テクノロジー最前線 エンジニアリング編(8)

Power Platformの承認機能、AI Builderを活用して業務アプリを開発する方法

  • 2024-04-19

1. 承認機能の自動化による業務効率化に向けて

現在、ローコードおよびノーコードツールを活用することで、従来のシステム開発と比較して高生産性かつ高品質なシステム開発を行うことが可能となってきました。このような利点が広がり、さまざまな業界で積極的に導入されています。この記事ではそのツールの一つであるMicrosoft Power Platform(以下、Power Platform)が持つ承認機能ならびにAI Builderの人工知能機能を活用して業務アプリを開発する方法に焦点を当てます。Power Platformはローコードおよびノーコードのプラットフォームで、業務プロセスの効率化、自動化に最適なツールです。本記事では具体的なステップとベストプラクティスを紹介し、業務向けアプリケーションの開発について詳述します。また、承認プロセスに関わる業務課題を抱えている方々に向けて、AI Builderの活用方法をご紹介します。AI Builderはプログラミングの知識がなくても利用するツールで、承認プロセスの効率化やエラーの削減、作業時間の短縮などのメリットが期待できます。

2.承認機能とAI Builderの概要

2.1 承認機能

Power Automateの承認機能は業務プロセスにおいて重要な役割を果たし、多くの利点を提供します。以下に、承認プロセスの重要性と当該承認機能の利点、適用分野について説明します。

  • 業務における承認プロセスの重要性
    承認プロセスは、ビジネス決定のコントロールと合意の確保、リスクの軽減、アクションやトランザクションの透明性と監査トレイルの提供を通じて、組織のコンプライアンスと規制要件を満たし、さらに自動化によりタスクの処理時間を短縮することで業務効率を向上させます。
  • Power Automate承認機能の利点と適用分野
    Power Automateの承認機能は契約の承認、経費承認、購買申請、休暇申請、ワークフローのステップ承認などさまざまな分野に適用できます。
    Power Automateを使用すると承認プロセスが自動化され効率化されます。これにはリモートワーク環境でのモバイルアクセス、柔軟な設定のカスタマイズ、承認プロセスの透明性を高める通知とリマインダーの管理、およびコンプライアンス要件を満たすための監査トレイルの生成が含まれます。

Power Automateの承認機能を活用し承認プロセスの自動化することで、時間の節約、リスク軽減、透明性の向上が実現でき、組織の効率性を高めることにつながります。

2.2 AI Builder 機能

AI Builderはデータ駆動の意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たし、多くの利点を提供します。以下にAI Builderの機能の重要性とその利点、適用分野について説明します。

  • 業務におけるAI Builderの重要性
    AI Builderは組織内のさまざまな業務プロセスにおいて非常に重要な役割を果たします。そのポイントは下記となります。
    • データ洞察の自動化:AI Builderはビジネスデータからの洞察を自動的に抽出し、適切な意思決定を支援します。これによりデータ分析に要する時間と労力を大幅に削減できます。
    • 意思決定の最適化:AI Builderは市場動向の予測や在庫管理の最適化など、ビジネスの多様な分野での意思決定を支援します。これにより精度の高い戦略的な決定を行うことができます。
    • 効率性と生産性の向上:AI Builderを活用することで業務の効率性と生産性が向上し、従業員はより価値の高い作業に集中できるようになります。
  • AI Builderの利点と適用分野
    AI Builderは下記の利点を提供し、データ分析、市場動向の予測、在庫管理、顧客関係管理、製品開発などさまざまな分野に適用できます。
    • データ駆動の意思決定:AI Builderを使用することでデータから洞察を抽出し、ビジネスの意思決定をデータ駆動にすることができます。これにより、より客観的で正確な意志決定が可能になります。
    • 市場動向の迅速な理解:AI Builderの分析機能により市場動向や顧客の行動を迅速に理解し、それに基づいて適切な施策を策定することが可能になります。
    • カスタマイズと柔軟性:AI Builderは特定のビジネスニーズに合わせてカスタマイズ可能であり、さまざまな業種やビジネスモデルに適用できます。
    • 透明性の向上:AI Builderによるデータ分析はビジネスプロセスの透明性を高め、内部の意思決定プロセスを強化します。

