事業計画は企業の取るべき経営戦略を具体化するために策定されるものであり、(1)会社、部門、個人の目標としての機能、(2)経営管理ツールとしての機能、(3)目標を達成するためのアクションプログラムとしての機能、(4)各部署に分散している知識、情報を集約するコミュニケーションツールとしての機能を果たします。
いわゆるオーナー企業の場合、トップが独断で計画を策定していることもあります。しかしその場合、単に努力目標を設定しているに過ぎないというケースが散見されます。実効性ある中期利益計画を策定するためには、トップダウンで大枠を決定し、ミドル層を中心にボトムアップで詳細を検討することが必要です。
実務上、一度中期利益計画を作成すると計画の対象期間が終わるまでは見直すことがない企業も見られます。しかし上場審査では、最新の環境変化などの情報を織り込んで毎年計画を更新する、いわゆるローリング方式で中期経営計画を作成することが求められています。
ローリング方式を前提とした場合、あまりにも早く中期利益計画の作成を始めると、現在の事業年度の結果を織り込むことができません。逆に遅すぎると新年度のスタートまでに間に合わず、いずれの場合も計画の実効性が乏しくなります。実務的には、3月決算を前提にすると、12月には作成準備に取り掛かり、2月中に完了させ、3月の取締役会で正式に承認を受けるのが一般的です。
上場にあたっては、申請事業年度も含めた中期経営計画期間における利益計画が、上場後の業績見通しとなります。
また、中期利益計画の初年度計画が予算となり、月次予算に展開されることになります。
上場会社は、年度の決算情報を決算日以降、四半期の決算情報を各四半期末以降、それぞれ45日以内に開示する必要があります。
上場審査においては、上場会社に準じたスケジュールで決算情報を適時に開示できる体制にあるかどうかが確認されます。
上場会社は、公表された直近の予想値(予想値がない場合は、公表された前連結会計年度の実績値)と比較して、新たに算出した予想値または決算における数値との間に差異が生じた場合、かつ以下のいずれかに該当する場合は、直ちにその内容を開示することが義務付けられています。
新たに算出した予想値または決算における数値を、直近の予想値(予想値がない場合は、公表された前連結会計年度の実績値)で割った数値が
(1)売上高については1.1以上または0.9以下である場合
(2)営業利益、経常利益、純利益のいずれかについては1.3以上または0.7以下である場合
また、上記に該当する場合は、次の事項も開示する必要があります。
損益計算書予算は、通常、受注および売上を起点として作成されます。製造業であれば、受注予算、売上予算から生産計画、在庫計画を検討します。次いで人件費予算、経費予算を検討し、さらに設備投資計画、資金計画と併せて検討することで、売上総利益から税引前当期純利益までの各段階の利益を導き出し、最後に税額計算を行うことにより当期純利益予算まで作成します。
作成にあたっての一般的な留意事項は以下のとおりです。
売上計画の実現可能性については、十分な説得力を持って合理的に説明する必要があります。営業担当社員の数、販売数量、単価の前期比較といった内部情報のみならず、市場規模の将来の見通し、競業企業の動向といった外部環境も十分に検討し、根拠となるデータを用意する必要があります。
非上場企業の場合、税務申告に足りる簡便な原価計算で済まされているケースがありますが、より精緻な原価計算を行う必要があります。
販売費および一般管理費に含まれる多くの費目は、前年度の実績数値を参考に比較的簡単に計算しているケースが見られます。しかし、設備投資を前年度末近くで行っている場合や従業員数が大幅に変動している場合など、前提が変わっていないか留意が必要です。
上場審査で作成が求められる場合でも、全ての貸借対照表科目について予算を作成する必要はありません。会社固有の事情にもよりますが、一般的には、現預金、売上債権、在庫、有形固定資産、仕入債務、長短借入金、資本項目といった勘定科目以外は、その他流動資産・負債、その他固定資産、負債に集約して作成しても問題ないと考えられます。
売上計画や仕入計画を基に、掛売上・仕入比率、回収・支払いサイトなどを考慮して計算します。
売上計画、生産計画、仕入計画を基に計算します。
増資などの計画、設備投資・除売却計画、損益計算書予算より計算します。
長期借入金については資金調達・返済計画に基づき計算します。
個々の貸借対照表項目について予算数値を作成すると、結果として資金の過不足が生じますが、この過不足は現預金と短期借入金を調整することで、貸借対照表予算の借方合計と貸方合計を一致させます。つまり、他の貸借対照表項目を全て予算化した後で、資金ショートを起こさず、なおかつ無駄に余剰資金が生じない水準に現預金と短期借入金の予算額を決定します。
貸借対照表予算と同様に、全てのキャッシュ・フロー計算書項目を予算化する必要はありません。
間接法によるキャッシュ・フロー計算書予算は、前年度末の貸借対照表、当年度の貸借対照表予算、当年度の損益計算書予算、設備投資・除売却計画などに基づいて計算することができます。
上場審査においては、事業計画がそのビジネスモデル、事業環境、リスク要因などを踏まえて、適切に策定されていることが確認されます。事業計画には、自社のビジネスモデルの特徴(強み・弱み)や収益構造、過年度の業績の変動要因なども踏まえて、今後の事業展開に際して考慮すべきさまざまな要素が適切に反映されていることが必要です。「考慮すべきさまざまな要素」には、以下のような項目があります。
また事業計画は、一部の経営者や特定の部署が独断的に立案したものや、社内の努力目標のようなものであってはならず、社内の正式な手続きを経た合理的な計画であることが求められます。
グロース市場の上場会社は、投資者に合理的な投資判断を促す観点から、事業計画及び成長可能性に関する事項を上場後も継続的に開示することが求められます。
事業計画及び成長可能性に関する事項は新規上場日に開示が求められ、また、新規上場申請時にはそのドラフトの提出が必要となり、上場審査の対象でもあります。
事業計画及び成長可能性に関する事項では、上場申請会社の強みや特徴だけでなく、今後の課題にも触れる等、会社の姿が誇張されずに誤解なく伝わることが重要です。記載が必要な項目のうち、主な項目、ポイントは以下のとおりです。
事業内容や事業の収益構造について、事業の流れや、仕入先・販売先等の属性、企業グループの収益・キャッシュ・フロー獲得の方法に触れて簡潔に、分かりやすく記載することが求められます。
経営指標やKPI等は、上場後も1事業年度に対して1回以上の頻度の進捗開示を行うことを意識した上で設定する必要があり、それらの指標を上場後にみだりに変更することは適切ではありません。進捗状況の記載を取りやめることとした事項がある場合は、その旨および理由を記載することが必要です。
なお、事業計画の対象期間については、上場会社各社の事業内容、ビジネスモデルに応じて異なるため、各社において適切な期間を設定する必要があります(設定期間の理由の説明も必要です)。
上場申請会社がターゲットとする具体的な市場の内容(顧客の種別、地域など)および規模を、できる限り信憑性・客観性の高いデータ等(第三者機関が作成したデータを想定)を用いて示す必要があります。なお、TAM(Total Addressable Market)は市場規模を表すデータの一つですが、TAMは広義の市場であり、それのみでは参考にならないことがあるため、その中で、会社が具体的にターゲットとしている市場やアクセスできる市場を示すことが重要です。
出典:東京証券取引所「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示 作成上の留意事項」