「会社」でない法人のM&A/事業承継に関する法務の視点

  • 2024-07-18

はじめに

M&A/事業承継に関しては、株式会社をはじめとする「会社」を前提とした議論が幅広く行われています。なお、ここでいう「会社」とは、会社法に基づいて設立される株式会社、合名会社、合資会社または合同会社を指します(会社法2条1号)。

一方で、このような「会社」に限らず、一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人およびNPO法人などの「『会社』でない法人」も、社会において重要な役割を果たしています。直接これらの法人の業務に関与していない企業においても、企業の株主が公益財団法人であったり、企業に関連する法人として公益団体や業界団体が存在したりするなど、種々の態様でこれらの法人に関与する場面が想定されます。このような「『会社』でない法人」に関しても、「会社」と同様に、M&A/事業承継が行われています。このような法人は、種々の側面において「会社」とは異なる特徴を有し、M&A/事業承継に際しても、それぞれの法人の性格を踏まえて、「会社」とは異なる視点での検討が必要になります。

本稿では、このような「『会社』でない法人」のM&A/事業承継に焦点を当て、法務の観点から留意すべき視点を概説します。「『会社』でない法人」には多くの種類が存在しますが、本稿では、その中でも社会的な実態として存在感が大きい法人であって、非営利的な性格を有するという共通点のある一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人およびNPO法人(以下、これらの法人を総称して「各種の法人」ということがあります)について検討します(図表1)。これらの法人は、それぞれ設立根拠法が異なり、事業の範囲も異なるものであるため、最終的には個々の法人について個別の法令を踏まえた検討が重要となりますが、本稿では、その前提としてこれらの法人に共通する基本的な「視点」について解説することを目的とします。

図表1:本稿で解説する「各種の法人」の概要

法人の種類 概要
一般社団法人 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づき設立される社団法人
一般財団法人 同法に基づき設立される財団法人
学校法人 私立学校(学校教育法1条に定める「学校」)の設置を目的として私立学校法の規定に基づき設立される法人
医療法人 病院等を開設することを目的として医療法の規定に基づき設立される社団または財団である法人
社会福祉法人 社会福祉事業(養護老人ホームや保育所の設置等)を行うことを目的として、社会福祉法の規定に基づき設立される法人
特定非営利活動法人(NPO法人) 特定非営利活動(不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とする一定の活動)を行うことを目的として、特定非営利活動促進法に基づき設立される社団である法人

なお、本稿における意見の部分は筆者の私見であり、PwC弁護士法人および所属部門の正式見解ではないことをあらかじめお断りいたします。

1 各種の法人の特徴とM&A/事業承継との関係

(1)概要

本稿が対象としている各種の法人は、株式会社をはじめとする「会社」とは異なる特徴があり、その特徴を理解することがM&A/事業承継の取り扱いを検討するに当たっての前提となります。

例えば、株式会社を対象とするM&A/事業承継では、その主要な手法の選択肢の1つとして株式譲渡の方法が挙げられます。しかし、本稿が対象としている一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人(改正前の医療法に基づく持分が存在する医療法人を除きます)、社会福祉法人およびNPO法人は、そもそも、株式会社における株式のように譲渡の対象とする法人の「持分」が存在しません(なお本稿では、法人の持分とは、法人の構成員としての立場と剰余金の配当や残余財産の分配を受ける経済的な利益を享受する立場が結び付いた地位を意味します)。このような法人の「持分」の有無を含め、各種の法人は、会社と比較して以下のような特徴があります。このような特徴が、M&A/事業承継の法的側面を検討するに当たっての重要な前提となります。

  • 持分の有無:法人の構成員としての立場と剰余金の配当や残余財産の分配を受ける経済的な利益を享受する立場が結び付いた「持分」が存在しないこと
  • 非営利性法人の公益的な性格:非営利の性格を有する法人として、剰余金の分配が禁止され、残余財産の帰属先についても制約を受けること
  • 事業の範囲と所轄庁の有無:(一般社団法人および一般財団法人を除き)法人の種類に応じて事業の範囲に制限があり、法人が所轄庁の監督を受けること
  • 社団法人と財団法人:社団法人のみならず、財団法人としての性格を有する法人が存在し、特に財団法人としての性格を有する法人は、その法人の構成員の在り方や機関の構成の基本的な考え方が社団法人としての性格を有する「会社」と異なること
  • 税制上の特別な取り扱い:非営利の性格を有する法人として、税制上の特別な取り扱いを受ける場合があること