AI Builderの機能を活用することで、ビジネスの効率性を向上させ、データに基づく洞察力のある意思決定を実現できます。これにより、企業の競争力強化と戦略的な成長が促進されます。

4. AI Builder機能の実現:AI Builderによる業務報告データの分析

AI Builderの強力な機械学習機能を用いて業務報告から得られるデータを整理し、重要なビジネス洞察を抽出するプロセスを詳細に説明します。データの準備からモデルの選択、トレーニング、そして分析に至るまでの各ステップを通じて、ビジネスプロセスの効率化と意思決定の質の向上を目指します。このアプローチにより、企業は業務報告データを最大限に活用し、リアルタイムの洞察を得ることが可能となります

  • AI Builder機能の利用の流れ
    • データの準備
      • データ収集:業務報告データをDataverseから収集します。
      • データクレンジング:データクレンジングにより、不完全または不適切なデータを修正または削除し、データセットの質を向上できます。
    • モデルの選択とカスタマイズ
      • 適切なモデルの選択:テキスト分類、意図分析、エンティティ抽出など、業務報告の内容に応じたAIモデルを選択できます。
      • カスタマイズ:ビジネスニーズに合わせてモデルをカスタマイズできます(例: 特定キーワードの識別)。
    • モデルのトレーニング
      • トレーニングデータの準備:ラベル付きサンプルデータを用意します。
      • トレーニングプロセス:AI Builderでデータからパターンを学習するモデルをトレーニングします。
    • 分析と洞察の抽出
      • データ分析:トレーニングされたモデルを使用して新しい業務報告データを分析します。
      • 洞察の抽出:モデルの結果から業務プロセスの問題点や改善領域、トレンドを特定します。
    • 結果の応用
      • 報告の自動化:AI Builderの分析結果を活用して業務報告の内容を自動的に要約し、関連部門に通知します。
      • 意思決定支援:得られた洞察を基に、より情報に基づいた意思決定を行います。例えば、リソースの再配分、プロセスの最適化、または戦略の調整などです。

4.1 要件

AI Builder機能を実現するため、前提条件としてビジネスの要件を定義します。

  • 業務報告プロセスの自動化:
    • テキストデータからのエンティティ抽出とフローの自動化にはPower Automate AI Builderを利用します。
    • カスタムAIモデルの選択とトレーニングは業務報告データに特化して実施します。
  • データ管理:
    • 業務報告データをDataverseに保存し、これを基にプロセスのトリガーを設定します。
  • アプリケーションとの統合:
    • Power Appsを使用して、データの閲覧・分析が可能なユーザーインターフェースを提供します。

4.2 構成図

今回のビジネス要件を実現するための構成図

各要素と役割について

  • Power Automate、AI Builder:AI Builderはテキストデータからエンティティを抽出するために、Power Automateはこのプロセスを自動化するフローを構築するために利用されます。
  • カスタムAIモデルの選択:特定の業務報告データに適したカスタムAIモデルを選択し、エンティティ抽出を行います。
  • 業務報告テーブルとデータの選択:AIモデルによる分析のために関連する業務報告テーブルとその状況データを選択します。
  • モデルのトレーニング:選択されたデータを使ってAIモデルをトレーニングし、エンティティ抽出の精度を高めます。
  • フローの作成:Power Automateを使ってトレーニングされたモデルを統合するフローを作成し、実際のデータに適用します。
  • Dataverseへのデータ保存:AIによるテキスト抽出が完了したら、その結果をDataverseの業務報告テーブルに保存します。
  • テキスト抽出トリガー:Dataverseにデータが保存されるとそれをトリガーにしてテキスト抽出が行われます。
  • Power Appsによるアプリケーションの統合:抽出されたデータを基に、Power Appsを使用してユーザーがインタラクティブにデータを閲覧・分析できるアプリケーションを作成します。

