テクノロジー最前線 エマージングテクノロジー編(4)

G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における空間IDによるドローン運航管理

  • 2024-03-04

Summary

PwCコンサルティング合同会社(以下、「PwCコンサルティング」)は、空間IDが提唱された当初からその社会実装の推進に向けてサポートし、市場調査や事業戦略といったビジネスモデルの構築などのコンサルティングに加え、エンジニアリングのケイパビリティを有しています。

2023年4月28日~30日に開催されたG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合に伴う「デジタル技術展」に参加し、3次元空間情報を活用する日本発の先進的取り組みである「空間ID」を体感できるブースを展示しました。

本稿では、空間IDの技術的な特徴、空間IDによって実現可能となる人とモビリティの空間共有についてご紹介します。

空間IDの技術的な特徴

Ouranos Ecosystemにおける取り組みの成果物として、4次元時空間情報基盤 共通ライブラリ「Ouranos GEX」が公開されています*3

「Ouranos GEX」を活用することで3次元座標(緯度、経度、標高)とズームレベルから空間IDに変換することが可能となります。

画像2:空間ID、ボクセルへの変換の事例

画像2 空間ID、ボクセルへの変換の事例

画像2に示すように、任意の3次元座標とズームレベル16を指定することで指定した場所に1辺約600m*4のボクセルを表示した後、ズームレベルを一つ増した17を指定すると、ズームレベル16のボクセルを8分割した1辺約300mのボクセルが表示されます。

画像3:航路の空間ID、ボクセルへの変換の事例

画像3 航路の空間ID、ボクセルへの変換の事例

画像3では、始点と終点の3次元座標とズームレベルを指定することで、標高で指定した上空400mにボクセルの経路を表示しています。空間IDは経路情報からも変換が可能です。

これまで課題となっていた3次元空間情報の活用時の膨大なデータ処理は、空間IDを活用することで点群ではなくボクセルとして流通し、簡素化したデータとして処理性能の低いシステムやデバイスでも利用できます。

また、データの簡素化以外の特徴として、多種多様な空間情報を共通の仕組み・ルールである空間IDをキーとして重ね合わせることが可能です。

画像4:建物情報、交通情報を重畳することで可能となるドローン航路評価の事例

画像4 建物情報、交通情報を重畳することで可能となるドローン航路評価の事例

大手町周辺を空間IDに紐づいたボクセルで表示

  • 青色:建物情報
  • オレンジ色:ドローン飛行の始点、終点となる建物情報
  • 灰色:規制情報などを含めた交通情報
  • 緑色:最短距離として想定されるドローン航路
  • 赤色:飛行不可の空域情報を加味した最適なドローン航路

画像4は東京大手町周辺を示しており、建物情報は青色とオレンジ色のボクセル、規制情報などを含めた交通情報は灰色のボクセルで表示しています。

2箇所にあるオレンジ色のボクセルの建物間でドローンの航路を検討する場合、独立していた建物情報と交通情報、航路情報を空間IDを活用することで統合し、飛行不可の空間として定義することが可能となります。通常最短のルートと想定される緑色のドローン航路は、交通情報と重畳しているため、見直しが必要となります。赤色のドローン航路は他の情報と重畳していないことから、最適なルートであると評価できます。

ドローンの安全な飛行を実現するには、建物などの地物情報や規制情報、気象情報など多くの情報を取得することが必要です。空間IDを活用して各データを統合し、管理・使用することで、最適な航路選定を実現できます。

「デジタル技術展」の概要と出展背景

最後に、デジタル・技術大臣会合における空間IDのデモンストレーション(デモ)をご紹介します。

G7広島サミットに合わせ、デジタル分野をテーマとした「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」に伴う「デジタル技術展」が2023年4月28日(金)~30日(日)の3日間、群馬県高崎市にて開催されました。

PwCコンサルティングは国立研究開発法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるデジタル・技術大臣会合への出展依頼を承諾する形で、「空間ID」のプロトタイプを展示*5しました。

画像5:高崎におけるデモ風景

画像5 高崎におけるデモ風景

当日は河野デジタル大臣を始めとする国内外の官僚や、最新技術を扱う事業者の方に体験をしていただき、多くの反響を得ました。

画像6:河野デジタル大臣(左)、経済協力開発機構(OECD)の各官僚(右)

画像6 河野デジタル大臣(左)、経済協力開発機構(OECD)の各官僚(右)

展示の内容

本展示物は、大手町のTechnology Laboratoryにある電動車椅子、高崎の会場にあるドローン、VRヘッドセットを装着した体験者にそれぞれ空間IDを振って、Technology Laboratoryのデジタルツイン*6上で管理しました。大手町と高崎は物理的に120キロ離れていますが、デジタル空間上では車椅子、ドローン、体験者の全てが同じデジタルツイン上で共存しています(画像7)。

画像7:デジタルツインの俯瞰視点(左)、大手町のTechnology Laboratoryにおけるデモ風景(右)

画像7 デジタルツインの俯瞰視点(左)、大手町のTechnology Laboratoryにおけるデモ風景

俯瞰視点の各色は占有空間を空間IDに紐づいたボクセルで表現

  • 青色:電動車椅子
  • 緑色:ドローン
  • 赤色:体験者

高崎にある実機のドローンが上昇すると同時に、デジタル空間内で車椅子の走行ルートを塞いでいたドローンも上昇します。ドローンが存在する空間ボクセルと車椅子の運航予定ルート上の空間ボクセルがぶつかってしまっていたために車椅子は停止していました。次にドローンを上昇させることで、車椅子の走行ルートとの空間の重なりが解消されたと判断し、大手町にある車椅子は前進を開始しました(画像8)。

