレクター 清水 直樹