2023-02-21
Technology Laboratoryは、世界各国におけるPwCのさまざまなラボと緊密に連携しながら、先端技術に関する幅広い情報を集約し、製造、通信、インフラストラクチャー、ヘルスケアなどの各産業・ビジネスに関する豊富なインサイトを蓄積しています。PwCはこれらの知見と未来予測・アジェンダ設定を組み合わせ、企業の事業変革、大学・研究機関の技術イノベーション、政府の産業政策を総合的に支援します。
また、最新の3Dビジュアル機器、指向性スピーカー、大型LEDディスプレイやプロジェクションなど、さまざまなテクノロジーを駆使したプレゼンテーションをはじめ、3Dプリンター、レーザーカッター、ロボットアームなど各種アクチュエーターを用いることで、下記項目に準ずるハイスピードな社会実装「Social Implementation Sprint」など、テクノロジーの実装に直接つながるコミュニケーションを誘発します。
さらに、クライアントとの対面の打ち合わせから、アバターを通したやりとり、インターネットによる発信まで、リアルとバーチャルの境界をまたいだコミュニケーションを実践し、新たなイノベーションを誘発するハブとしての可能性を探求しています。そのため、研究施設の3D空間情報の取得と管理が容易なデジタルツインを構築する必要がありました。
本稿では、3Dスキャナーの種類とそれぞれの測量精度の比較、作成した研究施設の3Dデータ、空間情報の管理方法について、順を追ってご紹介します。
近年、LightDetection and Ranging(LiDAR)技術を用いた3Dスキャナーの開発が盛んに進められており、ハードウェア設計から、ソフトウェア面での多数のアルゴリズムの組み合わせなど、さまざまなアプローチによってハードウェアの「廉価性」や「機動性」、ソフトウェアの「性能」を追求した各種製品・サービスが普及しています。しかし、正確な3D空間計測はコストが高く、また機器の使い方など専門的な知識が必要となるため、従来の地上型の3Dスキャナーを用いて3D空間をスキャンするにあたっては外部業者に委託するのが一般的でした。
そんな中、ソフトウェアとハードウェアの技術発展によって、専門的な知識がない人でも簡易に正確な3D空間スキャンができるような製品やサービスが近年相次いでリリースされています。
人が扱う3Dスキャナーは、現在は上の表のとおり機器の特徴によって主に4種類に分類でき、従来の「地上型」3Dスキャナーに加えて、「ウェアラブル型」「ハンディ型」「スマートフォン型」の3Dスキャナーが存在します。「ウェアラブル型」および「ハンディ型」の3DスキャナーはSimultaneous Localization and Mapping(SLAM)技術によりリアルタイムでデータ合成およびその誤差補正を行い、かつMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)によるLiDARの小型化により持ち運ぶように3D空間スキャンができるよう速度が向上しています。「スマートフォン型」3Dスキャナーは最新のスマートフォンに実装されている、Visual Internal Odometry(VIO)技術と光学的なアプローチの超小型LiDARにより、価格面で圧倒的な手軽さを実現しています。
私たちは研究施設の3Dデータを作成し、3D空間情報を管理するための技術を検証するため、上記の4種類それぞれに該当する4機の3Dスキャナーの機能を調査しました。具体的には、当社の研究施設の3D空間をスキャンし、それらの結果を「安価」「機動性」「精度」「速度」「距離」の5項目に従って評価し、最適な用途を取りまとめました。私たちが3D空間を計測する際は、ハイスピードな社会実装「Social Implementation Sprint」で創出したビジネスアイディアと表を照らし合わせ、最適な3D空間スキャンを選んでいます。
建物のデータ化における重要な観点の1つに「計測精度」があります。そこで、それぞれの3Dスキャナーで3D空間をスキャンし、研究施設の各エリアの精度をまとめました。研究施設は無彩色のコンクリートと木のフローリングで構成されており、一部のエリアにはポリゴンの模様が存在します。計測の精度は「木フローリング・ポリゴンあり」が最も高く、データ化する上で最適であるという結果になりました。「黒塗装・ポリゴンあり」の計測精度が低かった理由は、LiDARの対象物の色が暗くなるにつれ、反射率が低くなることに起因すると考えられます。つまり、データの精度と更新頻度を高くする場合、建物は明度の高い色であり、かつ不規則性の高いパターンの内装が適していることを指します。
本研究施設の3Dデータは、上記の3Dスキャナーで取得した高精細なデータを元に作成しているため、実際の研究施設との寸法にズレがほとんど生じませんでした。また、1階から2階へつながる階段が研究施設内にあることから、3D空間情報の可視化やルートの生成など、さまざまな用途の検証に利用できます。加えて、ライティングをベイク*1することで内観のクオリティを落とさず、現在主流の各メタバースプラットフォームのワールドとして活用できる程度に軽量化しました。添付のアニメーションGIFはメタバースの検証で、ユーザーが3Dアバターを操作して3Dデータの施設内の階段を登り、1階から2階を移動している様子です。最後に、本施設の内装やセンサー、3Dアバターなどの複数の異なる3D空間情報を管理する上で欠かせない「空間ID」をご紹介します。
空間IDとは、3D空間情報を一意に管理するIDを指します。本研究施設やモビリティ、入館証には各種センサーが導入されており、さまざまなPoCを実施するため、位置情報や気温、湿度、二酸化炭素などの3D空間情報を共通の空間IDで管理しています。添付アニメーションGIFのオレンジ色のボクセル*2は約2メートル四方の空間IDの範囲、白色のフォグは位置が静的な気体情報、3Dアバターは位置が動的な人の位置情報を表しており、ゲームエンジン上で対象の空間IDに属する3Dデータのみを取得して可視化しました。ただし、複雑な屋内環境で動き回る移動体を可視化するには、さらに高精度な位置の管理が必要です。
