最終回 保険業界の未来に向けた論点整理(下)

保険業界が直面するリスクと対応策

4.要因(5):政治的要因

政治的要因として最も特筆すべき論点は、規制強化(標準化、国際化)と自己規律であると考える。本年11月14日に保険監督者国際機構(IAIS)は08年の金融危機以来検討していた国際的な監督の枠組みを採用し、いよいよ保険セクターにおいても国際的な監督が本格稼働する可能性が見えてきた。このような国際規制を支える会計基準や資本規制においても一定の標準化の動きが見られる。

標準化の例として、本連載中の8月20日版で国際資本規制等(浦澤俊雄)、8月27日版9月3日版9月10日版で会計基準の国際化および米国の状況(小玉聡、鈴田雅也、武田泰史郎)を整理している。また、国際化の例としては、9月24日版でAMLを巡る状況(西川嘉彦)、10月1日版でLIBORを巡る状況(石井秀樹)、11月5日版で国際税務を巡る状況(齋木信幸)を取り上げているのでそれぞれ参照いただければと思う。

また、自己規律とは、検査マニュアル廃止後の世界における自己規律を意味している。既に本紙読者の多くの方がご存知の通り、金融庁は検査マニュアルを廃止し、より原則的で実態に即した監督を志向し始めている。これに関連するテーマとして、10月8日版でコンダクトリスクを巡る状況(辻田弘志)、10月23日版で内部監査を巡る状況(駒井昌宏)を整理しているので参照いただければと思う。

5.終わりに

インシュアランス・バナナ・スキン2019では、これまでの連載に挙げたリスク以外にも例えば、サイバーリスクやテクノロジーに関するリスクなど枚挙にいとまがないほどさまざまなリスクが扱われている。それだけ保険業界のチャレンジが広がっているという事だと考えられるが、これらさまざまなリスクへの対応に当たって重要な事を二つ挙げておきたい。

一つはリスクアプローチの徹底である。リスクアプローチをする場合には、その職責によって、1)そもそもリスク自体が発生しないように取引自体を整理する、2)今、存在するリスクに対して軽重付けをする—という面があると考える。2)に着目しがちだが、より上位職階者においては、思い切って1)に踏み切ることが大事ではないか。簡単な例で言えば、キャッシュレス化などはさまざまなリスクを軽減する上で、非常に重要な変革である。

二つ目は業際を跨る人材の育成・活用である。特に業務とIT世界を跨ぐことのできる人材は貴重である。現在、IT技術を使わない変革はないといってもよいくらい、IT技術は日常業務に浸透している。これまで多くの業務経験者を単純作業に投入していたバックオフィスにおいては、積極的に業務をIT化し、業務生産性の高い業務に専門人材をシフトさせることが肝要となる。この場合、業務知識とIT技術を適切に掛け算することが重要であり、どちらの言葉も話すことのできるバイリンガルが極めて重要となる。業際は、この他にも専門業務と海外業務、コンプライアンス業務とリスク管理業務などさまざまなところに存在する。このような領域における人材の育成・活用は経営者にとって極めて重要になっていると考える。

執筆者

宇塚 公一

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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※本稿は、保険毎日新聞2019年12月17日付掲載のコラムを転載したものです。

※本記事は、保険毎日新聞の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

保険毎日新聞 連載寄稿

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