4.3 実現方法

  • 報告データを準備:報告に必要なデータを集め準備します。基本的にはアプリで登録されたデータを利用します。
  • AIモデルでエンティティ抽出のためのカスタムモデルを選択:報告状況のテキストから重要情報を識別し分類するために設計されたカスタムAIモデルを選択します。
  • カスタムモデルで利用する業務報告テーブルと報告状況のデータを選択:カスタムAIモデルで使用する業務報告テーブルと報告状況に関連するデータを特定し選択します。
  • モデルをトレーニング:準備したデータを使用してAIモデルをトレーニングします。これはAIが提供されたデータから学習し、将来の報告書でエンティティ抽出を正確に行うためのプロセスです。

a. 言語選択

b. モデル確認と調整

c. エンティティの調整

d. モデルのトレーニング

  • Power Automate上フローを作成してモデルを利用
    報告状況からのデータ抽出を自動化するためにトレーニングされたAIモデルを組み込んだPower Automateのフローを構築します。

a. 報告状況が追加されたときをトリガーとして設定

b. Dataverseの業務報告テーブルにデータが保存されることをトリガーにして、テキストを抽出

c. 抽出データをDataverseに保存

  • 抽出データをアプリで利用:Dataverseに保存されたデータはPower Appsを通じてさまざまなアプリケーションで使用可能です。ユーザーはPower Appsで作成されたアプリを通じて抽出されたデータを参照、分析し、ビジネスの意思決定に活用できます。

ビジネスの進化に適応した業務プロセス効率化が成長の鍵を握る

  • Power Platformを使用した承認機能とAI Builderの活用
    以上で見てきたように、Power Automateを使用して承認プロセスを自動化し、複雑な手続きを簡素化することで、報告の承認時間を短縮できるほか、モバイルアプリを用いることでビジネスユーザーはいつでもどこでも承認作業を行えるようになるため、業務の迅速化と組織効率の向上が実現できます。また、AI Builderで業務データの分析を自動化し、Power BIと連携して迅速なデータビジュアライゼーションと分析を行うことで、情報に基づいた意思決定が可能になります。AI Builderは、市場トレンドの分析や需要予測などの意思決定を強化し、データ駆動型アプローチでビジネスの迅速な市場対応と競争力向上を支援します。
  • 業務プロセスの効率化と未来への展望
    最近のビジネス環境は常に変化し、進化し続けています。この流れに適応し、さらに一歩先を行くためには、業務プロセスの効率化が鍵となります。Power Platformはその実現のためのツールを提供する統合プラットフォームです。このプラットフォームに含まれるPower BI、Power Apps、Power Automate※を駆使することで、業務プロセスを簡素化し、生産性を飛躍的に向上させることができます。このPower Platformにより、業務効率化はもちろん、未来への確かな一歩を踏み出す準備が整います。革新的なツールでビジネスの可能性を広げ、持続可能な成長を実現しましょう。

PwCはMicrosoft Power PlatformとAI Builderを活用した業務アプリの開発を支援し、企業が業務プロセスを効率化し自動化することを可能にしています。これには、Power Automateを使用したワークフローの自動化、AI Builderを活用したAIを用いた業務プロセスの構築、Power Apps、Power Automate、Dataverse、Teamsを組み合わせたソリューションの開発、そしてAI Builderを活用したデータ分析の支援が含まれます。これらの支援により、企業はデータを深く理解し、ビジネスの意思決定を助け、業務プロセスを一元化し、効率化できるようになります。

本稿では、これらのツールの詳細な説明とそれらを使用するためのステップバイステップのガイドを提供し、ビジネスアプリケーション開発におけるこれらのツールの活用の重要性を強調しました。Power PlatformとAI Builderを活用することで、業務効率化はもちろん、未来への確かな一歩を踏み出す準備が整います。これらのツールによってビジネスの可能性を広げ、持続可能な成長を実現しましょう。

※Power Platform の高度な機能やAI Builderを利用するためには一定のライセンスやService Creditsが必要です。

執筆者

L. Jo
シニアアソシエイト、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
ローコードPF、クラウドシステム、生成AI、ウェブ基盤システム

SIer、国内大手IT事業会社を経て現職。
PwCコンサルティング入社後、大手製造企業でプロジェクトのスクラムマスター兼アーキテクトとして活躍し、Power Platformを活用した開発環境の確立とサポートを牽引。複数のデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトに深く関与し、システムの設計と開発を通じて業務の効率化に大きく貢献。ローコード開発における豊富な知識と実践経験を活かし、企業のデジタル化を推進する上で中核的な役割を担っている。

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