(2)持分の有無

「会社」には、株式会社における株式や持分会社における社員としての地位など、法人の「持分」が存在します。M&A/事業承継の場面においては、株式譲渡などの方法によって法人の「持分」を譲渡すれば、経済的利益を含む法人の支配権を他者に承継できます。

これに対して、一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人(改正前の医療法に基づく持分が存在する医療法人を除きます)、社会福祉法人およびNPO法人には、このような、法人の支配および経済的利益を表章する「持分」が存在しません。このような特徴から、これらの法人においては、M&A/事業承継を実行するに当たって、株式譲渡のような法人の「持分」を譲渡するという基本的な手法を採用することができません。この視点は、M&A/事業承継において採用し得る手法を検討するに当たって重要な前提となります。これらの法人と会社のそれぞれにおいて取り得るM&A/事業承継の手法の比較については2で改めて議論します。

(3)非営利性法人の公益的な性格

一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人およびNPO法人は、「会社」とは異なり、営利を目的としない法人(非営利法人)です。ここでいう「営利を目的としない」という意味は、法的には、法人が剰余金の分配を目的としないという意味です。収益事業や利益を目的とした事業を行わないという意味ではありません(上に挙げた法人においても、一定の範囲で収益を目的とした事業を行うことができます)。これらの法人では、構成員または設立者に対して、法人に対する剰余金の分配に係る請求権を与えることは認められていません。また、残余財産の帰属先についても、その構成員または設立者に帰属させることは基本的に認められておらず、一定の類型の法人や各法人と類似する事業を営む者等に帰属させる(または国庫に帰属させる)ことが求められます。

また、法人の公益的な性格を担保する観点から、これらの法人においては、一定の割合・人数の親族や同一の団体の役職員による機関の構成員への就任・兼務が制限されたり、特定の個人や団体に特別の利益を供与することが禁止されたりするなど、ガバナンスに関しても特別な規律に服します。

これらの特徴は、M&A/事業承継との関係では、例えば、(i)法人の支配の移転に伴う経済的な利益の処理(剰余金の配当や残余財産の分配という形で経済的利益の精算が行われないこと)や、(ii)法人の支配の移転後のガバナンスの在り方(法令に即した人選の必要性等)に影響します。

(4)事業の範囲と所轄庁の有無

本稿で対象としている各種の法人(一般社団法人および一般財団法人を除きます)は、(i)一定の範囲の事業を行うことを目的として、(ii)その法人の設立根拠法となる特別な法令に基づいて設立が認められる法人です。その事業の範囲は、設立根拠法である法令やその事業に関連する法令の制約を受け、法令で認められた本来的な業務およびその他に許容される一定の附随的な業務に限って事業を行うことが認められます。例えば、学校法人は私立学校法の規定に基づいて私立学校の設置を目的として設置される法人、医療法人は医療法の規定に基づいて病院等を開設することを目的として設立される法人であり、その営む事業は、それぞれの法人が主たる目的とする事業および主たる事業に関連する一定の範囲の事業に限られます。このような業務範囲の検討に当たっては、①その法人でなければ行うことができない業務(例えば、学校の設置や病院等の設置等)の範囲、②その法人が本来的な業務の他にどのような業務を行うことができるのか(付随業務・附帯業務・収益事業等として、本来的な業務に加えて、どのような範囲の業務を行うことができるのか)という視点が重要となります。各種の法人におけるM&A/事業承継の検討に当たっては、事業目的・事業の範囲が制約されていることが基本的な前提となります。

また、各種の法人は、その多くにおいて関連する行政処分を行う所轄庁が存在します。M&A/事業承継の文脈においても、所轄庁との関係(事前の所轄庁の認可の取得や業務運営に当たっての所轄庁とのコミュニケーション等)が重要な論点となります。株式会社をはじめとする「会社」においても、その営む事業によっては許認可等に関連して事業の範囲が一定の範囲に制約され、行政庁の監督を受ける場合もありますが、各種の法人においては、そもそも法人の成り立ちからして、これらの制約・監督に服するという特色があります。

