上場審査に際しては、新規上場申請者の企業グループ(以下、申請会社グループ)が、その関連当事者等との間で、取引行為その他の経営活動を通じて不当に利益を供与または享受していないと認められることや、その関連当事者等との間の取引行為または株式の所有割合の調整などにより申請会社グループの実態の開示をゆがめていないことについて、主に次の観点から確認および検討がなされます。
関連当事者等の範囲は、財務諸表等規則第8条第17項が掲げる関連当事者と、関連当事者の範囲に含まれないものの、申請会社グループと人的・資本的な関連を強く有すると考えられる、その他の特定の者からなります。
関連当事者等 |
財務諸表等規則第8条第17項に掲げる関連当事者 |
(1)親会社 |
(2)子会社 |
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(3)財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社(兄弟会社) |
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(4)財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(その他の関係会社)ならびにその親会社及び子会社 |
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(5)関連会社及び当該関連会社の子会社 |
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(6)財務諸表作成会社の主要株主(自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて総株主等の議決権の百分の十以上の議決権(取得又は保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を保有している株主)及びその近親者(二親等内の親族) |
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(7)財務諸表作成会社の役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)及びその近親者(二親等内の親族) |
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(8)親会社の役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)及びその近親者(二親等内の親族) |
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(9)重要な子会社の役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)及びその近親者(二親等内の親族) |
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(10)(6)から(9)に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社 |
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(11)従業員のための企業年金(企業年金と会社との間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。) |
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その他の特定の者 |
関連当事者の範囲に含まれないものの、申請会社グループと人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者 |
なお、国際財務報告基準(IFRS)を採用している場合、関連当事者の範囲については、実質的な影響により判断されます。重要性の判断基準が明示されていないため、国際会計基準(IAS)1号「財務諸表の表示」の基本的な取り扱いに従った実質的な判断が必要となることから、開示範囲が財務諸表等規則に掲げる関連当事者の範囲と比べて広くなる可能性があります。また、親族の範囲についても、各役員の状況によるため、事前に範囲を明確化するなどの対応が必要です。
上場準備前は気にせずに行われてきた取引であっても、関連当事者等との取引に該当する場合には、上場審査に際して、取引条件の見直し、取引そのものの解消が必要となる可能性があります。
売上・仕入取引、外注取引、特許使用やロイヤリティ関係のライセンス取引などを関連当事者等との間で行う場合、当該取引に事業上の合理性(事業上の必要性)があるか、その条件に妥当性が担保されているかなど、慎重かつ多面的な検討が必要となります。仮に、事業上の合理性がないと判断された場合や、取引条件が妥当ではないと判断された場合には、取引の解消や取引条件の見直しなどが求められる可能性があります。
事務所スペースなどを関連当事者等から賃借している場合や、申請会社グループ所有の不動産を住宅用として関連当事者等に貸している場合などが見受けられますが、どちらの場合も、関連当事者等と利益相反取引と判断される恐れがあるため、取引の合理性や事業上の必要性、取引条件の妥当性などに関する説明が求められる可能性があります。取引の合理性や事業上の必要性、取引条件の妥当性などが認められない場合には、契約の解消が必要となる可能性があります。
申請会社グループが関連当事者等との間で資金の貸借や関連当事者等の債務の保証を行っている場合には、事業上の取引や不動産取引のような個別事情を考慮する性質のものではなく、原則として解消する方向で検討する必要があります。