画像8:高崎における体験者の視点

画像8 高崎における体験者の視点

その後、車椅子は体験者の身体の動きに合わせて動くアバターが存在する空間ボクセルを迂回しながら、目的地へ向かって走行しました(画像7)。

以上の実証は空間IDの普及に向けた取り組みであり、PwCコンサルティングは他にも3次元空間情報関連のさまざまな課題に対するソリューションを提供しています。

PwCコンサルティングは今後も実証実験や関連ソリューションの開発を通じて、空間IDの社会実装の推進に貢献していきます。

*1 Ouranos Ecosystem
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/ouranos.html

*2 経済産業省や情報処理推進機構では4次元時空間情報基盤として用いられているが、3次元空間情報に時空間を一つにまとめた名称となる

*3 4次元時空間情報基盤 共通ライブラリ「Ouranos GEX」
https://github.com/ouranos-gex

*4 空間ボクセルのサイズは「4次元時空間情報基盤アーキテクチャ ガイドライン(β版)」P.20に記載
https://www.ipa.go.jp/digital/architecture/project/autonomousmobilerobot/3dspatial_guideline.html

*5 PwCコンサルティング、G7デジタル・技術大臣会合に伴い、日本発の先進的取り組みとなる空間IDを体感できるブースを出展
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/3d-spatial-information230428.html

*6 3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」のデジタルツイン構築とデータの管理方法
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/technology-front-line/vol14.html

執筆者

O.Shiori
シニアアソシエイト、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
インフラ、VR(Virtual Reality)、メタバース、空間情報

日系SI企業のインフラエンジニアを経て、現職。
自治体、教育機関の大規模システム構築のPMやシステム設計を複数提案。PwCコンサルティング入社後は、デジタルプロダクトの構築・開発などに従事。直近は3D空間情報やVR、メタバースなど先端技術に関する研究開発に携わる。

S. Yanagisawa
マネージャー、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
AR(Augmented Reality)、VR(Virtual Reality)、XR(Extended Reality)、空間情報、メタバース

ARに特化したソリューション開発企業のAR App Developerや、メガベンチャー企業のXR Research Engineerを経て、PwCコンサルティングに入社。スマートグラスやVRデバイスを活用した企画から研究、概念実証、サービス開発まで一貫したXR分野に関する経験を豊富に有し、直近は3D空間情報やメタバースに関する研究開発に携わる。

T. Sasaki
ディレクター、PwCコンサルティング合同会社
専門分野・担当業界
3D空間情報、ドローン、モビリティ、メタバース、デジタルテクノロジー事業戦略・構想策定

総合商社系大手ITソリューションサービス企業に入社後、外資系コンサルティングファーム、大手会計系監査法人を経て現職。情報通信・ハイテク・メディアエンタテイメントなどさまざまな業界の大手企業に対し、成長戦略の立案・実行支援やIT戦略立案・実行支援を提供。 PwCコンサルティング入社後は、アナリティクス関連サービスの企画立案とコンサルティングサービスの提供に従事。専門領域は3D空間情報(空間ID)、ドローン、空飛ぶクルマ、メタバースなどのデジタル技術活用戦略、スマートシティ、OMO、デジタル化時代における働き方の変革、RPA企画・導入推進などで、社内外のデジタル関連セミナーにも登壇している。

テクノロジー最前線―先端技術とエンジニアリングによる社会とビジネスの課題解決に向けて

データアナリティクス&AI編

(1):テック人材の採用と維持における企業の課題
(2):フィーチャーエンジニアリングとは?
(3):SNSを活用したコロナ禍における人々の心理的変化の洞察
(4):自然言語処理(NLP)の基礎
(5):今、データサイエンティストに求められるスキルは何か?データサイエンティスト求人動向分析
(6):コロナ禍における人流および不動産地価変化による実体経済への影響
(7):「匠」の減少―技能継承におけるAI活用の道しるべ
(8):開示された企業情報におけるESGリスクと財務インパクトの関係性の特定
(9):ビッグデータ分析で特に重要な「非構造化データ」における「コンピュータービジョン(画像解析)」とは
(10):自然言語処理・数理最適化による効率的なリスキリングの支援
(11):スポーツアナリティクスの黎明 サッカーにおけるデータ分析
(12):AIを活用した価格設定支援モデルの検討―外部環境変化に即座に対応可能な次世代型プライシング
(13):MLOps実現に向けて抑えるべきポイントー最前線
(14):合成データにより加速するデータ利活用

エマージングテクノロジー編

(1):ブロックチェーン技術の成熟度モデルとステーブルコインの最新動向について
(2):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」のデジタルツイン構築とデータの管理方法
(3):3次元空間情報の研究施設「Technology Laboratory」における共通ID「空間ID」と自律移動体の測位技術
(4):G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における空間IDによるドローン運航管理

エンジニアリング編

(1):COVID‐19パンデミック下のオンプレミス環境におけるMLOpsプラクティス
(2):機械学習を用いたデータ分析
(3):AWSで構築したIoTプラットフォームのPoC環境をGCPに移行する方法
(4):テクノロジーの社会実装を高速に検証するPwCの独自手法「Social Implementation Sprint Service」-テクノロジー最前線
(5):自動車業界におけるデジタルコックピットの擬人化とインパクト
(6):成熟度の高いバーチャルリアリティ(VR)システム構築理論の紹介
(7):イノベーションの実現を加速する「BXT Works」とは
(8):Power Platformの承認機能、AI Builderを活用して業務アプリを開発する方
(9):社会課題の解決をもたらす先端テクノロジーとディサビリティ インクルージョンの可能性



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