(5)社団法人と財団法人

法人は、その成り立ちを基礎とする分類として、「人」の集まりに対して法人格が付与される「社団法人」と、「財産」の集まりに対して法人格が付与される「財団法人」に分類されます。株式会社をはじめとする「会社」は、株主や社員(合同会社などの持分を有する者を指します)という法人の構成員である「人」(自然人および法人の双方が含まれます)の集まりに対して法人格が付与された社団法人です。株式会社においては、①法人の構成員である株主が基本的な意思決定を行い、②会社から委任を受けた取締役(会)が業務執行の決定および業務執行を行い、③監査役などが取締役の職務の執行などを監査するという仕組みが基本的な機関の構成です。

本稿で取り扱う各種の法人は、人の集まりである社団法人としての性質を有するものもあれば、財産の集まりである財団法人としての性質を有するものも存在します。社団としての性質を有する法人については、①法人の構成員である社員が重要な意思決定を行い、②法人から委託を受けた理事(会)が業務執行の決定および業務執行を行い、③監事などが理事の業務執行を監査するという形で、株式会社における機関の構成とある程度類似した形で機関構成を理解することができます。

これに対して、財団としての性質を有する法人については、あくまで「財産」の集まりに法人格が付与されたものであるため、株主や社員に相当する者が存在しません。あえていうと、評議員(会)が株主や社員が行うべき重要な意思決定を行う者である場合がありますが、株主や社員とは異なり法人の構成員ではなく、理事や監事と同様に、あくまで法人から委任を受けて権限を行使する者である(法人に対して委任関係に基づく善管注意義務を負う)という根本的な差異があります(なお、評議員(会)は意思「決定」までは行わず、決定に当たっての意見を聴取する「諮問」機関として位置づけられている法人もあります)。財団としての性格を有する法人の機関としては、①このような評議員(会)のほか、②理事(会)が業務執行の決定および業務執行を行い、③監事などが理事の業務執行を監査・監督するという機関構成となります。

このような法人の成り立ちを前提とした機関の構成については、M&A/事業承継を実施するに当たっての意思決定のプロセスや、その実行後におけるガバナンスの体制の検討の前提となります。

(6)税制上の特別な取り扱い

本稿で扱う各種の法人の中には、公益的な性格を有するものがあり、そのような法人は税制上も株式会社等の営利法人とは異なる取り扱いを受けます(法人の類型により具体的に適用される規律は異なります)。その例としては以下のようなものが挙げられます。

  • 法人課税に関する特別な取り扱い(法人税):公益法人等に関する法人課税の対象(収益事業に対する課税)、異なる税率が適用される法人、寄附金の損金算入限度額やみなし寄附金の制度
  • 法人に対する財産の寄附等に関する寄附者に対する特別な取り扱い:租税特別措置法40条・70条の非課税特例(所得税・相続税)、寄附金控除・特別控除(所得税)、指定寄附金・特定公益増進法人等に対する寄附金(法人税)
  • 法人の支配の移転に関する特別な取り扱い:特定一般社団法人等に対する課税上の特別な取り扱い(相続税)

会社のM&A/事業承継において課税関係は重要な論点の1つですが、各種の法人におけるM&A/事業承継においても、例えば、(i)「公益法人等」としてM&A/事業承継を実行することができるか、(ii)公益法人等に対する寄附を通じた事業承継についてある税制が適用されるか等、異なる視点から重要な論点となります。また、一定の税制の適用を受ける前提として、例えば、選任する理事について一定の条件が付されたり、定款において一定の規定が求められたりするなど、税制が法人のガバナンスに影響を与えるという側面もあります。

2 M&A・事業承継の手法

(1)概要

株式会社等の持分が存在する法人においてM&A/事業承継を実行する方法としては、大きく分けて、①株式等の法人の「持分」を譲渡する方法(Share deal)と、②法人が有する「権利義務」を譲渡する方法(Asset deal)の2つの類型が存在します。株式会社を例にとると、株式譲渡の方法や株式交換・株式移転・株式交付が①の手法として、会社の権利義務を個別にまたは包括的に承継する事業譲渡、合併および会社分割が②の手法として挙げられます。

他方で、譲渡の対象となる「持分」が存在しない法人は、上記のうちShare dealに相当する方法でM&A/事業承継を実行することはできません。したがって、事業譲渡・合併・会社分割に相当する法人が有する権利義務を譲渡する方法(Asset deal)により、M&A/事業承継を実行することになります。また、このような法人が有する権利義務を譲渡する方法に加えて、理事・監事・評議員等の法人の機関の構成員(意思決定を行う主体)を変更することによって支配を移転するという方法も採用されます(図表2)