また、申請会社グループの借入やリース債務に関連当事者等(特に経営者)の個人保証が付されている場合があります。このようなケースは、直接的には上場申請会社の株主利益を害するものではないとも考えられますが、一経済主体としての申請会社グループの信用力が借入規模に比して十分でないことの証左とも捉えかねられず、解消する方向で検討する必要があります。一般的には、申請会社グループの上場が確実になった段階で、銀行などとの交渉により解消されることが多いようです。
上場申請会社の役員または従業員が関連当事者等の役員や従業員を兼務している場合は、上場申請会社の人事戦略上の合理性や必要性があるのか、あるいは上場申請会社の業務に専念できる状況にあるかを検討するとともに、報酬額や報酬の負担関係の妥当性についても検討が必要です。
上場審査上、関連当事者等との取引はさまざまな観点から検討されます。中でも以下のような項目については、申請会社グループ内での再編が必要となる可能性があります。
関連当事者等の中でも子会社や兄弟会社などの関係会社は、財務数値の恣意的な調整などに利用することが容易に可能です。そのため上場審査に際しては、これら関係会社の存在意義について説明を求められる可能性があり、存在意義が乏しいと判断された関係会社については、合併、売却、清算などにより整理することが必要となるケースがあります。例えば、上場申請会社と同じ機能(マーケティング、営業管理など)を有する関係会社や、休眠状態の関係会社などが想定されます。
上場申請会社本体の業績が好調であっても、申請会社グループ内に業績不振の関係会社を抱えているケースがあります。このようなケースでは、業績不振の関係会社の存在意義について、上場審査の際に説明が求められる可能性があります。その結果、状況に応じて事業再生や、上場後の株主が不利益を被る可能性を排除するために清算・売却といった組織再編が必要となる可能性があります。
上場申請会社と共通の親会社を持つ、いわゆる兄弟会社については、相互に取引関係がない場合であっても、親会社の状況や親会社が兄弟会社を所有する意図などによっては、将来、申請会社グループに影響が及び得ることから、上場審査の際に、兄弟会社の存在意義や申請会社グループへの影響力などが検討される可能性があります。特に非上場の兄弟会社がある場合には、上場申請会社の親会社を巻き込んで、兄弟会社を今後どうするのかなどの検討が必要になることが想定されます。
関連当事者等と類似する概念として、特別利害関係者等があります。両者はほぼ同じ概念ですが、用語が登場する個所が異なり、関連当事者等はその取引の合理性や取引に関する開示の妥当性が上場審査において確認・検討されるのに対し、特別利害関係者等は上場申請会社の株式等を譲渡などした場合に申請書類上に記載が求められます。
具体的には、特別利害関係者等が、上場申請日の直前事業年度の末日の2年前の日から上場日の前日までの期間において、上場申請会社の発行する株式または新株予約権を譲り受けた場合、または譲渡(新株予約権の行使を含みます。以下「株式等の移動」)を行った場合には、「Iの部」および「有価証券届出書」の中の「株式公開情報 第1特別利害関係者等の株式等の移動状況」に記載する必要があります。
特別利害関係者等の範囲は次のとおりです。
特別利害関係者等 |
開示府令第1条第31号イに規定する特別利害関係者 |
当該会社の役員(役員持株会を含み、取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員を含む。)、監査役又は執行役(理事及び監事その他これらに準ずる者を含む。) |
当該役員の配偶者及び二親等内の血族(以下、上記の役員と合わせて役員等という。) |
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役員等が自己又は他人の名義により所有する株式(優先出資を含む。以下同じ。)又は出資に係る議決権が、会社の総株主等の議決権の百分の五十を超えている会社 |
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上記会社の関係会社(財務諸表等規則第八条第八項に規定する関係会社) |
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上記関係会社の役員 |
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上場申請会社の大株主上位10名 |
上場申請会社の大株主上位10名 |
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上場申請会社の人的関係会社とその役員 |
人事、資金、取引等の関係を通じて、当該会社が、他の会社を実質的に支配している場合又は他の会社により実質的に支配されている場合における当該他の会社 |
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上場申請会社の人的関係会社の役員 |
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上場申請会社の資本的関係会社とその役員 |
当該会社(当該会社の特別利害関係者を含む。)が他の会社の総株主等の議決権の百分の二十以上を実質的に所有している場合又は他の会社(当該他の会社の特別利害関係者を含む。)が当該会社の総株主等の議決権の百分の二十以上を実質的に所有している場合における当該他の会社 |
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上場申請会社の資本的関係会社の役員 |
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金融商品取引業者等(外国証券会社を含みます。)並びにその役員、証券会社の人的関係会社及び資本的関係会社 |
金融商品取引業者等 |
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金融商品取引業者等の役員 |
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金融商品取引業者等の人的関係会社及び資本的関係会社 |