2023-05-25
情報化時代において、IoT、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどの技術が自動車業界のような伝統産業にも浸透し、車両インテリジェンスの新たな発展を促しています。
自動車のドライバーと運転制御とのインターフェースとして重要な役割を果たしているコクピットもデジタル化が進んでおり、デジタルコクピットとして進化を遂げています。このデジタルコックピットの実現に欠かせないのが、ドライバーと自動車をつなぐヒューマンマシンインターフェース(HMI)技術です。
本稿では、自動車業界におけるデジタルコックピットについて、その現状、HMI技術による擬人化、それがもたらすインパクトについて解説します。
デジタルコックピットとは、自動車の操作全般がデジタル化された運転席周りの空間を指します。デジタルコックピットは大量のデータの送信と処理をサポートし、ユーザーは直感的で効率的なインタラクションと完全な自動制御を体験できます。
デジタルコックピットには、IoT、クラウド、AIの技術が搭載され、ネットワークとつながることで、従来のコックピットでは分散されていた機能を総合的に接続できるようになります。
従来コックピットは車速、エンジンの回転数、燃料の状態などを表示するだけでしたが、現在は自然音声認識、障害物感知式速度制限、ヘッドアップディスプレイといった機能が搭載されるなど、革新が進められています。
近年のデジタルコックピット市場の規模の推移をみると、その規模は今後一層の成長を遂げることが見込まれます。
また、世界各国の市場規模を見てみると、アジア太平洋地域は2020年から2025年にかけて世界最大の市場になることが予想されます。
HMI技術は人とデジタルコックピットをつなぐ基本要素となります。
HMIとは、人間と機械の間に位置し、人間から機械へ指示を送り、機械から人間へ結果を送る部分を指します。HMI技術はユーザーのニーズを分析・理解し、利用シーンに組み込むことで、最終的にユーザーエクスペリエンスを向上させることが可能となります。関係する知識範囲は多岐にわたり、コンピュータ関連技術だけでなく、行動心理学、美術デザインなどの知識も必要とされます。
自動車用HMIはハードウェア、ソフトウェアおよびアプリケーションを通じて、ドライバーや乗員と車両や外界とのインタラクションを実現し、音声、タッチ、ジェスチャー、触覚など、さまざまな対話形式をサポートしています。
デジタルコックピットの発展と自動運転の進展は互いに大きな影響を受けており、自動運転レベルと対応するデジタルコックピットの要件はSAE(米自動車技術会)が定義する「自動運転のレベル(SAE J3016)」によって明確化されています。下図の太枠が現在市販中の自動運転車の状態です。
車の運転は自動運転レベルが上がるにつれ、「人」主導から「車」主導へと変化しています。HMI技術の発展により、将来のデジタルコックピットは、人間の五感に相当する機能を有し、人の感情や習慣を理解することで総合的なパーソナライズサービスを提供することができるようになるかもしれません。
デジタルコックピットにおけるHMI技術の運用機能は「視覚」「触覚」「聴覚」「生理センシング」「車両全体の動的状態」の“五感”(図表7参照)に分類することができ、安全で快適な情報提示と操作をもたらします。
ここでは、デジタルコックピットに実装されている“五感”に関わる5つの機能について、以下のとおり紹介します。
視覚技術は車載ディスプレイにも多く利用されています。今後の展開については、ARを取り入れたAR-HUD(ヘッドアップディスプレイ)が注目されており、ARと従来のHUDと組み合わせることで眺望との照合負荷を低減させることができます。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)も将来の自動運転において、人間と機械の対話に役立つでしょう。
触覚(ハプティック)技術とは、パネルやディスプレイを指でタッチした電圧で微振動を発生させ、臨場感あふれる触感を実現する技術です。
将来的には、超音波スピーカーで触覚タッチフィードバックにより、ドライバーはカスタマイズ可能なシンプルなジェスチャーでカーシステムを操作可能です。3次元空間における超音波のオーバーラップの位置をリアルタイムで記録することで、手の位置とジェスチャーを直ちにかつ正確に認識できます。
聴覚技術は、車内での聞き取り(エンターテインメントオーディオとのヒューマンインタラクション)と車外とのインタラクション(アラームを検知する予測精度など)の2種類に分けることができます。
今後精度がさらに上がれば、ドライバーと車両の間でより楽にコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
生理センシング技術とは、ドライバーや乗客の健康状態や精神状態をリアルタイムに測定し、安全を守る技術です。
この技術には数多くのウェアラブル生理センサーが応用されています。今後はユーザーエクスペリエンスの向上や従来のウェアラブルセンサーからの脱却という点でさらなる発展が期待できます。
ドライバーをサポートするため、デジタルコックピットにはドライバーや車両の状況を測定するさまざまなセンサーが搭載されています。
デジタルコックピットのHMI技術が自動車を1つの運転ツールから、人間味のあるデザイン、さらにスマートモバイルスペースへとグレードアップさせ、ユーザーの車内体験を大きく向上させています。
