上場に至るまでには、主幹事証券会社による審査と取引所による審査があります。主幹事証券会社による審査は日本証券業協会が定める「有価証券の引受け等に関する規則」、取引所による審査は「有価証券上場規程」に定める実質審査基準のそれぞれに基づいて、上場適格性を満たしていることが判断されます。どちらも、取引所の「有価証券上場規程」に定める形式要件を充足することを前提に審査が行われます。形式要件とは、資産、利益、株主数などについて各市場区分において最低限満たしていなければならない数値基準のことをいいます。これに対して、実質審査基準とは、企業の継続性及び収益性や事業計画の合理性、健全性、開示の適正性などについて定めた基準を指します。
上場申請会社は申請に際し、申請会社が新規上場基準に適合する見込みがあると主幹事証券会社が判断した上場適格性調査の結果や、上場適格性調査の過程で特に重点的に確認を行った事項が記載された「上場適格性調査に関する報告書」を取引所に提出する必要があります(上場承認日の3営業日前までに提出する必要があります)。このため、主幹事証券会社は、申請会社が上場会社にふさわしい会社であるかどうかの審査を、取引所への上場申請に先立って実施することとなります。加えて、主幹事証券会社は、上場時の株式の公募・売出しに係る引受審査の観点からも審査を行う必要があります。主幹事証券会社は「有価証券の引受け等に関する規則」を遵守することが求められることに加え、金融商品取引法が定める元引受金融商品取引業者における引受責任を負うことから、十分な開示審査を行い、株式の公募・売出しに係る引受審査(企業内容および開示審査)も上場適格性に係る審査と同時並行で実施する必要があります。
主幹事証券会社の審査は、上場申請会社に対する書面による質問、その回答に基づく上場準備担当者などへのインタビュー、工場・店舗など事業所の実査、監査法人との面談、経営者・監査役・独立役員との面談などを通じて実施されます。審査期間は、会社の規模、事業の複雑性などにより異なりますが、一般的に半年程度を要します。
取引所による審査もおおむね主幹事証券会社による審査と同様に実施されます。審査に要する期間は市場区分ごとに異なりますが、通常、上場申請から承認まで2~3カ月となっています。なお、日本取引所自主規制法人の理事会において審議が必要となる上場申請会社の場合は、標準審査期間に加えて1カ月以上の審査期間が必要となります。
取引所の審査期限は、定時株主総会の到来(決算の確定)にかかわらず、新規上場申請日から1年間となります。
形式要件(抜粋)
出典:日本取引所グループ ウェブサイト(2023年4月1日現在)
実質審査基準(抜粋)
出典:日本取引所グループ ウェブサイト(2022年4月4日現在)
審査範囲は、事業内容・ビジネスモデルの把握から始まり、過年度の業績推移の要因把握、予算および中期経営計画の達成可能性、会計処理の妥当性、内部管理体制の有効性、関連当事者との取引関係の妥当性、反社会的勢力との関係の有無まで多岐にわたります。上場申請会社は、数百ある質問事項について、数週間程度の回答期限内に正確に回答することが求められます。回答内容・期限の遵守状況からも主幹事証券会社は上場申請会社の内部管理体制の十分性を審査していると考えられ、慎重かつ迅速な対応を心掛ける必要があります。また審査は、回答内容およびインタビューを通じて上場申請会社を把握すると同時に、上場会社としての適格性や株式の引き受けを判断するため、情報が不十分な場合や正確ではない場合には追加確認が発生し、上場スケジュールに影響を与える可能性があります。
上場申請会社の上場準備担当者への書面による質問およびインタビューが実施され、上場申請会社に対する理解が進んだ段階で、事業所や工場などにおいて実査が行われます。資産の実在性や、規程などに基づいて業務が行われているかどうかを確かめることが趣旨であり、必要に応じて従業員などへのインタビューが行われる場合もあります。
上場申請会社の内部統制制度の整備状況、会計処理の妥当性などを調べるため、監査法人との面談が実施されます。通常は、審査が進んだ段階で実施されますが、特殊な会計処理が採用され、その妥当性について見解の相違が生じる場合などには、複数回にわたって検討がなされることもあります。
審査の最終段階として、経営者に対して、会社や業界について経営者としてどのようなビジョンを持って経営にあたっているか、上場会社となった際に株主にどのように対応するのか(IR活動の取り組み方針など)、業績開示に関する体制および内部情報管理に関する体制はどのように構築・運用されているかなどを確認するための面談が実施されます。また、監査役(原則として常勤監査役)に対しては、実施している監査の状況や上場申請会社の抱える課題、内部監査室、監査法人との連携状況について確認するための面談が行われます。さらに独立役員(候補者)に対しては、上場申請会社のコーポレートガバナンスに対する方針、現状の体制および運用状況、独立役員の職務遂行のための環境整備の状況のほか、経営者が関与する取引の有無や当該取引への牽制状況などについてどのように評価しているのか、上場後に独立役員として果たすことが期待される役割・機能などについてどのように認識しているのかといった内容を確認するための面談が行われます。
主幹事証券会社によっては、直前期の中間審査、申請期の最終審査と2回に分けて審査を実施する場合があります。中間審査では上場申請会社のビジネス全般と直前々期までの財政状態および経営成績についての審査が行われ、最終審査では中間審査で課題となった事項あるいは要改善事項について状況が確認されるとともに、直前期の財政状態および経営成績を中心に審査が行われることになります。
公益性および公序良俗に反しないこと、反社会的勢力との関係を有していないこと、事業の根幹に係る訴訟・係争がないこと、法令を遵守した企業経営がなされていることなどについては、審査の各段階で確認されます。また、上場適格性審査に加え、「企業内容等の開示に関する内閣府令」「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」「財務諸表等規則」などに基づき、適切な開示がなされているかを確認するため、有価証券届出書などの審査も行われます。
主幹事証券会社による上場適格性審査の後、上場申請会社は新規上場申請に関する各種書類を取引所に提出します。これを受けて、取引所では上場申請会社が形式要件を充足しているかどうかを確認し、その後、実質審査基準による審査を開始します。取引所による審査は主幹事証券会社の審査と同様に、次のような流れで行われます。
上場申請会社が親会社等を有している場合は子会社上場に該当し、親会社等と上場申請会社の少数株主との間には潜在的な利益相反の関係があると考えられます。そこで子会社上場に際しては、上場申請会社の少数株主の権利や利益が損なわれないようにするためにも、親会社等からの独立性の確保が求められます。
子会社上場にあたっては、以下の点が確認されます。
出向者の受け入れが、親会社等に過度に依存しておらず、継続的な経営活動を阻害するものではないこと
なお、中核的な子会社とは、主に以下のような子会社をいいます。