図表2 持分が存在しない法人のM&A/事業承継の手法

(2)法人が有する権利義務を承継する方法(事業譲渡・合併等)

各種の法人におけるM&A/事業承継の手法として、①法人が有する権利義務を個別に他の者に承継させる事業譲渡、②法人が有する権利義務を包括的に他の法人に承継する(権利義務を承継させた法人は解散する)合併が挙げられます。

① 事業譲渡

事業譲渡は、法人が有する権利義務を個別に承継する取引行為であり、基本的には、私法上の一般的な規律に服することとなります。本稿で扱う各種の法人は、法人の種類によっては、その実行に当たって、(i)一定の機関による決定が必要とされたり、(ii)営む事業の関係で所轄庁の認可等の特別な規律に服することになります。会社との差異という観点からは特に(ii)の観点が重要です。例えば、学校法人であれば学校の設置者の変更(学校教育法4条参照)という特別な規律に服することになりますし、医療法人においてもその開設する病院等に変更が生じる場合には、都道府県知事の認可等の手続を前提とする定款の変更(医療法44条2項3号、54条の9参照)が必要となるなど、会社とは異なる手続が必要となります。事業譲渡の実行に当たっては、法人の種類に応じてその設立根拠法や事業に関連する法令上の制約を踏まえた対応を行うことが必要となります。

② 合併

合併は、法人が有する権利義務を他の法人に包括的に承継させ、当該権利義務を他の法人に承継させた法人が解散する行為です。本稿で取り上げる各種の法人においても合併を行うことが認められており、その基本的な性格は会社における合併と同様です。

各種の法人が合併を実行するに当たっては、法人の種類に応じて特別な規律に服することになります。重要な視点としては、(i)合併の当事者となる全ての法人が、それぞれと合併することが許容される法人であるか、(ii)合併の実行に当たって、それぞれの法人においてどのような意思決定が必要となるか(会社とは異なる各種の法人の機関構成を前提とした機関決定の在り方)、(iii)合併の実行に当たって、その類型の法人でどのような許認可等が必要となるかという点が挙げられます。

(3)機関の構成員の変更(理事・監事・評議員等の変更)

前記のとおり持分が存在しない法人においては、株式等の法人の「持分」を承継することにより法人の支配を移転することはできません。持分が存在しない法人の支配を移転するには、その重要な事項を決定する機関および業務執行を行う機関の構成員を変更することにより、法人の意思決定および業務執行の主体を承継する方法が採られます。例えば、一般社団法人を例にとると、法人の重要な事項を決定する法人の構成員である社員、業務執行を行う理事、理事の監督を行う監事をそれぞれ交代することによって、交代後の者が当該法人の意思決定および業務執行を行う体制に変更でき、さらに事業の承継を行うという方法が採られます。一般財団法人の場合には、社員に相当する法人の構成員が存在せず、理事および監事に加えて、法人の重要な意思決定を行う者である評議員を変更することになります。

このような機関の構成員の変更の方法による場合、株式譲渡等の持分の移転や前記の事業譲渡の場合と異なり、財産権の移転が生じません。また、持分が存在しない法人においては、前記のとおり、持分の払戻請求権、剰余金の配当請求権および残余財産分配請求権が存在せず、これらの権利について経済的利益の精算が行われることもありません。もっとも、機関の構成員の変更に伴い、例えば、職務執行の対価(退職金)等が授受されることは想定されます。

3 おわりに

このように、一般社団法人、一般財団法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人およびNPO法人などの「会社」でない法人は、会社と異なる特徴があり、M&A/事業承継の場面においても、その特徴を前提とした検討が必要となります。これらの法人のM&A/事業承継については、日常的にM&A/事業承継に携わる方々にとっても、なじみのない法制度に対応する必要があり、対象が「会社」であることを前提としたM&A/事業承継の「常識」が必ずしも妥当しない側面があります。これらの法人に関するM&A/事業承継の場面においては、その特徴を踏まえながら、個別の論点を慎重に検討することが求められます。


執筆者

PwC弁護士法人
パートナー 山田 裕貴