2021年7月のIHS markitの調査結果によると、61.3%の消費者がコックピットのインテリジェントキャビン機能は自動車購入への関心を大きく高めると考えています。デジタルコックピットは買い手にとって、車を購入する際に非常に重要なポイントになっていることが分かります。
技術の進歩や、優れたユーザーエクスペリエンス・ユーザーインターフェースに対して消費者の関心が高まるにつれて、より多くの企業がこの分野に注目しており、これからの市場を牽引していくことが予想されます。
デジタルコックピット市場への大手企業の取り組みを見てみると、多くのメーカーが積極的な姿勢を見せており、関連する人材を大量に採用していることが分かります。大手ネット企業と大手メーカーが手を組み、共同でデジタルコックピットを開発する計画の発表もありました。
デジタルコックピットは自動車メーカーが自身の市場競争力を強化するために注力することが予想され、多額の投資が集まるでしょう。
現状のデジタルコックピットシステムは黎明期にあり、国内外の自動車メーカーやサプライヤーが数年後の量産に向けて開発に着手していることから、デジタルコックピットやオートパイロットの市場は今後ますます成長することが予想されます。当社はPwCグローバルネットワークの世界各国のメンバーとともにオートパイロットシステムの調査や開発を進めております。ご興味のある方はご連絡をいただけますよう、よろしくお願いいたします。
[1] 野澤哲生,2008,『日経BP』,「五感センサ:人と機器が「感覚」を共有へ」,
https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20081120/161525/?P=2
[2] 2022,『日本経済新聞』,「非接触操作に触感、超音波で与える 車内やVRで活用」,
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC286OY0Y2A120C2000000/
[3] 小玉亮, 2016,日本バーチャルリアリティ学会誌,「小型電気自動車とヘッドマウントディスプレイを利用した体感型エンタテインメントシステム」
[4] 潘 為淵, 2015,情報処理学会第77回全国大会,「ヘッドマウンテドディスプレイを用いたドライビングシミュレーションの作成」
X.Shan
PwC US Advisory Shanghai AC
ソフトウェアシステム開発会社を経て現職。Autoに関するPoCに参画、社内管理システム開発経験があり、社内Digital Product(Intelligent Business Analytics Tool)開発チームの運用保守に従事。
(1):テック人材の採用と維持における企業の課題
(2):フィーチャーエンジニアリングとは?
(3):SNSを活用したコロナ禍における人々の心理的変化の洞察
(4):自然言語処理(NLP)の基礎
(5):今、データサイエンティストに求められるスキルは何か?データサイエンティスト求人動向分析
(6):コロナ禍における人流および不動産地価変化による実体経済への影響
(7):「匠」の減少―技能継承におけるAI活用の道しるべ
(8):開示された企業情報におけるESGリスクと財務インパクトの関係性の特定
(9):ビッグデータ分析で特に重要な「非構造化データ」における「コンピュータービジョン(画像解析)」とは
(10):自然言語処理・数理最適化による効率的なリスキリングの支援
(11):スポーツアナリティクスの黎明 サッカーにおけるデータ分析
(12):AIを活用した価格設定支援モデルの検討―外部環境変化に即座に対応可能な次世代型プライシング
(13):MLOps実現に向けて抑えるべきポイントー最前線
(14):合成データにより加速するデータ利活用
(1):ブロックチェーン技術の成熟度モデルとステーブルコインの最新動向について
(2):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」のデジタルツイン構築とデータの管理方法
(3):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」における共通ID「空間ID」と自律移動体の測位技術
(4):G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における空間IDによるドローン運航管理
(1):COVID‐19パンデミック下のオンプレミス環境におけるMLOpsプラクティス
(2):機械学習を用いたデータ分析
(3):AWSで構築したIoTプラットフォームのPoC環境をGCPに移行する方法
(4):テクノロジーの社会実装を高速に検証するPwCの独自手法「Social Implementation Sprint Service」-テクノロジー最前線
(5):自動車業界におけるデジタルコックピットの擬人化とインパクト
(6):成熟度の高いバーチャルリアリティ(VR)システム構築理論の紹介
(7):イノベーションの実現を加速する「BXT Works」とは
(8):Power Platformの承認機能、AI Builderを活用して業務アプリを開発する方
(9):社会課題の解決をもたらす先端テクノロジーとディサビリティ インクルージョンの可能性