空間IDを管理するには、現状は下記の2種類の方法が存在します。基本的には、3D空間情報を他のプラットフォームへ容易に共有可能な「1」で対応可能ですが、位置や向き、大きさの共有において高い精度や更新頻度が求められる場合は「2」を採用することで解決できます。
私たちは今後も3D空間情報の管理方法の統一化に向け、PwCグローバルネットワークの海外拠点メンバーとともに研究施設の最新機器や技術を使用した検証を進めてまいります。ご興味のある方はご連絡をいただけますよう、よろしくお願いいたします。
*1 光と影の情報を事前にテクスチャに書き込むことで描画計算を減らす作業
*2 ボリューム(Volume)とピクセル(Pixel)を合わせた造語であり、3D表現に用いられる小さな立方体の最小単位。空間IDのボクセルは高さの異なる直方体のケースが存在します。
S. Yanagisawa
マネージャー、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
AR(Augmented Reality)、VR(Virtual Reality)、XR(Extended Reality)、3D空間情報(空間ID)、メタバース
ARに特化したソリューション開発企業のAR App Developerや、メガベンチャー企業のXR Research Engineerを経て、PwCコンサルティング合同会社に入社。服飾学校の特別講師。スマートグラスやVRデバイスを活用した企画から研究、概念実証、サービス開発まで一貫したXR分野に関する経験を豊富に有し、直近は3D空間情報やメタバースに関する研究開発に携わる。
T. Sasaki
ディレクター、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
3D空間情報、ドローン、モビリティ、メタバース、デジタルテクノロジー事業戦略・構想策定
総合商社系大手ITソリューションサービス企業に入社後、外資系コンサルティング、大手会計系監査法人を経て現職。情報通信・ハイテク・メディアエンターテイメントなどさまざまな業界の大手企業に対し、成長戦略の立案・実行支援やIT戦略立案・実行支援を提供。 PwCコンサルティングに入社後は、アナリティクス関連サービスの企画立案とコンサルティングサービスを提供。専門領域は3D空間情報(空間ID)、ドローン、空飛ぶクルマ、メタバースなどのデジタル技術活用戦略、スマートシティ、OMO、デジタル化時代における働き方の変革、RPA企画・導入推進などの分野でアドバイザリーに従事し、社外を含むデジタル関連のセミナーにも登壇している。
T. Nagashima
ディレクター、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
エマージングテクノロジー
大手システムインテグレーション会社を経て、2012年にPwCコンサルティングに入社。十数年にわたりIT/デジタル領域のコンサルティング業務に従事しており、IT/デジタル戦略策定、データ戦略策定、ガバナンス策定、ロードマップ策定、システム開発、大規模システム構築におけるPgMO/PMO、PMI、BCP、業務改革など、IT/デジタル領域において幅広い専門性を有する。近年は主にメタバース、XR、IoT/デジタルツイン、ブロックチェーンなどの先端テクノロジーを活用した新規事業の計画策定や本格展開に係るコンサルティングサービスを提供している。
(1):テック人材の採用と維持における企業の課題
(2):フィーチャーエンジニアリングとは?
(3):SNSを活用したコロナ禍における人々の心理的変化の洞察
(4):自然言語処理(NLP)の基礎
(5):今、データサイエンティストに求められるスキルは何か?データサイエンティスト求人動向分析
(6):コロナ禍における人流および不動産地価変化による実体経済への影響
(7):「匠」の減少―技能継承におけるAI活用の道しるべ
(8):開示された企業情報におけるESGリスクと財務インパクトの関係性の特定
(9):ビッグデータ分析で特に重要な「非構造化データ」における「コンピュータービジョン(画像解析)」とは
(10):自然言語処理・数理最適化による効率的なリスキリングの支援
(11):スポーツアナリティクスの黎明 サッカーにおけるデータ分析
(12):AIを活用した価格設定支援モデルの検討―外部環境変化に即座に対応可能な次世代型プライシング
(13):MLOps実現に向けて抑えるべきポイントー最前線
(14):合成データにより加速するデータ利活用
(1):ブロックチェーン技術の成熟度モデルとステーブルコインの最新動向について
(2):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」のデジタルツイン構築とデータの管理方法
(3):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」における共通ID「空間ID」と自律移動体の測位技術
(4):G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における空間IDによるドローン運航管理
(1):COVID‐19パンデミック下のオンプレミス環境におけるMLOpsプラクティス
(2):機械学習を用いたデータ分析
(3):AWSで構築したIoTプラットフォームのPoC環境をGCPに移行する方法
(4):テクノロジーの社会実装を高速に検証するPwCの独自手法「Social Implementation Sprint Service」-テクノロジー最前線
(5):自動車業界におけるデジタルコックピットの擬人化とインパクト
(6):成熟度の高いバーチャルリアリティ(VR)システム構築理論の紹介
(7):イノベーションの実現を加速する「BXT Works」とは
(8):Power Platformの承認機能、AI Builderを活用して業務アプリを開発する方
(9):社会課題の解決をもたらす先端テクノロジーとディサビリティ インクルージョンの可能性